(後編)100年企業の北三が目指すツキ板の新地平【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)100年企業の北三が目指すツキ板の新地平【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)昨年(2024年)5月12日に創業100年を迎えたツキ板のトップメーカー・北三(株)(東京都江東区、尾山信一・代表取締役社長)は、オイル・ショックとリーマン・ショックという大きな存続の危機を乗り越え、新たな事業展開に踏み出している。同社を率いる尾山社長と遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、今後を展望する中で、今までのやり方を単純に続けているだけでは時代に合わなくなるという共通認識に至った。では、何を、どう変えていけばいいのか。同社取締役相談役の冨部久氏も加わり、3名が鼎談をしながら将来ビジョンを描いていく。

サステナビリティ(持続可能性)に配慮しながら原木を調達

遠藤理事長

北三が“次の50年・100年”を目指す上で、サステナビリティ(持続可能性)を重視しているという話はとても重要だ。環境問題への対応が遅れると、消費者からの支持や信頼が得られない時代になっている。具体的に、どのような取り組みを行っているのか。

尾山社長

弊社は、海外各地から様々なツキ板洋原木を調達している。これらの原木をサステナビリティに配慮して確保していることをユーザーらに広く伝えていきたい。その先進モデルとなっているのがボリビアだ。

遠藤

南米のボリビアか。北三のツキ板加工工場があるところだ。

冨部相談役

ボリビアでは、工場の運営とともに、山林での伐採も行っている。

遠藤

どのような伐採を行っているのか。

ボリビアの森林でモデル的経営を実践、立木を1本ずつGPS測定

冨部

弊社は、ボリビア東部の森林で、5万haの伐採権を保有している。
ボリビアの森林法では、自然環境保護と持続的な木材活用の両立を目的として定め、年間に伐採できる面積は所有する総エリア面積の5%までとし、伐採条件に見合う原木のうち20%は種木として残し、伐採後20年間はエリア内での伐採を禁ずることなどを義務づけている。

遠藤

かなり厳しいルールだ。伐採を行うための手続きはどうなっているのか。

冨部

伐採エリア内で毎木調査を行って伐採計画書を作成し、森林局に提出して承認を得なければならない。
毎木調査は、立木の位置を1本ずつGPSで測定し、樹種名や直径・高さなどのデータを現地で収集している。これらのデータに基づいて伐採木を選定しているが、樹種ごとに伐採可能な直径が決まっており、それに満たない立木は残して、20年後のタイミングまで待たなければならない。

毎木調査の様子(画像提供:北三)
遠藤

立木を1本単位でGPS測定しているのか、違法伐採対策でEU(欧州連合)が本格的に導入しようとしているEUDR*1*2*3を先取りするような取り組みだ。

冨部

EUDRの話を聞いたとき、弊社のボリビアの森林なら十分に対応できると思った。世界的に木材調達の“グリーン化”が当たり前になってきている。ボリビアの森林で実践してきた経験と得られた知見は、他の国や地域でも活かせるだろう。

カリフォルニア州では果樹の役目を終えた木をツキ板に再生

尾山

北米のカリフォルニア州では、クルミの実をとるウォールナットを育て、循環利用する取り組みが続いている。

遠藤

それはどのような取り組みなのか。

尾山

世界で消費されるクルミの実の3分の2は、カリフォルニア州で生産されている。カリフォルニア州ではいくつもの農園でウォールナットを育てている。その面積は1,500km2で、東京都をひと回り小さくしたくらいの広さだ。

ウォールナットの農園(画像提供:北三)

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遠藤

そんなに広大な面積なのか。

尾山

農園はいくつもの区画に分かれており、生育時期をずらすことで、植林と収穫を継続的かつ循環的に行っている。
収穫率を高めるため、アメリカンウォールナットの台木にイングリッシュウォールナットを接ぎ木しており、6~8年で実がなるようになる。

遠藤

1本の木からクルミの実はどれくらいとれるのか。

尾山

年間に1,500個ほどのクルミの実を収穫できる。50年以上経つとだんだん収穫量が減ってきて、70年を過ぎると果樹としての寿命は終わる。ただ、ここからが循環利用の“本番”になる。

遠藤

本番とは?

尾山

老木となったウォールナットを「クラロウォールナット」としてツキ板に加工している。接ぎ木によって瘤状に膨らんだ木葉肌をスライスしていくと、特有の綺麗な木目が出て、高級感を醸し出す。「クラロウォールナット」は、家具や高級車の内装などに採用されている。

遠藤

果樹としての役目を終えた木を、ツキ板として再生させているわけか。まさしくサステナブルだ。

国産材の利用も増やしながら、ストーリーと本物を提供する

遠藤

7年前に北三のショールームを訪ねたとき、尾山社長から日本の木=国産材をもっと使っていきたいという話を聞いた。その後は、どうなっているのか。

尾山

当時から「北三×国産プロジェクト」を続けており、とくに東京都の多摩産材は継続的に使用している。弊社が使っている全木材量に占める国産材の割合はまだ少ないが、徐々にウエイトは高まってきている。

遠藤

最近は国産の広葉樹に脚光が当たり始めているが、どう見ているか。

冨部

長年、海外からツキ板洋原木を調達してきたが、昔と比べていいものが本当に少なくなった。原木(丸太)の輸出規制も広がっており、国内で調達できるのであれば、是非とも採用していきたい。
ただし、国産のカバやセン、ケヤキなど品質のいいものもあるが、いかんせん出材量が少ない。同業他社も買い付けにいくので、どうしても値段が高くなってしまう。出材量が継続的に増えていくことを期待している。

尾山

現実的に考えると、世界的に原木の供給力が急増することはないだろうし、これから買い付けなどは益々難しくなってくるだろう。
弊社としては、その中で調達した木を上手に料理して、ストーリー(物語)とともにユーザーに提供できるかが勝負になる。
木は、長い時間をかけて成長し、加工されてユーザーの手元に届く。その過程にはいろいろなストーリーがあり、丁寧に伝えていけば製品の魅力を高めることにつながる。そういう仕組みを考えていきたい。

本物の価値を引き出すツキ板の製品群
冨部

アメリカ広葉樹輸出協会などは、分厚い製品カタログと説明書を用意して、米国産広葉樹の合法性や持続可能性に関するキャンペーンを盛んに行っている。日本の木材業界も、もっと一致結束して積極的なPR活動を展開していくべきだろう。

尾山

これから国内外のマーケットは二極化が進み、低価格品と高級品に分かれていくのではないか。その中で生き残っていくためには、本物にこだわっていく必要がある。天然の木目を活かしたツキ板は間違いなく本物だ。これまでの100年で、ツキ板へのニーズは絶対になくならないと確信している。今後も、時代の変化を見極めながら、本物を提供し続けていきたい。

(2024年12月2日取材)

(トップ画像=北三のショールームで意見を交わす(右から)尾山社長、冨部相談役、遠藤理事長)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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