静岡県産材で極上のウイスキーづくりに挑むガイアフロー【木で醸す】

静岡県産材で極上のウイスキーづくりに挑むガイアフロー【木で醸す】

JR静岡駅から路線バスに揺られて1時間余、清涼感に溢れる安倍川の上流域に地場資源にこだわってウイスキーづくりをしている工場がある。創業9年目を迎えたガイアフロー(株)(静岡県静岡市、中村大航・代表取締役)の静岡蒸溜所だ。

澄んだ空気と水を求め、林業が盛んな地で蒸溜所をオープン

ふじのくに・静岡で育ったガイアフローの中村大航社長(52歳)は、「地元でウイスキーをつくる適地はないか? と探していたときに、この場所と出会った」と振り返る。

良質なウイスキーをつくるには、澄んだ空気と水が欠かせない。静岡蒸溜所が建つ静岡市葵区は、安倍川に合流する中河内川が流れ、道路を通る車は1時間に数台しかない。地域の主産業は林業。同蒸溜所の周囲に広がる山林を見渡すと、盛んに主伐・再造林が行われていることがわかる。

中村大航・ガイアフロー代表取締役

中村社長は、静岡市清水区で生を受けた。大学を出て地元の大手企業に就職し、経理を中心に社会経験を積んだ後、家業である精密機械工場の経営に携わった。

2011年の東日本大震災を受け自らの人生を見つめ直し、翌12年にウイスキーの本場・スコットランドへ渡り、ウイスキー蒸溜所の立ち上げを決意する。

同年に帰国して直ちにウイスキーの輸入販売事業を行うガイアフローを創業。2年後の2014年には、ウイスキー製造を担う子会社・ガイアフローディスティリング(株)(静岡市、中村大航社長)を立ち上げて、オリジナルウイスキーづくりへの歩みを本格化させた。

内装木質化は「ありきたり」、前例のないスギ木槽が遂に完成

2016年にオープンしたガイアフローの静岡蒸溜所は、静岡県産のスギ・ヒノキを約30m3使って内装を木質化している。中村社長はその理由について、「地域の特色である林業を取り入れたウイスキーづくりをするため」と説明し、さらにこう続けた。「木質化だけではありきたりの発想だ。弊社は、地場産材を用いた木槽づくりと薪を使った蒸留にも取り組んでいる」。

スギとベイマツの木槽が10基並ぶ

同蒸溜所にある木槽は10基。このうち4基はベイマツ製、残り6基は地場産のスギを使用している。通常、ウイスキーの発酵槽はステンレス製で、木槽にする場合はベイマツを用いるのが“世界の常識”だ。

前例のないスギを使った木槽を実用化するため、中村社長は日本唯一の木桶メーカー・ウッドワーク(大阪府堺市)の上芝雄史氏に協力を仰いだ。上芝氏は、日本酒の木桶を中心に手がけている。

だが、初めは一蹴された。「木桶をつくるには吉野杉を使うもんだ。静岡のスギでは難しいと言われた」と中村社長は回想する。

それでもめげずに懇願する中村社長の熱意に応えて、上芝氏は静岡まで足を運び、地元の林業関係者らと議論を重ね、木槽に使用する木材の規格(長さ2.5m、厚さ6cm)や、板目で無節材が採れる源平材(赤の芯材と白の辺材が混在する材)の調達方法などを固めていった。

「山から立木を探すところから木槽づくりが始まった」と話す中村社長は、山林の探索に汗を流し、蒸溜所よりも奥地に求めている材が採れそうな立木を発見。不足分については県内の原木市場で調達し、蒸溜所近くの製材所で挽いた後、ウッドワークに持ち込んで待望のオリジナル木槽を完成させた。「スギで木槽をつくりたい」と言ってから2年が経過していた。スギの木槽は、第1号ができて以降、3年かけて増設してきている。

「軽井沢」の蒸留器と地元の薪直火を活用、「プロローグ」で幕開け

ウイスキーは、原料の麦芽を分別→粉砕→糖化→発酵→蒸留→貯蔵の順で製造する。ガイアフローは発酵工程で木槽を使うだけでなく、蒸留工程でも地場産材を活用している。

静岡蒸溜所で稼働している蒸留器は3基あり、1次蒸留用が2基、2次蒸留用が1基となっている。

1次蒸留用のうち1基は伝説のウイスキーといわれる「軽井沢」をつくっていた蒸留器を買い取ったものだ。「軽井沢」は2000年に製造が中止され、オークションで10本が約788万円で落札されたこともある。もう1基は、世界的にも珍しい薪直火で蒸留するもの。薪には地場産の針葉樹を1日当たり1.5~2m3使用しており、地元の林業会社からm3当たり2万円前後で購入している。

薪直火の蒸留器

同社は、製造工程だけではなく、原料の麦芽にも地場産を取り入れている。現在使用しているのは、輸入麦芽が70%、国産麦芽が20%、静岡県産麦芽が10%という割合。静岡県産は、昨年から焼津市で生産が始まった。「当社なりにできるだけ高く購入するようにしている。コスト増は商品価格に転嫁されるが、消費者は納得して購入し、オール静岡県産の取り組みを応援してくれている」と中村社長は手応えを口にする。

「プロローグK」と「同W」(価格は各5,500円)、静岡蒸溜所で試飲でき味わいの違いが楽しめる

同社は昨年、オリジナルウイスキー第1弾として、「軽井沢」の蒸留器で製造した「プロローグK」と、薪直火で蒸留した「プロローグW」を5,000本ずつ世に出した。中村社長は、「販売量の増加や蒸溜所ツアーのバージョンアップなどオール静岡の取り組みをもっと加速していきたい。弊社の取り組みはまだ始まったばかりだ」と言葉のトーンを高めている。

(トップ画像=ガイアフローの外観)

『林政ニュース』編集部

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