(前編)破竹の勢いで日本の山を動かすBPTグループ【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)破竹の勢いで日本の山を動かすBPTグループ【遠藤日雄のルポ&対論】

1,000万haに及ぶ日本の人工林は、世界的にみても高い木材供給ポテンシャルを持っている。人工林の約6割は50年生を超えて本格的な利用期に入っており、脱炭素化や花粉対策などの面からも「伐って、使って、植えて、育てる」サイクルを加速しなければならない。そこで必要となるのは、林業・木材産業を次代に導けるような新しい人材と企業の台頭だ。保守的な風土に新風を送り込むような動きはないのかと思慮を重ねていた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長のもとに、ある情報が届いた。それは、三重県松阪市に拠点を置くバイオマスパワーテクノロジーズ(株)(北角強・代表取締役社長)が関連企業とBPTグループを形成し、多彩なビジネスを展開して“山との関わり”を深めているというものだ。関係者らに話を聞くと、「事業展開が早すぎてついていけない」と口を揃える。一体、松阪の地で何が起きているのか。最新状況を掴むために、遠藤理事長はBPTグループを率いる北角社長に「対論」を呼びかけた。

林業とエネルギー事業の融合によって資源循環型経済を構築

遠藤理事長

はじめにバイオマスパワーテクノロジーズを中心としたBPTグループの全体像と、何を目的に事業を行っているのかを教えて欲しい。

北角社長

BPTグループの事業目的は、林業とエネルギー事業を融合させて持続可能な資源循環型経済を構築することだ。2050年カーボンニュートラルを見据え、グリーン成長戦略の一翼を担うべく、これからの時代にふさわしい林業とエネルギー事業の創造を目指している。
グループを構成する企業はのとおりで、林業部門は(株)玉木材(奈良県五條市)、エネルギー部門はバイオマスパワーテクノロジーズとパワーエイド三重合同会社が担い、(株)インテグリティエナジー(大阪府枚方市)が包括的なマーケティングや戦略立案などを行っている。

BPTグループを率いる北角強・バイオマスパワーテクノロジーズ社長
遠藤

社員数や資本金、年商はどのくらいなのか。

北角

グループ全体で役員を含めて32名が働いており、平均年齢は46.5歳だ。資本金は1億6,580万円、資本剰余金も含めると4億1,080万円、直近の年間売上高は6億6,250万円になっている。

発電所新設、林業部設置、玉木材をM&A…一気呵成に進む

遠藤

林業とエネルギー事業で6億円以上ものビジネスを展開し、それを北角社長が指揮しているわけか。どうやってそれだけの事業基盤を築き上げたのか。

北角

私は慶應大学を卒業後、IT企業などでの勤務を経て、2011年10月に再生可能エネルギーのコンサルティングを行うインテグリティエナジーを起業した。そして、同年11月から三重エネウッド(株)(三重県松阪市)による松阪木質バイオマス発電所1号機の立ち上げに関わり、発電事業を安定して行うためのノウハウなどを学んだ。その上で、2015年12月に三重エネウッドの創業者である西川幸成氏とともにバイオマスパワーテクノロジーズを設立した。
ここまでがBPTグループのいわば前史となる。

遠藤

前史だけでも非常に興味深いが、その後はどのような経緯を辿ってきたのか。

北角

2018年から2022年までは、木質バイオマス発電所の新設及び安定稼働と林業関連事業の拡充・強化に注力してきた。
まず、バイオマスパワーテクノロジーズとして、松阪木質バイオマス発電所1号機の隣接地に2号機を建設し、2018年に商業運転を開始した。翌2019年には林業事業部を創設し、2020年には吉野林業地の老舗企業である(株)玉木材をM&A(合併・買収)によってBPTグループに迎えた。
続いて、2022年に松阪市飯高町の飯盛生産森林組合と森林資源利用に関する基本協定を締結し、国(林野庁)の公募事業である「『新しい林業』経営モデル実証事業」に採択された。
ここまでをBPTグループのロードマップでは第1次中期事業計画と位置づけている。

BPTグループの2018~2022年における取り組み

2027年に向けて「エネルギーの森」や燃焼灰利用、発電所の新設などを計画

遠藤

一気呵成に事業を拡張しているようだが、第1次中期事業計画ということは第2次もあるのか。

BPTグループの2023~2027年における事業計画
北角

2023年から2027年を第2次中期事業計画として、BPTグループのミッションである資源循環型経済の構築に向けた取り組みを強化している。
2023年にNRDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「エネルギーの森実証事業」に採択されるとともに、木質バイオマス発電事業の“悩み”である燃焼灰を有効利用するために、専門部署を新設した。
また、松阪木質バイオマス発電所の3号機として、パワーエイド三重合同会社がFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)に頼らない発電所を新設することを決めた。この発電所は、「パワーエイド三重シン・バイオマスⓇ松阪発電所」と名づけており、来年(2025年)4月に稼働を始める予定だ。
以降も、2027年にはBPTグループのホールディングス化や早生樹育成事業の横展開などを計画している。

タイプの異なる発電所を組み合わせ、資源を余すことなく利用

遠藤

それだけハイペースにビジネスを展開しているのでは、関係者が「ついていけない」と慨嘆するのも頷ける。一連の事業の起点であり中核となっているのは松阪木質バイオマス発電所のようだが、どのくらいの規模なのか。

北角

2014年に稼働した1号機は、発電出力が5,800kWで発電燃料には未利用材や一般木材を使っている。日本では3番目、西日本では初のFIT対応発電所だ。
2018年から商業運転をしている2号機は、小規模分散型の発電所になっている。発電出力は1,990kWで、燃料には未利用材や一般木材のほかに、建築廃材やバーク(樹皮)も使用している。

遠藤

水分が多くて扱いづらいバークも燃料にしているのか。

北角

1号機と2号機は、発電容量や燃焼・冷却方式、使用燃料が異なる。1号機と2号機を組み合わせ、お互いにカバーしながら特長を発揮できるようにして、地域の森林資源を余すことなく有効利用するようにしている。とくに、建築廃材やバークは1号機では持て余していた資源だったので、2号機ができたことによって山から出てくるものをすべて価値化できるようになった。

遠藤

さらに3号機を新設する計画があり、それもFITに頼らない発電所というのは日本初になるのではないか。FITを利用しないで採算はとれるのか。

北角

BPTグループには、若くて優秀な技術者がいるので、NON-FIT発電所でも必ず事業化できる。(中編につづく)

(2024年8月26日取材)

(トップ画像=松阪木質バイオマス発電所の2号機)

『林政ニュース』編集部

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