飛騨市で製材所が”復活”!まちづくりが新ステージに入る【広葉樹を活かす!】 

飛騨市で製材所が”復活”!まちづくりが新ステージに入る【広葉樹を活かす!】 

2015年度から“広葉樹のまちづくり”に取り組んでいる岐阜県飛騨市(都竹淳也市長)で製材所が“復活”した。7月18日に稼働記念セレモニーが開催され、関係者ら60名以上が新たな門出を祝った。現場から最新状況をお伝えする。

引き合い強まり生産追いつかず、補助金なしで黒字経営目指す

復活した製材所は、飛騨市内の工務店・(株)匠和組(倉坪英明代表取締役)が保有し針葉樹を挽いていたが、1年半前に稼働停止となっていた。これを小径木広葉樹の高付加価値化とサプライチェーンの構築に取り組んでいる「広葉樹活用推進コンソーシアム」が借り受け、運営する。同コンソーシアムの会長で、市内で唯一の広葉樹を挽いている(株)西野製材所代表取締役の西野真徳氏は、記念セレモニーで、「この2年間で飛騨産広葉樹の引き合いが強まり、当社の製材工場だけでは生産が追いつかなくなった。(復活した)製材所を起点に広葉樹の活用や人材の育成などを加速させたい」と語った。飛騨市長の都竹淳也氏も挨拶に立ち、「製材所の復活によって“広葉樹のまちづくり”は新たなステージに入った。広葉樹といえば飛騨市と言われるようになっており、全国に取り組みを広げていきたい」と述べた。

広葉樹活用推進コンソーシアム会長兼西野製材所社長の西野真徳氏

製材所の運転資金等は、飛騨市森林組合(洞口博代表理事組合長)が出資し、広葉樹の製品市場を運営する平野木材(株)(岐阜県各務原市、平野健一代表取締役)も寄付金を拠出して、補助金などには頼らず全額民間資金で賄う。今後、事業の黒字化を見極めて製材所の運営会社を設立する予定だが、それまでは同コンソーシアムの広葉樹コンシェルジュである及川幹氏が責任者をつとめる。

小径木広葉樹を年間400m3加工、「森林と多様なニーズが噛み合う拠点へ」

広葉樹コンシェルジュの及川氏は、大学を卒業してから西垣林業(株)(奈良県桜井市)で愛知県豊田市の新工場建設プロジェクトなどに携わった後、2020年度に地域おこし協力隊の制度を利用して現職に就いた。

通常、地域おこし協力隊の任期は3年だが、新型コロナウイルスの影響で活動ができなかった特例で5年まで延長されている。このプラス2年間を活かして、及川氏は来年度(2024年度)までに製材所の経営を軌道に乗せて、地域おこし協力隊を“卒業”する予定だ。

広葉樹コンシェルジュの及川幹氏

飛騨産広葉樹の需要開拓に取り組んできた及川氏は、製材所の位置づけについて、「飛騨の森林と多様なモノづくりのニーズが噛み合うハブのような拠点にしたい」と言う。当面は西野氏と連携して製材所の経営基盤を固め、人材確保も行う方針だ。

今年度事業では、ミズナラ、ブナ、クリなどの小径木広葉樹を年間約400m3加工し、大手家具メーカーや家具作家などからの多様なニーズに応えながら、新製品開発などにも取り組み、将来的には年間約1,000m3の原木加工を目指している。及川氏は、「関係者や地域住民と連携して、飛騨らしい地場産業を育て、広葉樹が暮らしや町並みに溶け込んでいく風景をつくっていく」との目標を口にした。

製材実演で有効利用のアイディアを出し合う

記念セレモニーでは製材実演も行われ、虫食いだらけのアベマキを挽いた。関係者は歓声を上げながら、「面白い。どうやって使おうか」とアイディアを出し合った。

その光景を見つめながら“広葉樹のまちづくり”のキーパーソンの1人である飛騨市林業振興課長の竹田慎二氏は、「当市の1番の強みは、かりに行政側が手を引いても民間企業が広葉樹の出口づくりを引っ張っていけるところ。次は川上の体制整備をさらに強化したい」と語調を強めた。

市有林活用し実証実験、アドバイザー募集し人づくりにも注力

飛騨市では、2015年に同市と(株)ロフトワーク(東京都渋谷区)らが出資して第3セクターの(株)飛騨の森でクマは踊る(岩岡孝太郎・松本剛共同代表、通称「ヒダクマ」)を設立。ヒダクマが広葉樹利用の可能性を切り拓き、これが呼び水となって大手家具メーカーや異業種などが参入してきている。

竹田氏は、「行政がリスクをとり、民間が可能性を広げたからうまくいったのだろう」とみており、広葉樹の森林づくりにも同様のスタンスで取り組んでいる。

実証実験を行っている市有林、着実に天然更新が進んでいる

同市では2018年度から市有林で広葉樹施業の実証実験を行っており、その成果をとりまとめて、「広葉樹天然生林の施業に関する基本方針」を策定、昨年度から同方針に則って広葉樹林施業を行う場合は補助金を出して支援している。

地域林政アドバイザーの中谷和司氏

実証実験の中核メンバーである中谷和司氏は、岐阜県庁を退職後、飛騨市森林組合で地域林政アドバイザーとして森林整備の指導等に従事。現在は同組合を退職してフォレスターズ合同会社(愛知県岡崎市、小森胤樹代表社員)に所属し同様の活動を行っている。その中谷氏も66歳になり、後継者の育成が求められている。

そこで同市では、今年度中に高知県本山町の事例を参考に新たな地域林政アドバイザーを確保するなど、人づくりにも注力していくことにしている。中谷氏は、「私が学んできたものを次の世代につなげられれば」とバトンパスに備えている。

(2023年7月18日取材)

(トップ画像=7月18日に製材所の再稼働を記念するセレモニーが開催された)

『林政ニュース』編集部

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