井上雅文・東京大学教授に聞く 林業・木材産業界もSDGsへの対応を急げ!【新春インタビュー】

全国 海外

井上雅文・東京大学教授に聞く 林業・木材産業界もSDGsへの対応を急げ!【新春インタビュー】

2015年の国連サミットで打ち出されたSDGs(持続可能な開発目標)への注目度が高まっている。大手企業などが対応を急ぐ中で、林業・木材産業界も取り組みの強化が求められている。では今、具体的に何をすべきなのか。先駆的な研究を続けている井上雅文・東京大学教授に課題と展望を聞いた。(文責・編集部)

民間企業の役割が増大、ESG投資が持続的成長の決め手に

──SDGsへの注目度が高まっている。2000年に国連などが策定したMDGs(ミレニアム開発目標)とは対照的だ。なぜSDGsはこれほどクローズアップされているのか。

井上教授 MDGsは途上国の課題解決をメインテーマとし、政府や国際NGOなどが果たす役割が大きかった。これに対し、SDGsは先進国が抱える課題も対象に含め、民間企業の役割が重視されており、裾野が広がっている。

とくに、SDGsと関連して、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視するESG投資をグローバル企業などが経営戦略の根幹に据えるようになり、風向きが大きく変わってきた。

──経済合理性の追求が優先される民間企業にとって、環境や社会問題に取り組むことは“足枷”になるのではないか。

井上教授 企業の持続的な成長力を評価するためには、キャッシュフローや利益率といった財務情報だけでなく、ESGに関する非財務情報が不可欠という考え方が常識になってきている。世界の企業によるESG関連投資額は2018年時点で3,300兆円に達しており、同年における世界全体の投資残高の3分の1を超えた。

SDGsの達成度が高い企業は財務指標も高く株主をはじめ社会からの評価も高いという調査レポートも出ており、企業の将来を展望する上で、ESGへの対応は極めて重要な評価指標になってきている。

潜在力を引き出す成功事例が必要、一過性でない取り組みを

──そうした状況の中で、日本、とりわけ林業・木材産業界の取り組みをどうみているか。

井上教授 2015年に公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(国連責任投資原則)に署名してESG投資にシフトしたことが呼び水となり、大手企業を中心にSDGsへの対応が加速した。林業・木材業界は非上場の中小企業が多いこともあって様子見状態だったが、大手企業とともにサプライチェーンを形成していることなどが認識され、ようやく取り組みが進んできた。だが、まだ本来持っている潜在力を活かせていない。

──SDGsの目標には、地球環境の保全、地域経済や社会の発展が含まれており、林業・木材産業は木材利用を通じて“居ながらにして”目標達成に貢献できる面がある。

井上教授 それが潜在的な優位性といえるが、改めてSDGsの目標に即して評価し直さなければいけない。そして、科学的根拠に基づいた説明責任を果たしていく必要がある。

森林整備や木材加工を行うためには、当然、機械を使うし石油も消費するので二酸化炭素を排出する。環境にいいとされるバイオマス発電も燃料調達で問題はないのか。森林や木材を扱うことに伴うリスク管理にも十分な配慮が求められる。

日本には「陰徳善事」という言葉があり、人に知られず善い行いをすることを「良し」とするところがあるが、SDGsに関しては、成功事例を自慢し合うくらいの姿勢が必要だろう。

2018年に東大生を対象に実施した意識調査では、大半の学生が就職活動の際に企業のSDGs貢献度を考慮すると回答した。つまり、SDGsに取り組むことは人材確保にもメリットがある。林業・木材産業界の関係者には、SDGsやESGは一過性のものではないと理解して取り組みを強化して欲しい。

(2020年1月8日取材)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(1493文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。