【譲与税を追う】秋田県由利本荘市

東北地方 秋田県 税制

【譲与税を追う】秋田県由利本荘市

民有林面積と譲与税配分額が県内トップ!「まずは現状を把握」

秋田県で最も広い面積を持つ由利本荘市。同市に行くには、秋田駅から特急「いなほ」で南下し、羽後本荘駅まで約30分を要する。晴天の日は車窓から広々した田畑と青空が望めて実にすがすがしい──地元の人からはこう聞いていたのだが、1月24日に同市に向かったときは様相が違った。今季最強の寒波が襲い、列車は遅延を繰り返しながら約2時間かけて羽後本荘駅に到着。ホームに降りると、肌を刺すような風に襲われた。それでも、かすかに漂ってきた「いぶりがっこ」の香りに心がほぐれた。

目当ての市役所は駅から車で約5分。林野関係を担当する産業振興部農山漁村振興課は本庁舎の3階にある。

同市の主要産業は、製造業。市内には大手電子部品メーカー・TDK(株)(東京都中央区)の工場があり、関連工場が立ち並ぶ。

由利本荘市の位置

同市は、2005年に1市7町が合併して発足した。市面積は12万959haと県内の約10%を占める。その4分の3に当たる9万369haが森林だ。

秋田県は国有林が多い土地柄で知られ、県全体の民有林率は54%にとどまる。だが、同市の民有林率は77.7%と高く、市内の民有林面積も7万271haと県内最大で、全国7位の広さを誇る。森林環境譲与税の配分額も県内トップで、2022(令和4)年度は1億6,290万円が交付され、その9割近い1億4,257万円を活用した。市内の林業従事者数は284名となっている。

同市の林野関係の専従職員は4名。全国の市町村と比べて人数は多いが、「未経験者ばかり。まず約7万haある民有林の状況を調べなければ計画も策定できない。県が進める航空レーザ計測による森林資源解析を見ながら“現場”を把握している最中」と担当者は実情を述べた。もっとも、現状把握だけで足踏みをしているわけではない。「現場の方の声を聞いて力を借り、やれるところから始めている」(同)とも話す。

独自交付金などの活用で一連業務を効率化、人材の育成に注力

同市は、2020(令和2)年度に、譲与税を財源として森林経営管理制度を推進する独自の交付金「由利本荘市森林経営管理制度推進交付金」を創設し、手入れの行き届かないスギ人工林の整備を進めている。通常、森林経営管理制度では、市町村が自ら森林所有者への意向調査や集積計画の策定、林業事業体への経営管理実施権の配分などを行う。これに対し、同市では意向調査を林業事業体に委託し、同交付金の活用により林業事業体が主体となって集積計画の策定、森林整備までの一連のプロセスを行えるようにした(参照)。

「由利本荘市森林経営管理制度推進交付金」の概要

同交付金などの後押しもあって、意向調査は約6割完了し、森林整備も、2020年度に18.11ha(約390万円)、2021年度に43.04ha(約790万円)、20222年度に41.09ha(約720万円)と実績を重ねてきている。

同市は、譲与税を使って、作業道修繕や間伐材搬出なども幅広く支援している。とくに注力しているのは、人材育成だ。林業事業体の従業員が購入する安全衛生保護具や技能習得費用などを対象に最大25万円まで助成しているほか、林業事業体でインターンシップをする学生向けに交通費補助も行っている。担当者は、「着実に人材が採用されてきている」と手応えを話す。

同市は、今後も人材育成への支援を手厚くしていくとともに、「県などの協力を得ながら全体的な実施方針や計画を策定し、森林資源を有効活用していく」(担当者)方針をとっている。

(2024年1月24日取材)

(トップ画像=由利本荘市役所)

『林政ニュース』編集部

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