シンボル木造施設を核に「緑の循環」目指す白鷹町【進化する自治体】

シンボル木造施設を核に「緑の循環」目指す白鷹町【進化する自治体】

山形県中部に位置する白鷹町に真新しい木造建築物が次々と建設され、話題を呼んでいる。国の旗振りもあって、全国各地でモデル的な木造施設が増えているが、同町の場合は単に“箱物”をつくるのではなく、森林整備から木材の加工・利用まで一体的に進める「緑の循環システム」の実現を目指している。(文中敬称略)

町民が集う新たなランドマーク「まちづくり複合施設」が誕生

山形新幹線の赤湯駅から1~2時間に1本出るフラワー長井線に揺られて1時間、荒砥駅で下り、車で2~3分の高台に白鷹町のシンボル施設がある。基本構想から数えると丸6年を費やして新設した「まちづくり複合施設」だ。木造2階建てで、延床面積は4,558m2。構造材から内装・仕上げ材まで木材を“標準採用”しており、総使用量は約1,710m3(うち構造材は約1,260m3)に及び、その約75%は町産材が占める。

まちづくり複合施設の町民ラウンジ

施設名の「複合」とは、旧中央公民館と旧役場庁舎の機能を併せ持つことを意味する。施設内には図書館や町民ラウンジ、行政各課、教育委員会、中・大会議室などが“同居”しており、防火対策面での仕切りはあるものの、各セクションはシームレスにつながっている。施設全体は緩やかな斜面に建てられており、あえて平坦に整地せず、1階フロアには微妙な高低差を残した。それが“(あらわ)し”の木材とともに、建物の自然度を高めている。

施設整備に要した総事業費は、約36億円(旧庁舎等の解体費3.7億円を含む)。国の交付金や過疎債、保全債などに一般財源(約1億円)を加えて所要資金を賄った。5月に施設の供用を開始、6月には図書館が開館し、今年度末には周辺工事などを終えてグランドオープンする予定だ。

震災と豪雨災害で再び山に関心、高いポテンシャル引き出す

白鷹町で新設された“木の公共施設”は、「まちづくり複合施設」だけではない。同施設に隣接する消防署白鷹分署や、日本の(あか)をつくる町推進拠点施設(コミュニティセンター)、愛真こども園も町産材でつくられた。さらに、新しい老人福祉施設も木造平屋建てで建築中だ。

佐藤誠七・白鷹町長

同町が一気呵成に木造・木質化を進めている理由は何なのか。町長の佐藤誠七(68歳)は、「2011年の東日本大震災と、2013~14年に豪雨災害が立て続けに起こったことが大きい」と振り返る。

複合施設の前身である役場庁舎は1964年、中央公民館は1973年の建設で老朽化が進み、震災もあって早急な対策が必要な状況だった。そこに2年連続の豪雨で山から大量の流木が発生。幸い大きな被害は出なかったものの、「それまでは鉄筋コンクリートの概念しかなかった」佐藤の眼が山に向けられ、かつて林業が盛んだった頃の光景が蘇ってきた。

今は第3セクターが運営するフラワー長井線は、もともと国鉄で「どこの駅にも引き込み線があり、その周辺には材木屋がたくさんあった」。同町の業者は主に電柱材を生産し、「ものすごいボリュームで東京方面に白鷹の木が行き、戦後復興の役に立った」という。だが、高度経済成長の終息とともに、「材木屋は建設屋に変わり、生活の糧になっていた山の値段も落ちて関心が薄れていった」。

それが今、佐藤は“失われていた産業”を「再生したい」と明確に言う。同町の森林面積は約1万ha(林野率65%)で9割が民有林、人工林率は57%で県内1位。「戦後植林したスギの多くが50年生以上になっている」。このポテンシャルを引き出すことができれば、人口約1万3,500人の同町にとって、間違いなく新たな活力源となる。

乾燥センターがJAS材供給、再造林支援、“人材力”高める

 白鷹町は、2012年に公共建築物の木材利用促進方針を策定して以降、町内森林の活用に向けた勉強会などを重ね、関連施策を講じてきた。2016年には、おきたま木材乾燥センター(株)が設立され、人工乾燥機(容量30m3)2基と自動4面カンナ盤、グレーディングマシンなどを導入。同センターは、町内の製材業者が8社から3社に減ったことに対応して開設したもので、近隣市町などから持ち込まれる木材の乾燥も行っている。今年4月には、JAS認定工場になった。

おきたま木材乾燥センターの工場にストックされているスギ丸太

一方、川上対策では、西置賜ふるさと森林組合を中心に周辺の森林組合・林業事業体と連携して素材生産体制の強化などに取り組んでいる。複合施設用の伐出事業では、物林(株)(東京都江東区)にも一部の業務を委託、町長の佐藤は、「やっぱり民間企業のスピード感はすごい。大いに刺激になった」と言う。

まちづくり複合施設は今年度末にグランドオープンする

また、県の助成制度を活用して、伐採跡地における植栽後5年間の保育作業は、町と森林組合が引き受ける仕組みも整えた。

これら川上から川下に至る一連の取り組みを通じて同町が目指すのは、持続的林業を実践できる「緑の循環システム」の構築。この目標達成に向けて、佐藤が最も重視しているのは、“人材力”の強化だ。

同町は、国や県との人事交流を積極的に行っており、複合施設の建設では、林野庁から4年間の長期にわたって同町企画主幹に出向した永野徹(現・四国森林管理局愛媛森林管理署次長)が裏方役を担った。佐藤は、「地元に溶け込み本当によくやってくれた」と賛辞を惜しまない。 同町は、森林環境譲与税の活用も睨んで、地域林政アドバイザーを雇用し、都市部との連携強化を模索するなど、着々と“次の手”を打っている。「これからも“つながり”を大事にしていきたい」と話す佐藤の目線の先には、新しい町の姿がくっきりと映っているようだ。

(2019年7月24日取材)

(トップ画像=山形県の白鷹町に木造2階建ての先進的な建築物「まちづくり複合施設」ができた。1階には図書館があり5万冊の本を揃えて6月1日に開館、今後は蔵書数を8万冊に増やすことにしている。)

『林政ニュース』編集部

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