新規の目玉はなし、要求基準の枠一杯を使うも伸び率は徐々に低下
そうした事情を反映してか、今回の予算要求には、ハッキリとした新規目玉が見当たらない。言い換えると、大見出しを飾れるような施策や事業がない。政権がぐらついているときに、予算要求で大きな勝負に出る必要はないという力学が働いたのか、全般的に前例踏襲で粛々とした要求内容となっているのは少々寂しい。
それはともあれ、拡充事項などには目を引くものもあるので、簡潔に要点を解説していこう。
「第1次国土強靭化実施中期計画」に森林整備と治山を明記
林野予算の主柱をなす一般公共事業は、森林整備・治山の両事業ともに同18.3%増で要求した。農林水産省の他の公共事業(農業農村整備など)も同じ伸び率であり、この点で過不足はない。
林野公共予算の獲得に関しては、来年度からスタートする「第1次国土強靭化実施中期計画」において、森林整備及び治山事業がどのように位置づけられるかが注目点となっている。
同計画は、6月6日に閣議決定されており、「推進が特に必要となる施策」の中に、「山地災害危険地区における森林整備対策」と「山地災害危険地区における治山対策」が明記された。これを足がかりにして、自民党の森林整備・治山事業促進議員連盟(山口俊一会長)などとも連携しながら予算確保を目指すことになる。
なお、同計画の全体事業規模は、「今後5年間でおおむね20兆円強程度を目途」とし、「資材価格・人件費高騰等の影響については予算編成過程で適切に反映する」ことにしている。
森林整備事業の拡充要求では、森林経営管理法の改正を踏まえ、「集約化構想」を策定した地域で基盤となる林道の整備や効率的な森林整備を支援する方針だ。また、林野火災対策を強化するため、防火水槽などの山火事防止施設を備えた林道の整備や、延焼を防ぐ防火林帯の整備を重点支援メニューに加える。
治山事業でも、土砂流出が懸念される山火事跡地で、ワイヤーネット等の簡易な構造物による応急対策や森林土壌調査を支援できるようにする。これに加えて、「選ばれる森林土木」となるべく、プレキャストなど費用はかかっても施工性の高い工種・工法の導入を支援していくことにしている。
非公共の筆頭格は「森林集約・循環成長対策」、給付金支給者を拡大
次は、非公共事業。前年度の概算要求は、「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」と「花粉症解決に向けた総合対策」の2本柱で構成していたが、今回は「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」に一本化して、全体的な見直しを行った(トップ画像参照)。
花粉対策は、当時の岸田首相が政権浮揚を狙って突如ぶち上げたもので*5、林野庁は応急的に補正予算で必要経費を手当てしてきた。それが元の鞘(さや)に戻ったかたちだ。
来年度からリスタートする「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」で筆頭格に位置づけているのは、「森林集約・循環成長対策」(要求額は84億円)。図にあるように、現行の「森林の集約化モデル地域実証事業」と「林業・木材産業循環成長対策」及び「林業・木材産業金融対策」をひとまとめにして、川上から川下に至る支援メニューを拡充する。重点支援する集約化モデル地域については、新たに20か所程度を追加指定する予定。また、遠隔操作ができる林業機械の導入や、林野火災対策の高度化などについても助成できるようにする。民間が手がける木造非住宅建築物の整備も支援メニューに加えることにしているが、「財務省が認めてくれるか、ハードルは高い」(林政課)というのが実情だ。
このほか、「木材等の付加価値向上・需要拡大対策」(同16億円)では、適正な木材価格に関する調査・分析や、木材産業の人材確保支援などに着手する。また、「森林・林業担い手育成総合対策」(同57億円)では、現行の「緑の青年就業準備給付金事業」の名称を「緑の就業準備給付金事業」に改め、支援対象年齢を45歳未満から50歳未満に引き上げる。同事業では、年間に1人当たり最高155万円を支給している。「青年」という言葉を取っ払って、多様な人材の受け入れに舵を切る。
「スマート林業・DX推進総合対策」(同4億円)では、「デジタル林業戦略拠点」を新たに5地域程度設ける予定。同拠点は、「2030年度までに25都道府県につくる」(研究指導課)ことを目標にしている。また、「森林・山村地域活性化振興対策」(同11億円)では、「森業」や「半林半X」などに関わる活動を支援する。
しんがりの「花粉症解決に向けた総合対策」(同11億円)は新規扱いになっているが、補正予算で必要経費を確保していた事業を当初予算に移したもので、実質的には継続ものだ。
以上、駆け足になったが、来年度林野庁予算要求の要点解説を終える。
(2025年8月28・29日取材)
(トップ画像=「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」の見直しの概要)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。