(中編)100年企業の銘建工業が描く“次の戦略”【遠藤日雄のルポ&対論】

(中編)100年企業の銘建工業が描く“次の戦略”【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)100年企業の銘建工業(株)(岡山県真庭市)を率いる中島浩一郎・代表取締役社長は、「年間約80万戸という新設住宅着工戸数が20年もしたら50万戸に減ることは目に見えている」と断言し、「今の延長線上ではない発想が必要だ」と危機感を隠さない。
1923年に創業した同社は、1990年代後半に世界で初めてオウシュウアカマツを使った構造用集成材の商品化に成功し、バイオマス発電事業や木質ペレットの生産などにも事業領域を広げた後、2016年3月には国内初となるCLT(直交集成板)の量産工場を稼働させた。次々と新機軸を打ち出し、軌道に乗せてきた同社の歩みには輝かしいものがある。
だが、中島社長の口から過去の成功体験が語られることはない。常に先を見据え、「いま何をすべきか」を自らに問い続ける姿勢は一貫している。そんな中島社長に、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、延長線上ではない新たな“解”を求めて、問いを投げかけていく。

世界的に木材需給がひっ迫していく基調は全く変わってない

中島社長と遠藤理事長(当時は鹿児島大学教授)は、2006年2月に銘建工業の本社工場で初めて「対論」をしてから1年半後の2007年7月にも同じく本社工場で再会している。当時、同社はスギの使用を本格化させており、高知県大豊町と熊本県あさぎり町に工場を立ち上げる構想を発表するなど、“国産材シフト”を鮮明にさせていた。

銘建工業本社工場でスギ集成材の仕上がり具合をチェックする2人(2007年7月23日撮影)
遠藤理事長

銘建工業が集成材の原料にスギを本格採用したことは、国産材業界に大きな影響を与えた。戦後造成してきた人工林が商業ベースで利用可能になったことが内外に示され、大型工場の新設など設備投資が活発化していった。あのとき、中島社長は、「これからは輸入材を大事に使わせてもらう時代になる」と予言していたが、そのとおりになった。

中島社長

世界的に木材需給がひっ迫していくという基調は、当時も今も全く変わっていない。世界の人口は増え続けており、木材消費量も伸びている。その中で、原木(丸太)を安定的に確保して木材加工工場を持続的に経営していくためにはどうすればいいか、ビジネスモデルを根本的に見直していく必要がある。

米国市場を睨みアルゼンチンにも大型工場、規模拡大が進展

遠藤

中島社長は、海外の最新事情にも精通しているが、参考になる事例はあるか。

中島

米国のように住宅需要が伸びている国では、工場の規模を大きくして生産性を高めるというトレンドが続いている。最近、現地に行って驚いたのは、製材品がほとんどグリーン(未乾燥)で出荷されていることだ。日本とは気候条件が違うこともあるのだろうが、KD(人工乾燥)などはせずにどんどん生産量を増やし、加工過程で出てくるチップは製紙用に販売する経営スタイルを徹底していた。
また、南米のアルゼンチンに初めて建設された大型工場を視察する機会もあった。テーダマツを大量に製材して米国に出荷していた。

遠藤

アルゼンチンにも大型工場ができているのか。米国内で稼働している工場との違いはあるか。

中島

アルゼンチンの大型工場は、欧州で普及しているLinch社(ドイツ)の製材システムを導入していた。米国とは違ってパルプ工場が近くにないので、製紙用チップはつくっておらず、板類は梱包材にして世界各地に輸出し、端材などは乾燥・粉砕してペレットに加工していた。

遠藤

欧州の工場も大規模化が進んでいるようだ。

中島

そのとおりだが、単純な規模拡大ではなく、原木を有効利用するための条件を整えている。とくに、製紙用チップの価格が非常に高い。日本とは全く違う。欧州の関係者からは、「日本のチップは安すぎる」とよく指摘される。

フィンランドで稼働している大型工場の内部(画像提供:銘建工業)

あるものを使い切り、あるものから新しい価値をつくり出す

遠藤

日本の場合は、製材は製材、合板は合板、チップはチップなどと業態が分かれていて、利害が対立することも多い。このため、トータルで木材の利用率などを高めることが難しくなっている。

中島

日本でスギの原木価格に一番影響力を持っているのは合板メーカーだろう。消費量が多いこともあって、合板工場の買取価格が製材工場や集成材工場にとっても先行指標になっている。
一方、欧州では、マーケットの中で製材工場などのポジションがきちんと確立されていて、原木の買取価格も一定の水準を維持している。
単純比較はできないが、欧州では業界全体で原木や木材製品の価値を高めようという方向性がはっきりしていると感じる。

遠藤

中島社長は、以前から「製材品と集成材は同じ」と言っていた。品目ごとの違いに縛られすぎると、効率的な木材利用につながらないという考えからか。

中島

製材品も集成材も加工方法は同じだ。原木を帯鋸や丸鋸で挽き板や挽き角にして利用している。集成材は、加工した板材(ラミナ)を積層・接着したもので、CLTも同様だ。つまり、集成材もCLTも製材品の一形態であり、その観点から歩留まりを高めていくことを考えるべきだ。木材は何でも使おうと常に考えているし、「あるものを使い切り、あるものから新しい価値をつくり出す」ことを基本にしていきたい。

将来に向けた希望が見えないから新規設備投資が行われない

遠藤

銘建工業は、チップなどの木質バイオマスを燃料にした発電事業やペレット生産なども行っており、本社を置く真庭市では地域全体で木材を活用する取り組みが進んでいると聞いている。1つのモデルができたと言えるのではないか。

中島

外からはそう見えるかもしれない。だが、まだまだ持続可能な状況ではない。
私は、(株)勝山木材市場(真庭市)の社長も兼務しており、地域材を加工した製品の集荷・販売を行っているが、率直に言って経営状況は厳しい。一番売り上げが多かった1980年頃の年商は100億円くらいあったが、この3月期は約13億円にまで減少した。
かつては、お客さんが寄ってくるような状況だったが、4月に開いた記念市には20数人しか集まらなかった。これでは、競りをやっても成立しない。市場の機能が必要なくなったわけではなく、継続したいのだが、新たな機能を持たない限り、このままではいずれ存続が難しくなるだろう。若いメンバーらと検討を重ねているところだ。

勝山木材市場(同市場のウェブサイトより)
遠藤

歴史のある勝山木材市場でも、そんなに集客力が落ちているのか。

中島

真庭市には、まだ30くらいの製材工場があり「木のまち」と言える。今回のウッドショックで、利益を上げた工場も少なくない。ところが、新規設備投資がほとんど行われていない。
なぜ投資をしないのかと言えば、将来に向けた希望が見えないからだ。今の事業を続けていける確信が掴めないし、後継者不足も深刻になっている。

遠藤

後継者不足は、全国各地で他の産業でも大きな悩みになっている。その中で、再生可能な資源をベースにしている林業・木材産業は成長の可能性があると見られることもあるが。

中島

そのようなポテンシャルは確かにあるが、単純に「木を使っているから環境にいい」とは言えなくなっている。認識を新たにした方がいい。(後編につづく)

(2024年5月24日取材)

(トップ画像=銘建工業が世界で初めて商品化したオウシュウアカマツの集成材、画像提供:銘建工業)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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