北米の実情を踏まえウッドショック後を見通す【遠藤日雄のルポ&対論】

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いわゆる「ウッドショック」が収束してきた。業界を混乱させたモノ不足と価格高騰が沈静化し、ようやく腰を落ち着けて本来の業務に集中できる状況になってきた。ここで重要となるのは、今回のウッドショックから何を学び、そこから得られる教訓をどう活かしていくかだ。そこで、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、ウッドショックの“起点”となった北米の事情に精通するビジネスパーソンに“生の声”を聞くことにした。オンラインでの「対論」を呼びかけたのは、ウイング(株)(東京都千代田区、倉田俊行社長)の堀元秀祠・専務取締役。堀元氏は、20年以上にわたってカナダを拠点に2×4材(SPFディメンションランバー)の対日供給を最前線で担ってきた。そのプロの眼に、世界と日本の現状と未来はどう見えているのか。

カナダ産2×4材の価格が2020年9月に急騰し、制御できない状況に

堀元氏が専務取締役をつとめているウイングは、2×4建築資材の製造・販売を事業の柱に据え、関連サービスを幅広く提供している。1987年に発足して以降、カナダ産2×4材の対日供給窓口として存在感を高め、最近は国産材(日本産木材)の利用にも積極的に取り組んでいる。3月には農林水産省との間で改正木材利用促進法に基づく「建築物木材利用促進協定」を締結したばかりだ。

遠藤理事長

我々が振り回されたウッドショックとは一体何だったのか、“外の視点”を活かしながら検証していきたい。ウッドショックの引き金となったのは、カナダ産2×4材の価格高騰だったが、現地の実情はどうだったのか。

堀元専務

カナダで2×4材の価格に大きな変動が起きたのは、一昨年(2020年)9月のことだった。それまでは(Mfbm当たり)400ドル前後で推移していたものが、9月になって955ドルと倍の価格になった。その後、11月に580ドルへ一旦下がったが、翌21年2月には1,025ドルに暴騰し、5月には1,635ドルと過去最高値をつけた。ところが、3か月後の8月には385ドルに急落した。価格の制御がつかないような状況になった。

遠藤

それだけの乱高下があると、対日輸出価格にも大きな影響が出ることになる。

堀元

日本向けも500~600ドルだった価格が昨年6~8月には過去最高値の1,890ドルに高騰した。その後、北米ほどの乱高下はないが、1,000ドル以上の価格帯で推移する状況となっている。今後もこの価格帯が1つの目安になるだろう。

堀元秀祠・ウイング専務取締役

潜在するロジスティクスの問題、先買いなどが拍車をかける

遠藤

日本でもウッドショックで木材製品価格が上がったが、北米ほどの急騰や急落はなかった。北米では、なぜ極端ともいえるような価格変動が起きるのか。

堀元

大きな要因としてロジスティクス(物流の最適化)の問題がある。北米では2018年の冬にも木材製品に関わる物流が滞り、価格が暴騰した。この問題が解消されていない中で、コロナ禍による物流停滞が生じ、混乱が広がった。
米国の仲買業者などは、モノがないと余計に先買いしようとして、サプライヤーに高値のオファーを出し拍車をかける傾向がある。今回のウッドショックでも、このような状況がみられた。

遠藤

潜在的にロジスティクスの問題があるわけか。

堀元

もう1つ、コロナ対策でトレーダー達のテレワークが進んだことも価格を乱高下させる要因になった。木材製品を売買するトレーダー達が在宅勤務になり、お互いの顔色などを探りながら取引をすることがなくなった。リアルな生の情報が不足する中で、価格の変動幅が大きくなっていった側面がある。
トレーダー達は実績ベースで報酬を得るので、できるだけ高く売ろうとする。工場渡しや工場戻しなどの価格よりも高く売れば、それが評価されるので、価格が釣り上がっていったというのが実情だ。

遠藤

それでも一直線に価格が上がり続けたのではなく、急激に下がってもいる。なぜなのか。

堀元

基本的に価格は、需要と供給の関係で決まる。需要に対して供給が少なければ価格が上がり、供給過多ならば価格は下がる。例えば、カナダ産2×4材の価格は20年9月に955ドルに跳ね上がった後、11月には580ドルへ急落した。これは、11月は冬でビルディングシーズンではなく、需要が減ったからだ。

欧米は国境をオープンにして経済回復へ、懸念はインフレ

遠藤

ウッドショックに続いて、ロシア・ウクライナショックが起きるなど、世界の木材市場(マーケット)はなかなか落ち着かない。これからどうなっていくとみているか。

堀元

今後を予測することは難しいが、欧米ではコロナ感染を乗り越えて、国境をオープンにし、経済を回そうという動きが主流になっている。7月にカナダに行ったときも、日本人留学生が例年より多くいた。カナダは、外国人を積極的に受け入れて国力を伸ばす政策をとっており、コロナ後を見据えていち早く留学ビザの発行を再開するなど、人材の確保に踏み出している。人口減少が進んでいる日本も参考にして検討を急がないと出遅れてしまうことになりかねない。

遠藤

欧米の経済回復が進むと、日本が海外から木材製品を調達することは益々難しくなりそうだ。

堀元

ただ、欧米では急速なインフレ(物価高)により需要が縮小する恐れがある。米国やカナダでは、プライムレートがすでに4%台になっており、年末までに6%を目指している状況だ。これに伴って、住宅ローン金利も上がり、住宅着工に影響が出てくるだろう。米国の新設住宅着工戸数は150万戸強で推移しているが、これを下回るようになるのではないか。

2×4工法で建てられたカナダの住宅

輸入と国産のバランスをとり、自国の資源を有効活用する

遠藤

ウッドショックで再認識させられたのは、木材は国際商品であるということだ。北米で起きた価格変動がたちまち世界に波及し、日本の木材市場も大いに揺さぶられた。
同時に、日本の森林資源をもっと活用すべきという声も強まっている。

堀元

自由貿易体制の中で調達リスクを減らしていくためには、輸入製品と国産製品をバランスよく使っていくことが重要だ。日本には1,000万haの人工林があるのだから、今回のウッドショックを踏まえて、もっと利活用を進めるべきだろう。具体的には伐採量を増やして原木(丸太)の供給力を高めるとともに、確実に再造林を行える仕組みをつくっていく必要がある。

遠藤

その循環システムの構築がなかなか難しい。

堀元

カナダの森林は94%が公有林で、政府が国民に代わって実質的に管理している。木材企業などに対しては、一定の区画の森林について5年から10年単位の伐採権を与え、伐出・再造林が完了したら返すというシステムができている。返す際には、植林だけにとどまらず、微生物などを含めて森林生態系が再生されていることを確認することを義務づけており、よくできたシステムといえる。

遠藤

日本の国有林でも、伐採権に近い「樹木採取権」が導入されたが、まだスタートしたばかりだ。

堀元

国際競争という観点からいうと、一定のスケールの伐出量が安定的に確保されないとビジネスとして成り立たない。極論になるが、日本の人工林をすべて国が買い上げて管理・経営するような発想も必要ではないか。日本にある森林が大きなポテンシャルを持っていることは間違いない。

(2022年7月28日取材)

(トップ画像=北米では物流網の整備が重要課題になっている)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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