鉄骨造で木の良さを引き出す「神宮前3丁目プロジェクト」
この実験的な建物は、「神宮前3丁目プロジェクト」のネーミングを付し、テナントビルとして建設が進んでいる。3階建ての鉄骨造だが、床に東京の多摩産材を使ったCLT、壁には埼玉県産材を加工したWOOD.ALCを使用しているのが特徴だ。林野庁のJAS構造材個別実証支援事業に採択されている。
WOOD.ALCとは、間柱状に製材し乾燥させたスギを接着した集成材のことで、ALC(軽量気泡コンクリート)の代わりに用いている。サイズは、厚さが10.5~12cm、幅が45cm、長さが3.0~4.0m。この厚板を壁に張ることで、木材の持つ柔らかな色合いや温もり、優れた断熱・吸音・調湿性能などが発揮されるとともに、防耐火の役割も果たしている。

木造経験なしでも施工が可能、貸主・借主の双方にメリット
設計監理を担当している(株)アトリエ秀(神奈川県川崎市)の高橋隆博社長は、「神宮前3丁目プロジェクト」のコンセプトとして、「非木造建築・非住居系建築の木質化」、「一般鉄骨造との差別化」、「誰もが採用可能」などをあげている。
施工は、ALCの業者でも行え、木造経験なしでも可能。CLTを採用したことでスラブ厚を薄くでき、天井は何も張らずに多摩産材がむき出しとなる。外壁はWOOD.ALCにガリバリウム鋼板を張り、天井は60mmの燃え代設計、柱だけ耐火ボードで被覆などの対応をとることで準防火地域における建築規制をクリアした。
高橋社長は「鉄骨造だがスケルトン構造で勝負する建物」と表現しており、木材を露出させてデザインなどを簡素化することで、「貸主・借主双方にメリットがある」と話す。
最上階に太陽光発電システムを設置して、「3階部分は電気代なし」という特典も加えており、「建築確認申請が下りる前にテナントが決まった」という。
ショッピングセンターの木質化も有望、山も都市もよくなる
「神宮前3丁目プロジェクト」は、都心のビルを木質化するシンボル的な取り組みとなっているが、今後は郊外のショッピングセンターなどでも鉄骨造+CLT+WOOD.ALCの採用を働きかけていくことが計画されている。古い鉄骨造の建物をリフォームするにも向いているし、建築後にCLTとWOOD.ALCを取り替えることで間取り変更などにも柔軟に対応できる。高橋社長は、「みんなが少しずつでも木材を使って総量を増していけば山も都市も環境がよくなる」と意欲をみせている。

「神宮前3丁目プロジェクト」の構成メンバー
- アトリエ秀(企画・設計監理・統括)
- 本岡構造設計事務所(構造設計)
- 木構造ラボ(構造監修)
- 桜設計集団一級建築士事務所(防耐火)
- One’s Lifeホーム(施工統括)
- アーキテック・コンサルティング(温熱環境)
- 富国物産(集成材建方)
- 日本CLT協会(技術協力)
- WOOD.ALC協会(同)
- 中東(CLT製造・加工・施エ)
- 北信地域材加工事業協同組合(WOOD.ALCプレカット)
- 中嶋材木店(多摩産木材供給)
- 協和木材(木材供給)
- グリーンシード(不動産)

『林政ニュース』編集部
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