5か年を費やした「低コスト再造林プロジェクト」が終了【報告会から】

5か年を費やした「低コスト再造林プロジェクト」が終了【報告会から】

2020年度から実施されてきた「低コスト再造林プロジェクト」*1が終了し、最終報告会が1月23日に東京都内の会場とオンラインを併用して開催された。5か年に及んだ実証事業で、どのような成果が得られたのか? ポイントをお伝えする

根羽村・三次地方・都城の3組合が大苗活用の有効性など実証

「低コスト再造林プロジェクト」は、早生樹であるコウヨウザンの大苗を使い、地拵えや下刈りの省略、伐採と植栽の一体作業により造林コストの削減を目指した。具体的には、30年程度の伐期を想定して、コンテナ大苗を用いた一体作業(素材生産と植栽の一体化)や疎植(植栽本数の削減)を試み、その効果を検証した。

同プロジェクトが設置した専門家チームのリーダーで物林(株)顧問の大貫肇氏は、5か年事業を立ち上げた理由として、「補助金に頼らない自立した林業経営の確立と次世代のための資源の造成が急務になっている」ことをあげ、「造林の省力化は人口減少による労働力不足対策においても有効になる」と述べた。

同プロジェクトを現場で担ったのは、長野県の根羽村森林組合、広島県の三次地方森林組合、宮崎県の都城森林組合。3組合は、それぞれのフィールドで、コウヨウザンの大苗(苗長50㎝、同50㎝超、同60㎝)をha当たり1,500本植栽した。苗木価格は1本当たり172円~250円、苗高は91~115㎝、1年後の活着率は95~99%。苗木運搬にはタワーヤーダやフォワーダを活用し、ディプルを使って植え付けた。

コウヨウザン植え付け時点の様子(画像提供:三次地方森林組合)

植栽時期を選ばず、下刈り・間伐はゼロ、植栽後1年で高さが2倍に

3組合は、新たな取り組みのメリットとして、①植栽時期を選ばない、②労働力配分の調整がしやすい、③大苗の成長が良く下刈りが不要、④現場で苗の長期間保存が可能、⑤間伐が不要などをあげた。

一方、デメリットとしては、①大苗の運搬が大変、②葉先が鋭利なため手を痛める、③除伐の有無の判断が難しいなどが指摘され、疎植によって樹冠の閉塞が遅くなるとツル類への対策が必要になるという意見も出た。

苗高は1年後に2倍になった(画像提供:根羽村森林組合)

一体作業の生産性は、根羽村森組が119.3人日/ha(従来は142.5人日/ha)、三次地方森組が128.6人日/ha(同144.7人日/ha)、都城森組が89人日/ha(同102人日/ha)となり、3組合でいずれも生産性の向上がみられた。苗高に関しても、根羽村森組で植栽1年後に2倍の高さとなり、三次地方森組では昨年(2024年)11月に200~266㎝、都城森組では同12月に210~620㎝に達した。

コウヨウザンは「戦略的造林樹種」、未来のために植えよう!

3組合からの報告に続き、専門家チームの(有)愛美林代表・仲尾浩氏が一体作業の工程検証結果などについて発表。一体作業は、素材生産を進めながら植栽を同時に行うことで省力化と生産性の向上が図られるとし、とくに「地拵えをしないことが大きなポイントになる」と説明、作業道を活用した生産方法を工夫することで、さらなるコスト削減も期待できるとした。

また、国土防災技術(株)技術アドバイザーの田中賢治氏は、固形の植物活性剤を散布したところ、3組合の試験地ともに初期の活着と成長が旺盛になったと報告。元・森林総合研究所林木育種センター育種部長の近藤禎二氏は、コウヨウザンの特性に関して、「強くて、軽くて、乾きやすい」ことを研究データとともに解説し、柱や梁、桁から集成材、LVL、合板など多方面で利用できるとした。

人工造林面積と用材需要量の推移

締めくくりに、大貫氏が同プロジェクトの意義を総括し、「地拵えや下刈り、間伐をしない施業」への転換や、コウヨウザンが「早生樹」から「戦略的な造林樹種」になっていることを強調。今後の課題として、①一体作業の作業手順や植栽道具の改善・進化、②低コスト施業に関する林業者の意識改革、行政の理解促進、③苗木代、素材生産経費などの低減、④公的資金による獣害対策の迅速な推進、⑤木材価格の改善などをあげた。また、

人工造林面積の長期的推移に関するグラフを示し、間伐主体の「植えない林業」は次世代にツケを回すことになると危機感を示し、「木を植えるんだ! 未来のために」と呼びかけた。

(2025年1月23日取材)

(トップ画像=意見を交わす専門家チームの(左から)大貫、仲尾、田中、近藤の各氏)

『林政ニュース』編集部

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