(後編)「再造林率日本一」へ、林業県・宮崎で前例のない挑戦が始まる

(後編)「再造林率日本一」へ、林業県・宮崎で前例のない挑戦が始まる

前編からつづく)宮崎県が「再造林率日本一」の達成に向けて新年度(2024年度)から始める「宮崎モデル」は、各種の対策がパッケージ化されており、“目玉だらけ”といえる内容だ。造林未済地の解消にターゲットを絞った条例としては全国初となる「宮崎県再造林推進条例(仮称)」の制定をはじめ、新規施策・事業が目白押しとなっている。

森林所有者にとって「信頼できる」機関が再造林を働きかける

「宮崎モデル」の“推進エンジン”として県内8か所に新設する「地域再造林推進ネットワーク」は、森林所有者からの相談対応や、伐採者と造林者、市町村間の伐採情報の共有、再造林の働きかけ・調整(マッチング)などを行う。同ネットワークの運営が円滑に進むように、中核となる8つの森林組合に対して必要経費を助成する(2024年度予算額は2,400万円)。

同県では、適正な立木価格に関する情報が不足していることなどから森林所有者が立木を安価で手放すケースや、伐採者や造林者、市町村等の連携不足により再造林に至らないケースが後を絶たない。そこで、同ネットワークが、森林所有者にとって「信頼できる」機関として機能することを目指す。

同ネットワークは、事業者に広く門戸を開くが、①県が定める「宮崎県伐採、搬出及び再造林ガイドライン」の遵守、②造林作業員の労務賃金の改善等に関する計画の策定、③過去数年間に不適正伐採に関与していないこと──などを加入要件とする。同ネットワークに入った事業者は、県や市町村から再造林等に関する手厚い支援を受けることができる。

大規模なプロモーション事業を展開、決起大会やコンクールも

「宮崎モデル」では、森林所有者や事業者、県民に対し、再造林意識を醸成するための大がかりなプロモーション事業も展開する(同約2,100万円)。テレビCMや新聞広告、SNS等を駆使し、再造林の重要性に加え、適正な立木価格や、相談窓口としての「地域ネットワーク」の周知等を図る。

また、県内の林業・木材産業関係者などを対象に、再造林決起大会や再造林コンクール等のイベントを開催し、再造林推進の機運を高めていく。

県・市町村が連携して造林補助率90%に、作業員の賃金アップ

施業への直接的な支援では、県・市町村が連携し、地拵えや植栽、下刈り、獣害防護柵の設置に関する造林補助金の補助率を嵩上げする(同約1億4,600万円)。

同県ではこれまでも、市町村を中心に森林所有者が負担する再造林費用を軽減するため補助率の嵩上げを行ってきており、ベースとなる68%の国庫補助率に、県と市町村が上乗せ補助を行って平均補助率は78%程度になっている。しかし、残りの22%を森林所有者に負担させることは現実的に難しく、森林組合や造林事業体が肩代わり負担するかたちで再造林を行ってきた。負担増分は造林作業員の賃金にもしわ寄せが及んでおり、県内の森林組合で働く造林作業員の日額賃金は9,000円台半ばと低水準にとどまっている(全国平均は1万2,000円程度)。

こうした状況が造林作業員の不足を招き、再造林率が頭打ちとなっていることから、新たに県と市町村が11%ずつを負担するかたちで計22%の嵩上げを行い、再造林に関する補助率を68%から90%に引き上げる。

主な補助要件は、①林業採算性が高い区域として県が設定する「再造林強化区域」で行う施業であること、②低密度植栽などの省力・低コスト化を図ること、③「地域ネットワーク」の構成員であること──など。「地域ネットワーク」に所属する構成員は、造林作業員の労務賃金の改善等に関する計画を策定する必要があるため、一連の取り組みを通じて賃金のアップが見込める。

また、社会保険労務士等の専門家を事業体に派遣し、作業員の待遇改善を指導する事業(同約400万円)や、新たに造林事業を開始するか拡大する事業体に資機材の整備や継続雇用の支援を行う事業(同約2,700万円)などを創設し、総合的な担い手対策を講じていく。

林地集積化の「新たな組織・仕組み」を検討、新規販路の開拓支援

「宮崎モデル」で講じる施策・事業はまだある。再造林が進まない原因として、小規模・分散的な森林所有による経営意欲の低下があることなどを踏まえ、「林地を手放したい者」と「林地を集積したい者」をつなぐ「林地集積化に向けた新たな組織・仕組みづくり」の検討に着手する。

また、市町村の森林・林業行政を担う「地域林政アドバイザー」のスキルアップと増員を促す事業(同2,700万円)や、林業事業体による林地取得を支援する事業(同100万円)も新設し、集積・集約化の加速化を図る方針だ。

さらに、林業採算性の向上を目指して、ドローンなどの新技術の実装を進める事業(同約800万円)を創設するほか、県産材需要の拡大を図るため、海外における県産材の新たな販路開拓を進める事業(同約2,500万円)にも着手する。

2024年度から新たに取り組む予定の主な事業の概要は、のとおりとなっている。

「宮崎モデル」で新規に取り組む主な事業一覧

大型プロジェクトの司令塔として新たに「再造林推進室」設置

県の組織も見直し、「宮崎モデル」を推進するとともに、再造林に関する業務を一元的に所管する司令塔として、4月1日付けで環境森林課内に「再造林推進室」を新設する。

同室では、「地域ネットワーク」の設立をはじめとして、「再造林率日本一」の達成に向けた各事業の進捗管理などを進めながら、林業関係団体や市町村、森林所有者等が一丸となって対策に取り組むための橋渡し的役割を担う。河野俊嗣知事が陣頭指揮を執る大型プロジェクトの成否の左右する重要な組織となる。

(トップ画像=コンテナ苗の生産現場を視察する河野俊嗣知事、画像提供:宮崎県)

『林政ニュース』編集部

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