投資マネーを呼び込めるビジネスモデルの検討がスタート
長らく不況産業の代名詞となっていた林業・木材産業に“追い風”が吹いてきた。そんな話がちょくちょく聞かれるようになってきている。
温暖化防止や脱炭素化が世界共通の課題になっており、再生可能資源である森林や木材に改めてスポットが当たっている。そのこと自体は結構なことだ。ただ、注目されるだけでは物足りない。やはり、実入り(収入)が増えないと…。
そのとおり。卑近(ひきん)な言い方になるが、マネー(金)が流れてこないと、“追い風”を実感できない。
その点で、林野庁が新たに設置した「森林・林業・木材産業への投資のあり方に関する検討会」(座長=龍原哲・東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)は、これまでにない期待感を抱かせる。何といっても「投資」の2文字が入っているのが新鮮だ。
早速、同検討会の事務局をつとめる林野庁企画課を取材してみた。
まず念を押されたのは、「森林の買収(方法)などを検討するわけではありません」ということ。これまでも外国資本による山買いなどが問題になってきたが、それとはハナシが違う。ポイントは、検討会のネーミングにある「森林・林業・木材産業」だ。つまり、林業を核とした新しいビジネスモデルへの投資について検討するというわけだ。
クレジット、森林サービス、売電…稼げるネタを盛り込む
では、新たな投資を呼び込めるビジネスモデルとは何か。1月31日の第1回検討会で示された想定事例はトップ画像のとおり。ミソは、従来にない収入源を織り込んでいることだ。J-クレジット(森林吸収量)や森林サービス産業など、建築用木材製品以外にも稼げるネタがあることを示している。
木質バイオマス発電や熱供給をメインにした事業も収益性が高いとみられている。発電の副産物といえる熱は木材乾燥やきのこなどの栽培に利用できる。しかもFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)に認定されれば一定の売電価格が20年間保証される。これは投資家にとって大きな魅力だろう。
林野庁は来年度(2022年度)予算で、ICT(情報通信技術)などを駆使して低コスト化や省力化を図る「新しい林業」への転換を支援することにしている。「新しい林業」ならばha当たり113万円の黒字になると試算しており、収益が見込めるのならば、当然、投資の対象になってくるだろう。
国主導で投資を促す制度を創設、プロジェクトの適否判断はどうする?
国主導で投資(出資)を促す仕組みづくりも進んできている。
昨年(2021年)8月には「農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法」が施行された。同法に基づいて、民間金融機関や日本政策金融公庫がファンドの一種である「投資事業有限責任組合」を設立し、林業・木材産業を含めた1次産業関連のプロジェクトに出資するスキームができている。官製ファンドには過去に失敗例もあったが、投資リスクを分散して、自己資金の少ない事業者にも出資しやすくしたのが同法のポイントだ。
環境省は、「新たな脱炭素出資制度」を創設して、来年度から運用を始める準備を進めている。国と金融機関・企業等が連携して、「脱炭素化に資する事業」に出資する仕組みが構想されており、対象事業の例として、森林保全と木材・エネルギー利用が挙がっている。
どうやら投資促進に向けて外堀が徐々に埋まってきているようだ。1月31日の検討会には、地域商社を自称する(株)トビムシの竹本吉輝社長が臨時委員として出席し、森林分野におけるエクイティ・ファイナンス(新株発行による資金調達)には、中長期的視座からの最適な事業実行を可能にするメリットがあると強調したという。
林業・木材産業関係者が資金を調達する場合、まず補助金、次に融資というのがセオリー。そこに投資という第3の道が開ければ、資金調達の選択肢と自由度が高まる。ただし、本当に林業・木材産業の未来にとって必要なプロジェクトなのか、はたまた如何(いかが)わしい投資家ではないのかといった見極めが重要になる。
林野庁が設置した検討会は、3月下旬まで計5回の会合を重ねて、個別プロジェクトの適否について「判断する際のよすがとなる指標」について議論を深める方針だ。望ましい投資とは何か――。議論の方向性は現段階でははっきりと見えず、「走りながら考える」(企画課)という状況だが、いかなる結論が導き出されるのか、注視していこう。
(2022年1月31日取材)
(トップ画像=森林・林業・木材産業に対する投資の想定事例)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。