【譲与税を追う】千葉県市原市

【譲与税を追う】千葉県市原市

“千葉で最も広いまち”が独自の経営管理計画を樹立・推進

市原市で森林・林業施策などを担当している農林業環境整備課は、同市安須980番地の農業センター内に事務所を置いている。最寄り駅は、小湊鉄道線の上総三又駅。だが、ここから同センターまでは徒歩で約40分かかる。しかも、小湊鉄道線は、日中ほぼ1時間に1本ペースでしか走っていない。

お世辞にもアクセスがいいとは言えないが、同センターに辿り着いて驚いた。敷地面積は約15haと広大で、栽培試験施設のほか、ふれあい広場やバーベキュー場、ピクニック広場、花木園などが整備されており、一般市民の立ち入りは自由。気軽に農林業に親しめる憩いの場になっており、訪れてみる価値はある。

同市の面積は、3万6,817haで千葉県最大。主要産業は、市北部の臨海部を中心とした製造業であり、「とくに林業が盛んなわけではない」(農林業環境整備課)。だが、市面積の約34%は森林(すべて民有林)が占めており、2022(令和4)年度は約4,400万円の森林環境譲与税が同市に交付された。その8割弱(約3,400万円)は基金に積み立て、「将来の森林整備及びその促進に備えている」(同)のが現状だ。

昨年(2023(令和5)年)3月に改訂した最新版の「産業振興ビジョン」では、同市が直面している課題の1つとして、「森林環境譲与税を活用した森林整備の推進や森林資源の有効活用を図っていくことが必要」と明記した。

3地区で意向調査と境界明確化先行、敷地外緑地制度も活用

同市は、譲与税が導入されたことを踏まえ、2020(令和2)年度に独自の「森林経営管理計画(実施方針)」を樹立し、手入れの行き届かない人工林の整備に乗り出している。事業の集約化と効率化を図るため、①森林経営計画の策定率の高い「旧白鳥西地区」、②林業生産性評価の高い「旧市東地区」、③土砂災害警戒区域面積割合の高い「旧内田・平三地区」の3地区で優先的に取り組んでおり、3地区の森林所有者約300名を対象にした意向調査を2022年度に行った。

意向調査は、東電用地(株)(東京都荒川区)に業務委託して実施し、必要経費(約640万円)は全額譲与税で賄った。各所有者に調査票を送るとともに、コールセンターを設置して問い合わせに対応したほか、調査票の返送が得られない場合は訪問調査を行って掘り起こしに努めた結果、約78%という高い回答率が得られた。回答者のうち「市に管理を委ねたい」という意向を示したのは約28%。これを踏まえて、譲与税を使って境界明確化作業を行い、まず0.87haで経営管理権集積計画を策定する段階に移った。今後、千葉県森林組合北部支所などの協力を得ながら、施業を進めることにしている。

同市では、市有林の健全化整備も進めている。昨年10月には「市原版敷地外緑地制度」をスタートさせ、特定工場等が敷地外で森林整備を実施した場合に、敷地内の緑化と同様に取り扱うようにした。この仕組みに基づいて、企業等が市有林を整備する場合、譲与税を活用して企業が毎年負担する費用を平準化し、企業による森林整備を促すことにしている。

このほかにも、木材の利用拡大など譲与税を幅広く活用していくことや、2020年度に作成した現行の「森林経営管理計画」をバージョンアップすることも検討している。県が2018(平成30)年度に行った世論調査では、防災機能の高い森林の整備を求める回答が6割を超えた。これを踏まえ、農林業環境整備課の担当者は、「木材生産だけでなく森林の多面的な機能を幅広く引き出せるような整備を行っていきたい」との方向性を描いている。

(2024年1月16日取材)

(トップ画像=市原市農林業環境整備課が拠点を置く農業センターは実に広々としている)

『林政ニュース』編集部

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