(前編)“山”をどうやって動かすか―「森林シューセキ!事例報告会」のポイント

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(前編)“山”をどうやって動かすか―「森林シューセキ!事例報告会」のポイント

日本林業の成長力を高めるためには、小規模で分散している森林(私有林)を集積して規模を拡大し、作業の効率性などを高めていくことが欠かせない。2019年度から森林経営管理制度がスタートし、集約化施業の推進などによって“山”を動かす取り組みが各地で始まっているが、その現状はどうなっているのか。2月21日に東京都内で開催された「森林シューセキ!事例報告会」(林野庁主催)の中から、先進的な事例を紹介する。

外部委託や立会確認撤廃などで境界明確化が8倍に―白神森組

秋田県能代市に本所を置く白神森林組合は、境界明確化事業を効率化する新たな手法について発表した。

同組合の地元・能代市では中国木材(株)(広島県呉市)の大型製材工場が2024年度から稼働を始める準備を進めている。新工場が動き出すと、県内の素材生産量の約2割に相当する増産が必要とされており、施業地をとりまとめて事業量を拡大し、県産材の供給力を高めることが急務となっている。そのためには、施業地集積の前提となる境界の明確化をテンポアップしていかなければならない。

こうした状況の中で、同組合は、能代市等から境界明確化事業を受託した。同組合の従来の方法では、年間50ha程度の境界明確化が限度だったが、この“壁”を乗り越えるため、今年度(2022年度)から新たな手法に切り替え、業務フローをトップ画像のように改めた。

見直しのポイントは2つ。1つは、公図配置図の編集作業を(株)パスコ(東京都目黒区)にアウトソーシング(外部委託)し、同組合のマンパワー不足などをカバーして効率化を図った。もう1つは、航空レーザ計測と高い測量精度を持つRTK-GNSSを用いて森林境界保全図(案)を作成し、事業説明会での同意を経て境界の立ち会い確認を撤廃した。この手法にシフトしたことで、境界明確化の実績は約8倍の415haに増加したという。

同組合の佐藤恒人・森林づくり課課長補佐は、「今後も限られた人員で効率的に境界明確化を進める方法を考えていきたい」と話している。

林務担当部署が成果資料提供、地籍調査面積1.5倍―神山町

徳島県の神山町は、境界明確化事業と地籍調査の担当部署が連携して作業を効率化している取り組みを発表した。

境界明確化事業では、所有者同士が土地の境界を確認し合意形成を行う。一方、地籍調査は行政が行い、土地の位置や形状などを測量して地籍図・地籍簿を作成する。地籍調査が完了した場所では境界明確化事業は実施する必要がないので、行政主導で地籍調査をいかにスピーディに進めていくかが森林の集積化等に直結する。

そこで同町では、林務担当部署から地籍調査担当部署に、境界明確化事業の成果資料を積極的に提供した。これによって、地籍調査の一部の工程が省略でき、年間の地籍調査実施面積が1.5倍に増加した。

提供した資料は、調査素図、所有権界に設置した境界杭の測量データ、GPS観測図、測量図、森林境界調査票、委任状など。

異なる部署間で資料を提供する場合、とくに個人情報の取り扱いには細心の注意が必要となる。この点について、同町の栗飯原正博・産業観光課課長補佐は、同町個人情報保護条例第8条や森林法第191条の2などを資料提供の根拠に挙げ、「境界明確化事業の成果を地籍調査に活かすべく、必要に応じて地籍調査担当部局への資料提供を行うと記されている」と説明した。

さらに、今後に向けて、「境界明確化事業の測量精度や実施速度の向上とともに、調査仕様書の共通化などを行い、地籍調査の効率化につなげていきたい」との考えを示した。(後編につづく)

(2023年2月21日取材)

(トップ画像=白神森林組合の境界明確化に関する業務フロー図)

『林政ニュース』編集部

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