「新しい林業」実践へ、先進モデルが出揃い収支のプラス転換目指す【緑風対談】

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林野庁の2022年度予算で目玉に位置づけた新しい林業」の実証事業が本格実施の段階に入りました。そのポイントを「緑」と「風」がわかりやすく解説します。

トップランナーを公募、審査を経て10件の取り組みを採択

林野庁が今年度(2022年度)の目玉事業に位置づけている「新しい林業」の実践。そのモデルとなる10件の取り組みが7月26日に決定、公表された。これから補助金などを活用して現場作業を“進化”させる段階に入る。早速、最新情報をお伝えしていこう。

「新しい林業」とは、伐採から再造林・保育に至る収支をプラスに転換することを意味する。人手をかけて林業を行うからには、黒字になって当たり前のはずなのだが、従来からの「古い林業」には、儲からないという通念がまとわりついていた。
これを払拭すべく、昨年6月に閣議決定された2020(令和2)年度の『森林・林業白書』では、エリートツリーの低密度植栽や自動化機械の導入などによる「新しい林業」に転換すれば、ha当たり113万円の黒字になるとの試算を示した*1。同じく6月に策定された新「森林・林業基本計画」でも「新しい林業」を目指す方針を打ち出している。

問題は、この「新しい林業」を誰がやるのかだ。林野庁は、全国に普及できるモデルを確立するため、今年度から3か年をかけて実証事業を行うことにしている。
今年度予算には約3億円の必要経費を計上し、林業機械化協会が窓口(実施主体)となって事業提案を募った。これに15件の応募があり、有識者委員会が審査した結果、第1弾として10件の取り組みが選ばれたわけ。
では、その顔ぶれはどうなっているのか。

ICTハーベスタなど先進マシンを導入、特定母樹も活用

「新しい林業」のトップランナーとなる10件の取り組みは、のように北は北海道から南は鹿児島県まで各地で行われる。それぞれの特色をザクっとみていこう。

北海道では、(有)大坂林業などが十勝型機械化林業経営の確立を目指す。地形や気候が似ている北欧をモデルとし、ICTハーベスタ等の活用で主伐の生産性を2割程度アップさせるという。
岩手県の(株)柴田産業などもICTハーベスタ等を導入し、日本版CTL(短幹集材)システムの確立に挑む。枝条破砕用アタッチメントを活用した地拵え作業の機械化なども計画している。

宮城県の守屋木材(株)などは、スギの特定母樹「遠田2号」を使い、ha当たりの植栽本数を3,000本から1,500本に半減して再造林コストを削減する。併せて、川上~川下関係者の情報共有を進めて、適正な山元還元が行えるシステム構築を目指す。
岐阜県では、県立森林文化アカデミーが実施してきた林業用無人化技術開発をベースに、白鳥林工協業組合などが遠隔操作可能な架線集材システムなどの導入を進める。

奈良県の吉野地域は、「ヘリ集材依存からの脱却」をテーマに架線系集材への転換を進め、伐出コストの削減を図る。また、バイオマスパワーテクノロジーズ(株)などが地上レーザ測量などで森林情報のデジタル化を進め、川下側のニーズとマッチングさせる。
和歌山県では、前田商行(株)が日本森林技術協会とともに、タワーヤーダフル活用モデルの構築に取り組む。一度に多くの資材を運搬できるロングタイプコンテナバッグや生分解性ツリーシェルターなどを活用して苗木運搬・植栽の効率化を図ることにしている。

「立木公売」の試行も計画、今後に向け「成功事例が欲しい」

山口県の長門市で2020年7月に発足した森林管理組織「リフォレながと」は、スマートグラスを使った森林資源調査などICT化を進め、「長門型モデル」を構築する計画だ。
宮崎県では、ひむか維森の会などが伐採地の奥地化に合わせて新たな架線集材システムの導入を進める。油圧集材機と遠隔操作グラップル搬器を組み合わせ、先山の荷掛け作業は無人化する予定だ。

同じく宮崎県の都城森林組合などは、マルチャー(木材破砕機)や防草シートなどを使って地拵えや下刈り作業を軽減する。素材生産についても、4t4WDダンプや風呂敷型フレコンバックなどを利用して輸送コストを削減するという。
鹿児島県の大隅地域では、(株)岡本産業などがチェーンソーを使用しない生産システム、すなわちロングリーチグラップルソーやハーベスタによる伐倒・木寄せ作業に転換し、素材情報クラウドシステムによるマーケットイン型取引の試行にも着手する。

以上、駆け足の紹介になってしまったが、全般的に最新のICT機器やデジタル情報を駆使して作業工程を効率化し、収益性の向上を目指す取り組みが多い。その中でやや異色なのは、ひむか維森の会などが一般民有林を対象にした「立木公売」シミュレーションの実施を計画していること。中央7団体の「共同行動宣言」*2を踏まえ、再造林可能な立木価格を保証できる新たな仕組みづくりにチャレンジするという。

これら10件については、これから現地検討会などを重ねて、事業プランを現場に落とし込んでいくことになる。「新しい林業」は、来年度(2023年度)予算要求でも重点事項の1つに位置づけられており、林野庁の担当官は、「成功事例が欲しい」と率直に言う。今後の推移をウォッチしていく必要がありそうだ。

(2022年7月26日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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