(後編)井上篤博・セイホク社長が構想する新戦略【遠藤日雄の新春対談】

全国 海外 合板・LVL

中編からつづく)政府が2021年6月に閣議決定した森林・林業基本計画では、合板用国産材使用量を2025年には700万m3へ増やす目標を掲げた。これに対し、2023年の国内合板メーカーによる国産材消費量は約390万m3だった*1。この実績に照らすと、700万m3というゴールはかなり遠くにあり、新たな合板の出口(需要先)をつくり出さなければ到底達成できるものではない。ただ、井上篤博・セイホク(株)代表取締役は、ゴールを目指す体制づくりは「整ってきている」と口にする。構造用合板に加えてフロア台板や型枠用合板での国産材利用を進め、超厚合板(CLP=Cross Layered Plywood)*2によって非住宅木造市場を開拓しようとしている合板業界が次に打ち出す“一手”とは何か。井上社長が構想する新たな事業戦略の中核に、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が近づいていく。

住宅戸数の減少だけでなく世帯当たり人数も減ってきている

遠藤理事長

合板業界が700万m3という国産材使用目標に到達するのは容易ではないだろう。とくに、人口減少で国内の住宅市場が縮小過程に入っていることを踏まえると、なかなか右肩上がりのシナリオは描きにくい。

井上社長

非常に厳しい状況にあることは間違いなく、強い危機感を持っている。人口減少との関わりでは、住宅戸数の減少だけでなく、1世帯に住む人の数が減っていることも深刻だ。かつては、父・母と子供2人の4人家族が標準的な世帯のモデルになっていたが、今は2.2人くらいに減少している。1人で暮らす方も増えてきている。1世帯当たりの人数が2.0人を下回るようになると、大きな広い家はいらなくなる。これに伴って、合板を含めた住宅部材の絶対的な必要量も減っていくだろう。

遠藤

確かに、手をこまねいては、ジリ貧になるだけだ。ただ、国内の人工林資源が成熟し、供給力のアップが見込めるのは700万m3達成へのプラス要因ではないか。

井上

総論ではそのとおりだが、現実的には出材量や樹種などに関わる地域差が大きい。大ざっぱに言っても、ヒノキは国内の南に、カラマツは北に偏って分布している。個々の合板メーカーが必要な原木(丸太)を確保するために、工場から遠く離れたところで買い付けて、長い距離を輸送しているという実態がある。
また、原木を安定して購入し続けることも難しくなってきている。

燃料材が国産材の価格形成を主導、マテリアル利用が困難に

遠藤

国産材の買い付けで主導権を握っているのは合板業界だと言われてきたが、今はそうではないのか。

井上

木質バイオマス発電所向けの燃料材の消費量が増え続けていることが現場の状況を変えてきている。燃料用には、いわゆるC・D材が向けられ、合板用のB材とは住み分けてはいるが、全般的な価格形成の主導権は燃料材が握るようになってきている。

遠藤

エネルギー利用される木質バイオマス量は増加の一途だ。2022年における燃料材の国内消費量は前年より18.0%も増えて1,800万m3近くになった。国内生産量も9.8%増の約1,000万m3に達している(参照)。
井上社長は、前回の対談(2015年1月)のときも、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)に後押しされた木質バイオマス発電所が増えすぎると、木材のマテリアル利用が崩れると懸念を示していた*3。それが現実のものとなってきたのか。

燃料材の国内消費量の推移
井上

FITが導入された頃は、燃料チップになるD材の価格はm3当たり5,000円程度とされていた。それが今では地域によっては1万円程度にまで上昇している。サーマル利用の木材価格がここまで上がってくると、製材や合板、集成材などのマテリアル利用にも支障が出てくる。木材を適材適所で繰り返し有効利用し、付加価値を高めて山元への資金還元を増やすという循環システムが実現できなくなる。政府はFITの見直し作業を進めているが、日本の森林・林業・木材産業全体を視野に入れて、望ましい制度のあり方を考えるべきだろう。

合板の新たな活用方法を提案し、内装の木質化を進めていく

遠藤

国内の住宅着工戸数が減る中で、中高層ビルの木造・木質化などによって新規需要を生み出そうとする動きが活発化している。合板業界も超厚合板という新製品を軸に非住宅市場の開拓に乗り出しているが、見通しはどうか。

井上

すでに、スギの単板を積層した厚さ50mmの合板でJAS認証を取得しており、弊社が試験的に製造した厚さ200mmの合板が木造ビルの接合部分に採用されるなど、徐々に使用実績とマーケットでの認知度が高まってきている。CLT(直交集成材)などの新しい木質材料とともに、ゼネコンやデベロッパーなど新たな顧客層に利用を呼びかけていきたい。
それとともに、内装の木質化でも合板の需要を広げられると考えている。

厚さ200mmの超厚合板のサンプルについて説明する井上篤博社長(左)
遠藤

それは化粧合板の利用拡大ということか。

井上

いや、合板の新たな活用方法を提案しながら内装の木質化を進めていきたい。例えば、弊社グループの秋田プライウッド(株)(秋田県秋田市)が昨年(2024年)4月に開設したショールームでは、合板をあえて露出させ、デザイン性を高めて木質化を図った。ウェブサイトで画像を公開している。おかげさまで多方面からご好評をいただいており、「ウッドデザイン賞2024」にも選定された。

遠藤

なるほど。画像で見るだけでも、これまでの合板の使い方とは全く違うことがわかる。明るく洗練された木質空間ができている。

井上

このショールームは、秋田プライウッド向浜工場の厚生棟をリノベーションしてつくった。デザイン面では、秋田公立美術大学などのご協力をいただいた。サッカーのJ2リーグに所属するブラウブリッツ秋田のクラブハウス(秋田県潟上市)の内装を合板で仕上げるなど広がりが出てきている。合板の持っている新たな可能性を広く伝えていきたい。

向浜工場厚生棟の会議室、合板の木口を見せた壁面は躍動感のある仕上がりになっている(秋田プライウッドのウェブサイトより)

木材需要の“懐が深い”米国市場を開拓し、世界を目指す!

遠藤

国内需要を掘り起こす取り組みが進んできていることがわかった。最後に聞きたい。海外戦略についてはどう考えているのか。

井上

海外市場の開拓は、最重点課題の1つだ。まず米国での販路拡大を目指しており、日本木材輸出振興協会と連携して、現地で通用する基準・強度等の規格を取得することにしている。

遠藤

米国製材規格委員会(ALSC)が昨年4月にヒノキ2×4材の設計強度を認可して輸出の足かがりができ、スギも続いている*4。合板も同様のステップを踏んでいくのか。

井上

そうなる。米国は、世界的な「木の国」で、実に豊富で幅広い木材需要がある。強度が弱い木材でも、その特性を活かした使い方をしている。ただし、強度や性能に関する客観的なデータがないとユーザーは使いようがない。この点をクリアにして、合板の米国輸出を軌道に乗せたい。

(2024年12月3日取材)

(トップ画像=合板を活用して木質化リノベーション事業を行った向浜工場厚生棟(RC造、3階建て)の内部、秋田プライウッドのウェブサイトより)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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