(後編)100年企業の銘建工業が描く“次の戦略”【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)100年企業の銘建工業が描く“次の戦略”【遠藤日雄のルポ&対論】

中編からつづく)今年(2024年)で創業から101年目に入っている銘建工業(株)(岡山県真庭市)は、ここ約20年間でも事業規模を着実に拡大している。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が初めて同社の本社工場を訪ねた2006年時点の構造用集成材生産量(製品出荷ベース)は29万m3だった。それが現在は35万m3に増加しており、年間の原木消費量は80万m3に達している。社員数も約200名から300名を超える大所帯になった。全国に先駆けてCLT(直交集成板)の量産工場を立ち上げ、木質バイオマス発電事業なども積極的に手がける同社の存在感は益々高まっている。
だが、同社の中島浩一郎・代表取締役社長は、遠藤理事長との「対論」を通じて、何度も「切り口を変えたい」と口にした。「今の延長線上でやっていても生き残れない」と強調する中島社長が思い描く新たな「切り口」とは何か。遠藤理事長が真意を聞く。

「木を使えば環境にいい」と言っているだけでは認められない

遠藤理事長

企業に対して脱炭素やSDGsなどの環境配慮を求める声が強まっている。その中で、再生可能な資源を利用している林業・木材産業は、比較的優位なポジションにあるとみられているが、中島社長はそう考えないのか。

中島社長

「木を使えば環境にいい」というのは非常に単純な考え方だ。もう時代は変わってきている。例えば、環境意識の高い欧州の一部では、薪ストーブの使用を止めようという動きが出ている。

遠藤

薪ストーブは、エコな暖房器具として人気があるのではないか。

中島

この5年くらいで状況が変わってきた。薪に含まれている水分が多いと不完全燃焼になるケースがみられるほかに、そもそも木をいきなり燃やすという使い方に疑問を持つ人が増えてきている。
木が再生可能な資源であることは事実だが、できるだけ長く使った後に燃料として利用するというのが本来の使い方だ。最終的な廃棄の仕方も含めて、ライフサイクル全体で環境に負荷を与えない利用方法を追求していかなければならない。
鉄やコンクリートなどの分野では、再利用率を高めるための研究開発が盛んに行われ、実績も出てきている。「木を使えば環境にいい」と言っているだけでは、社会的に認知されない時代になってきている。

海外市場の開拓が不可欠、台湾とのパイプを他国にも広げる

遠藤

今までのビジネスのやり方や考え方を根底から見直す必要があるということか。では、銘建工業として今後に向けた突破口はどこに求めているのか。

中島

国内の住宅市場は縮小していくので、海外市場の開拓にさらに力を入れていきたい。製品の品質や性能を高めていけば、海外に輸出しても十分な競争力を持てる。
新たな試みとして、一昨年から米国へ住宅部材を輸出しており、現地の顧客からは好反応をいただいている。今後も継続していく方針だ。

遠藤

そういえば銘建工業は、いち早く2018年に台湾へ国産ヒノキでつくったCLTを輸出して話題になった*1。その後はどうなっているのか。

中島

台湾とは、ここ6~7年間で相互交流を深めており、勉強会や現地見学会などを重ねている。今年も台湾から10人以上の技術者が来日しており、パイプが太くなってきた。これを他の東南アジア諸国にも広げていきたい。

遠藤

台湾での市場開拓が先行している理由は何か。

中島

台湾で主に使われている木材製品は、日本のJAS(日本農林規格)にも準拠しており、相性がいい。
これに対して、米国や欧州では、それぞれ独自に構築している規格を取得しないと実質的に参入することが難しい。

国産材を使ったCLT(画像提供:銘建工業)

CLTの輸出拡大へ欧州の規格を取得、スギの軽さを活かす

遠藤

国内でつくった2×4(ツーバイフォー)材を輸出する際も、北米の規格取得が不可欠であり、ようやく4月にヒノキ2×4材の設計強度が米国製材規格委員会(ALSC)から認可された*2。このような取り組みをもっとテンポアップして強化していかなければならないだろう。

中島

東南アジアでも2×4材については北米の規格がスタンダードになっている。また、CLT・集成材については、欧州規格の製品が広く流通しており、世界標準になりつつある。そこで、当社は、CLTに関する欧州の規格を取得した。

遠藤

銘建工業単独で欧州の規格を取ったのか。大変だったのではないか。

中島

時間も費用もかかったが、今年3月の国産ヒノキCLTに関する欧州認証を取得することができた。これを足がかりにして、CLTの輸出を本格化させていきたい。
とくに、東南アジア諸国は、森林はあるものの建築用に使える木は限られているので、市場開拓の余地が大きい。

遠藤

国内人工林の代表樹種であるスギを使った製品の輸出可能性はどうみているか。

中島

スギの最大の良さは、軽さだ。軽くて、それなりに強いという特長を活かした製品を開発して、供給力を高めていけば、大いに可能性はある。軽さは輸送面でメリットになり、より遠くの国や地域にも売り込んでいきやすくなる。

地域を活かす分散型生産システムの確立へ、インフラ整備を

遠藤

輸出を主軸に据えた海外戦略は、かなり明確になってきた。一方、国内戦略についてはどう構想しているか。

中島

国内工場の大型化が進んでいるが、それとは別に各地にある工場がどうやって生き残っていくかをよく検討しなければならない。林業・木材産業のあり方は地域によって異なるので、分散型の生産システムができないかと考えている。

遠藤

銘建工業の本社がある真庭市は、地域ぐるみで木質バイオマス発電事業を行っており、岡山大学と協定を締結して「林業・木材・木造建築教育・研究ゾーン」の創設にも取り組んでいる。全国的にもモデルになり得るのではないか。

中島

当事者としては、まだ道半ばというところだが、地域の関係者が揃って参画し、利用できるようなインフラができるといい。小さくても元気な企業はたくさんあるので、それぞれの連携や交流を深めながら新製品や新しいサービスの開発につなげていくことが欠かせない。

遠藤

そうした取り組みを加速化していくことはできるか。今後の見通しについて聞きたい。

「切り口を変えたい」と語る中島浩一郎・銘建工業社長
中島

4年前に岡山大学の工学部と環境理工学部が再編・統合されて新しい工学部が発足し、木造を含めた建築教育プログラムが新設された。これを記念して大講義室と研究スペースを有する木造2階建ての「岡山大学共育共創コモンズ」が建設され、2023年度の木材利用優良施設コンクールで内閣総理大臣賞に選ばれた。*3
こうした動きは、従来はみられなかったものであり、新たな「切り口」につながるヒントを与えてくれるものだ。森林・林業・木材産業に対して、業界外や異業種からの関心が高まっていることの表われでもある。
これを私達がどう受け止め、活かしていくかが問われていると言えるだろう。

(2024年5月24日取材)

(トップ画像=地域ぐるみで運営している真庭バイオマス発電所、画像提供:銘建工業)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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