“林野率ゼロ”もなんのその、森林の多い市町村との連携拡大

東京都千代田区には国会があり、中央省庁があり、大企業の本社などが集まる。日本国家の1丁目1番地といえる特別区だ。人口は6万6,680人(2020年時点)と10万人を割っているが、東京駅などを利用して流入してくる昼間人口は100万人を超える。

同区内の私有林人工林面積はゼロha。皇居の森などはあるが、森林法に基づく森林は皆無で、林野率はゼロ。その同区に、2022(令和4)年度は2,707万6,000円の森林環境譲与税が交付された。森林のない自治体にこんなにお金を配って大丈夫か? と疑問を抱えつつ同区役所5階の環境政策課を訪ねた。すると担当者は、「当区は長期的な観点から森林整備に取り組んでいます」と事もなげに言い、90頁ほどの冊子を差し出した。冊子のタイトルは、『千代田区地球温暖化対策地域推進計画2021』。2021(令和3)年11月に策定した同計画の主要事業の1つに「地方との連携による森林整備事業」があり、譲与税が導入される以前から地方自治体と連携した森林づくりを進めていることが記されていた。

その嚆矢となった岐阜県高山市との協働は、2012(平成24)年度にスタート。両者で協定を締結し、高山市内の市有林で間伐等を行い、森林整備による二酸化炭素(CO2)吸収量を同区が排出する量と相殺(カーボン・オフセット)する取り組みを続けている。同区は、整備に必要な費用の2分の1を負担している。この仕組みを2016(平成28)年度から群馬県嬬恋村、2022年度からは秋田県五城目町にも広げて、着実に実績を積み重ねてきている(参照)。

地方との連携による森林整備面積の推移(画像提供:千代田区)

また、昨年(2023(令和5)年)12月25日には、鳥取県智頭町とも連携協定を締結、来年度(2024(令和6)年度)からは、計4市町村で同区と連携した森林づくりが行われることになった。

「多摩の森」活性化に協力、都市の木造・木質化でも範を示す

千代田区は、東京都内の市町村との連携事業も進めている。6つの特別区と多摩地域の6市町村及び都で立ち上げた「多摩の森」活性化プロジェクト*1に参画し、今年度(2023年度)からあきる野市内と奥多摩町内の森林で整備事業に着手しており、5年間で660tのCO2をオフセットできる見込みだ。

同区は、区外で広がる森林づくりの成果を区民に伝える交流事業にも力を入れている。昨年5月には嬬恋村で1泊2日の「ちよだ・つま恋の森づくり」植樹ツアーを開催し24名の区民が参加。続いて、7月には高山市で2泊3日の森林体験等ツアーを実施し、35名の区民が木工クラフトづくりなどを行った。区内でも、同じく7月に東京ミッドタウン日比谷で「HIBIYA WOOD DAY!!!(ひびやウッディ)」と名づけたイベントを3日間実施し、500名以上が来場する中で、高山市産材を使ったベンチ制作体験やパネル展示、特産品の販売などを行った。

同区の2022年度における譲与税の使途はのとおり。余った約2000万円弱は社会資本等整備基金に積み立てており、これから活用していく計画だ。

大都市である同区に期待されるのは、大型ビルなど非住宅建築物の木造・木質化を進めること。この点を担当者に問うと、「それも考えています」と即答し、「4月になったら新しいプロジェクトを発表する予定です」と目線を上げた。同区は、地域材の大口ユーザーとしても率先垂範していく構えをとっている。

(2024年3月13日取材)

(トップ画像=植樹ツアーの様子(画像提供:千代田区))

『林政ニュース』編集部

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