山元への“接近力”を強めて次世代型流通を目指すナイス【突撃レポート】

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山元への“接近力”を強めて次世代型流通を目指すナイス【突撃レポート】

木材流通業界のトップカンパニーであるナイス(株)(神奈川県横浜市、杉田理之社長)が山元(山林・森林所有者等)へのアプローチを一段と進め、素材(原木・丸太)関連事業も強化している。1950(昭和25)年に市売木材(株)として発足し、マーケットニーズに応えて社名や組織体制などを見直しながら業容を拡大してきた同社は、川下から川上に遡るようにして独自のサプライチェーンを構築してきた。この“流れ”を加速させ、次世代型流通にシフトする段階に入っている。

素材流通部などが「徳島モデル」に挑む、ナイス原木流通発足

ナイスは、一昨年(2021年)10月に「素材流通部」を立ち上げた。社内部門の新設なので、社外から大きな注目を集めることはなかったが、山元への働きかけを強めることを物語る動きだった。

木材部門責任者の髙木靖・資材事業本部副本部長は、「素材流通部を創設したのはマーケットニーズを反映した素材・製品づくりを徹底するため。弊社起点で川上から川下までのつながりをもっと太くし、再造林の支援などにも取り組んでいきたい」と狙いを話す。

髙木靖・ナイス資材事業本部副本部長

素材流通部は、拠点を本社(横浜市)に置いて全国展開を見据えた事業を行っている。とくに徳島県では、川上から川下に至る関係者が連携して再造林費などを捻出する循環型サプライチェーン「徳島モデル」の構築を進めている。同社は、同県内に約820haの社有林を所有し、小松島市では2014年5月からグループ会社のウッドファースト(株)が徳島製材工場を稼働させている。昨年(2022年)10月には、同社の100%子会社として素材生産事業を行うナイス原木流通(株)が同じく小松島市で発足し、森林所有者との交渉から物件の設計・施工までを同社グループで手がける一気通貫体制が形成された。

現在、ナイス原木流通の月間素材生産量は約300m3。自社のスギ林を中心に施業を行い、約6,000坪の中間土場で仕分けして、A材は徳島製材工場に、B材などは合板会社等へ納めている。髙木副本部長は、「できるだけ早期に素材生産量を約500m3に増やして体制を強化し、『徳島モデル』を全国に広げていきたい」と言う。

素材流通部は、東日本エリアでも、北関東や新潟県を中心に素材を買い付け、製材会社や合板会社に卸している。専用の土場は持たず、現場から工場などへ素材を直送しているのが特徴だ。

国産材への転換進め、全国の事業者らと連携して物流問題に対応

ナイスの2021年度の売上高は約2,295億円、経常利益は95億円だったが、2022年度は売上高が2,280億円、経常利益が48億円に減少すると予想している(昨年8月10日公表)。2021年度はウッドショックなどで増収増益となったが、2022年度はその反動が出て減収減益になる見込みだ。

髙木副本部長は、業界全体がウッドショックに振り回されたことを踏まえ、「取り扱う木材を外材から国産材に転換しようという業者が増えている」と指摘する。ただし、「単に国産材に切り替えても外材の価格に左右されているままではビジネスは安定しない。国産材が価格形成の主導権を握れるような“流れ”をつくらなければ」と強調する。

相模原市場の資材のアッセンブルする専用ラック

国産材のサプライチェーンを強化していくためには、供給体制の整備とともに、トラックドライバーの働き方改革に関わる「物流の2024年問題」などにも対応していかなければならない。

そこで同社では、全国各地の木材業者らと連携し、木材調達ネットワークを構築しており、全国13か所の木材市場と30か所の物流センターを木材のストックヤードとして活用し始めている。首都圏にある相模原市場(相模原市)や関東物流センター(埼玉県越生町)など6拠点では、邸別に必要な資材を必要な量だけアッセンブル(組み合わせ)して現場に供給している。髙木副本部長は、「首都圏だけではなく全国にアッセンブルできる体制を広げ、きめ細やかな配送により物流問題も解決していきたい」と構想している。

本社をショールーム化し需要創造を先導、様々なニーズに応える

山元への“接近力”を強めながら次世代型の流通システム構築に取り組んでいるナイスは、川下の需要創造でも新機軸を打ち出している。昨年5月には創立70周年記念プロジェクトの一環として住宅・非住宅分野で木造・木質化推進事業「WoWooD(ワウッド)」を打ち出した。同コンセプトのショールームとなっているのが本社だ。

本社ロビーのフローリングには飫肥杉の赤身材「ObiRED(オビレッド)」を活用した圧密木材「Gywood(ギュッド)」を使用。ロビー内には、同社のオリジナル金物工法「パワービルド工法」によるキッズハウスがあり、「Gywood」を使った家具も設置してある。また、2階に上がる手すり部分には京都市などとの連携で生まれた北山杉の磨き丸太を活用。受け付けや客室スペースなども木質化を図っている。

同社はこのほかにも、設計事務所や事業主向けに非住宅物件の木造・木質化を提案・実施する「木造テクニカルセンター」の設置や、国産材で住宅1棟分の構造材・内装材などをパッケージ化する「国産材パッケージ」などの提案なども進めている。事業領域が拡張を続ける中で、髙木副本部長は今後の展開について、「既存のビジネスを大事にした上で、『徳島モデル』や『WoWooD』など新たな分野を伸ばしていく」とし、こう続けた。「弊社には、プラスチック製品の木材への転換など様々な相談が寄せられて来る。多様化するニーズに応えて木材を総合的に活用していくためにも、“新たな木材流通”への進化を加速しなければならない」。

(2023年3月10日取材)()

(トップ画像=木質化したナイス本社のロビー、画像手前は北山杉の手すり)

『林政ニュース』編集部

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