「高機能化木材」で100年企業を目指す細田木材工業【遠藤日雄のルポ&対論】

「高機能化木材」で100年企業を目指す細田木材工業【遠藤日雄のルポ&対論】

企業の寿命は30年と言われる。それほど時代の荒波を乗り越えていくことは難しい。だがその中で、今年で創業90年を迎えている木材企業が東京・新木場(江東区)にある。1931(昭和6)年設立の細田木材工業(株)だ。北洋材の製材業者として産声を上げた同社は、いち早く木材の人工乾燥に取り組んだ後、ツキ板化粧合板、集成材、フローリング、ウッドデッキへと主力製品をシフトさせながら顧客ニーズに応え、経営基盤を固めてきた。そして今、前面に打ち出しているのが「高機能化木材」の生産・販売だ。100年企業を視界にとらえた同社が描いている事業戦略の核心を知るために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は新木場に向かった。

培ってきた技術を投入した「きえすぎくん」がトリプル受賞

細田木材工業に着いた遠藤理事長は、同社の細田悌治社長らに出迎えられ、応接兼展示ルームに入った。そこではレーザー加工機が稼働しており、壁には多摩産材のタイルが貼られ、様々な木製小物が並んでいた。中でも一際存在感を放っていたのが「きえすぎくん」*1。書いて消せる木のホワイトボードとして2017年に発売され、テレビなどマスメディアでもたびたび取り上げられている話題の商品だ。

マーカーや水性クレヨンで簡単に書いて消せる「きえすぎくん」、左側のボードには社員の似顔絵がコミカルに描かれている
遠藤理事長

「きえすぎくん」の評判はよく耳にする。売れ行きはどうなのか。

細田社長

おかげさまで様々な方面から注文をいただいている。木製スタンドタイプや壁面取り付けタイプ、パーテーションタイプなどがあり、材料には多摩産のスギをはじめ、全国各地のムク(無垢)材や合板なども用いることができる。
2018年にはグッドデザイン賞とウッドデザイン賞、間伐・間伐材利用コンクールの間伐推進中央協議会会長賞を受賞した。最近では木質内装化の一環としてオフィスの壁全面に「きえすぎくん」を取り付けるケースも出てきている。

細田悌二・細田木材工業社長
遠藤

トリプル受賞とはすごい。傷つきやすい木の板をホワイトボード代わりに使えるようにした逆転の発想が評価されたのだろう。どうやってつくっているのか。

細田

スギなどの木材を幅はぎして1枚の板にし、反りを防ぐために「アリ溝」という加工を施している。表面は弊社独自の塗装技術で仕上げ、木の質感を失わずに、書きやすく、見やすくなるようにした。都立産業技術研究センターに持ち込んで5万回書いても性能が維持できることを確認し、自信を持って商品化した。

遠藤

「きえすぎくん」には、細田木材工業が培ってきた技術やノウハウが投入されているわけか。

細田

そういうことになる。では、現場をご案内しよう。

溶脱・白華を解消、不燃木材「エフネン65S」の販売好調

細田社長と遠藤理事長は、工場兼製品倉庫に移動した。国内外から調達した各種の木材がストックされており、モルダー、NCルーター、サンダーなどの切削加工機械や、フローコーター、ロールコーターなどの塗装マシン、薬剤含浸設備などが完備されている。

遠藤

都心でこれだけ充実した木材の加工処理体制を整えているところは珍しいのではないか。主力製品を教えて欲しい。

遠藤

都心でこれだけ充実した木材の加工処理体制を整えているところは珍しいのではないか。主力製品を教えて欲しい。

細田

代表的な製品の1つが不燃木材だ。弊社は、2008年まで木材の不燃処理を行っていたが、溶脱や白華の問題が解決できず、一旦取り扱いを中断した。しかし、その後も研究及び製品開発を重ね、従来の自社大臣認定の不燃木材「セーフティ不燃」に加え、溶脱・白華減少を極力抑えた低吸湿性不燃木材「エフネン65S」を2019年から本格的に製造・販売している。これが都市ビルの羽目板やルーバーなど様々なところで使われるようになってきた。

細田

ホウ酸やリン酸系の薬剤で不燃処理した木材は吸湿性が高く、表面がベタベタになったり、ホウ酸の結晶で白くなる現象が生じる。「エフネン65S」は吸湿性を限界まで抑えた薬剤を用いることで、この問題を解消した。本来内装用の開発された製品だが、耐候性の高いウレタン塗料で仕上げることで、直接雨がかりのない軒天井など半屋外での使用に耐えうる製品として評価及び認知され、導入事例が増えてきている。

不燃木材「エフネン65S」の低吸湿性を“見える化”しているサンプル

アセチル化、液体ガラス等特殊塗装で木材の利用範囲拡大

遠藤

不燃木材の他にメインになっている製品は何か。

細田

アセチル化木材の「アコヤ」がある。木材をアセチル化処理すると耐久性や寸法安定性が向上することは古くから知られており、日本では1986年にツキ板のアセチル化事業が試みられた。だが、コスト面で採算が合わなかった経緯がある。
弊社が取り扱っている「アコヤ」は、ニュージーランド産のラジアータパインをオランダの工場でアセチル化した製品で、デッキやベンチなどの外構・エクステリア用に採用されている。
昨年9月に福島県双葉町で開館した東日本大震災・原子力災害伝承館では、外壁に「アコヤ」、内部に「セーフティ不燃」を使用していただいた。

遠藤

国産材を使った製品で有望なものはあるか。

細田

特殊塗装を施したフローリングなどの引き合いが多くなってきている。弊社は、以前からウレタン塗装とオイル塗装を行っていたが、2010年から特殊液体ガラス含浸コート剤による塗装処理も行っている。一般的なオイルフィニッシュよりも液体ガラスの方が木材の自然な風合いが保たれ、メンテナンスも楽になるなどメリットが多い。

スギ、ヒノキなどを特殊塗装処理した製品の見本

メーカー視線ではなくお客さん視線でものづくりを続ける

遠藤

不燃、アセチル化、特殊塗装という3つの技術がキーポイントになっているわけか。

細田

そうだ。これらの独自技術を活かして「高機能化木材」の製造・販売をさらに強化し、マーケットを広げていきたい。

遠藤

そこでターゲットとなるのは、都市部の非住宅分野か。

細田

既存の住宅市場が縮小するのは確実なので、新しい需要分野を開拓していかなければならない。幸い東京では大型の再開発事業がいくつも計画されており、ビジネスチャンスは多い。その中で、これからは国産材へのニーズが益々強くなっていくだろう。

遠藤

ところで細田木材工業の社員は何名か。

細田

役員を除くと40名弱だ。

遠藤

中小規模の木材企業の数は一貫して減り続けている。その中で、90年にわたって社業を継続し発展させてきた秘訣を教えて欲しい。

細田

創業者である私の父・三郎は、「我々は天の恵みである木材を社会の役に立てる使徒であることを自覚しその使命を誇りとする」という言葉を信条として残した。兄で第2代社長の安治(現顧問)も第3代社長の私も、この信条を胸に経営を行っている。
また、弊社は、木材の調達から加工、仕上げ、現場施工まで手がける一貫生産体制をとっており、顧客ニーズに柔軟に応えることができる。
最近改めて確認しているのは、メーカー視線でものをつくってはいけない、お客さん視線でつくろうということだ。この姿勢を忘れずに、「高機能化木材」で“木の価値”を高めながら都市部の木質化に貢献していきたい。

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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