【譲与税を追う】群馬県高崎市

【譲与税を追う】群馬県高崎市

市民が憩う「観音山丘陵」の「高崎自然歩道」を5か年で整備

JR高崎駅西口から徒歩10分の好立地にある高崎市役所は地上21階建ての高層ビル。周囲に遮るものはなく、同市のランドマークとなっている。その上層階からは、市民の憩いの場である「観音山丘陵」が一望できる。同丘陵内には、全長約22kmの遊歩道「高崎自然歩道」が通っており、身近なハイキングコースとして親しまれている。ただ、近年は手入れの行き届かない森林や竹林が増えて、安全面などの懸念が出ていた。

そこで同市は、今年度(2023年度)から5か年計画で、「高崎自然歩道」と周辺の森林などを整備することにした。間伐や植林をはじめ、支障木の伐採、歩道の補修、案内看板の新設、附帯施設の修理などを一体的に行うことにしており、総事業費は約3億円を見込んでいる。同市農林課の担当者は、「財源には森林環境譲与税を活用する」と話す。

群馬県中南部に位置する同市には、県内最多の約37万5,000人が住む。約4万6,000haに及ぶ市面積の46.5%が森林に覆われ、私有林人工林面積は約7,300ha。林業就業者数は約90人。今年度は約7,000万円の譲与税が交付された。

同市は、2006年に倉渕村・箕郷町・群馬町・新町・榛名町と、続いて2009年には吉井町とも合併し、2011年に中核市に移行した。

合併前の旧高崎市は典型的な商工業都市だったが、合併後は広大な森林を有する“都市と山村が共存する自治体”に変貌した。

「都市部と山間部の住民の一体感を醸成する必要がある」(担当者)という状況の中で、毎年度交付される譲与税の使途をわかりやすく“見える化”するにはどうすればいいのか。その答えとして打ち出したのが「高崎自然歩道」の整備だ。歩道を取り巻く森林の大半は私有林(一部国有林)だが、譲与税を活用することで費用負担なしで事業を進められる。このため、「所有者からの合意取り付けは順調に進んでいる」(同)という。

国の補助が届かないところへ独自に助成、市有林の活用も進む

高崎市は、譲与税の交付が始まった2019年度から、森林経営管理制度に基づいて、手入れの行き届かない私有林を集約化し、意欲と能力のある民間の経営体に整備事業等を委託することに取り組んでいる。これまでに4件、計51haの民間委託が成立しており、「今後もどんどん増やしていく」(担当者)方針だ。

ただし、放置されていた私有林にはそれなりの理由があり、従来からの支援の枠組みだけではテコ入れが難しい。そこで、2022年度から譲与税を活用して、独自の助成制度を創設した。

1つは、高林齢の森林を対象にした搬出間伐への補助。もう1つは、皆伐した木材運搬費への補助。どちらも国(林野庁)の造林補助金では助成対象外となっている費用負担を軽減するのが狙いだ(参照)。担当者は、「新しい助成制度をつくったことで、やってみようという経営体が出てきた。何とか放置林を解消して循環利用できるサイクルを確立したい」と意気込みを語る。

同市には、約600haの市有林があり、その整備にも譲与税を充当している。今年8月には、同市に拠点を置く烏川流域森林組合が千葉県の浦安市との間で、「高崎市有林『浦安市民水源の森』活用に関する基本協定書」を締結し、浦安市の譲与税も活用しながら市有林の活用促進を図ることで合意した。来年度(2024年度)からは、農福連携事業として新設するメロンの水耕栽培ハウスに導入する薪ボイラー用の木材を市有林を含めた周囲の森林から供給する予定だ。市内の公共施設などにも市産材を積極的に使用しており、譲与税の使途が着実に広がってきている。

(トップ画像=高崎市役所の14階から望む「観音山丘陵」)

『林政ニュース』編集部

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