お金の“出所”がCSR部門から営業・マーケティング部門に変わってきた
「お金の“出所”が変わった。これまで森林づくりやカーボン・オフセットに関する予算は企業のCSR部門が握っていたが、この2年ほどで営業やマーケティング部門が担うようになってきた」──モア・トゥリーズ事務局長の水谷伸吉氏はこう話す。

CSR活動の一環として植樹や森林整備などをすれば、企業のイメージアップにつながり、環境報告書などを通じて社会的評価も得られる。ただ、それは直ちに収益を生み出すものではない。
これに対して、営業やマーケティング部門が行うようになると、ビジネスとしての成果が強く求められるようになる。専用サイトなどを開設して顧客や取引先への訴求力を高め、環境意識が高いZ世代にアピールして人材獲得につなげるなど、「SDGsを経営戦略の中核に据え、森林づくりに取り組むところが増えてきた」と水谷氏は言う。
閉塞状況を乗り越えて、協賛企業と協定自治体が再び増加に転じる
モア・トゥリーズは、主に都市部の企業から協賛金(一口5万円~)や寄付金を募り、山村部の自治体と協定を結んで森林づくりやカーボン・オフセットサービスを展開しているほか、オリジナルプロダクトの販売なども行っている。
すでに「more treesの森」は、国内16か所、海外2か所にできており、協賛企業は、金融やIT関係などを中心に約50社を数えている。ただし、ここまで順風満帆に業績が伸びてきたわけではない。
2007年の発足時には、坂本龍一氏の知名度とともに、森林が吸収したCO2量をクレジット化して排出量と相殺するカーボン・オフセットにいち早く取り組み、全国的な注目を浴びた。同年、高知県梼原町に「more treesの森」の第1号が誕生し、以後も協定自治体が拡大していった。しかし、企業からの協賛金は一定規模で頭打ち状態となり、マッチングが十分に進まないケースも出てきた。
その閉塞状況が変わってきている。昨年6月、奈良県天川村と9年ぶりに協定を締結*1。以降も「協賛企業が増えており、今年度中に協定自治体がもう1か所増える予定」と語る水谷氏は、「このチャンスを逃す手はない。森林が注目を浴びている流れを一過性にしないためにも、様々なプログラムを展開し、森との“縁”を太くしていきたい」と力を込める。
フラッグシップとなる樹種を植樹して、「地域らしさを出す」
モア・トゥリーズは、国が活性化を図っているJ-クレジット制度で、正式なプロバイダーとして認められている。これを足場に脱炭素市場のプレーヤーとして、森林づくりでは多様性を追求しながら、協賛企業の“輪”を広げることにしている。
とくに力を入れているのが「フラッグシップとなる樹種を植樹して地域らしさを出す」ことだ。梼原町の「more treesの森」ではユスノキを植え、北海道の美幌町では町有林約20haの皆伐跡地にシラカバを中心に植樹した。天川村にはキハダを植え、漢方薬の原料として利用する予定だ。
これからも全国各地で個性豊かな森林を育てるために、水谷氏は、「土地・人・苗木の3つが重要。協定自治体や事業者、研究者などと連携しながら取り組んでいきたい」と意欲をみせている。
(2022年1月10日取材)
(トップ画像=シラカバを植えた美幌町の町有林)
『林政ニュース』編集部
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