ビーガン市場にも進出、しいたけの販路を広げる椎茸祭【突撃レポート】

全国 海外 特用林産

森の恵みの1つ「しいたけ」。和食に欠かせない食材として親しまれているが、国内消費は伸び悩んでいる。ところが、この現状に突破口を開き、国内外に販路を広げている急成長企業がある。創業4年目の(株)椎茸祭(東京都渋谷区、竹村賢人・代表取締役)だ。同社の最新状況をレポートする。(文中敬称略)

看板の「OH! DASHI 椎茸だし」がアマゾンで第1位にランキング

椎茸祭の看板商品は、「OH! DASHI 椎茸だし」。しいたけ出汁(だし)と昆布出汁を合わせて濃縮した液体出汁で、お湯を150ml入れるだけでさっと溶け、温かな「出汁スープ」になる。オフィスワークなどに疲れて一息入れたくなったとき、「コーヒーではなく、しょっぱめで落ち着くような飲み物はないか」というニーズにぴったりだ。2018年には最大手通販サイト・アマゾンの和風だし部門で第1位にランキングされた。

この「OH! DASHI 椎茸だし」の最大のウリは、動物性の材料を一切使用していないこと。しいたけと昆布のほかは、黄粉(きなこ)とゴマを用いているだけ。それでいて植物性とは思えない濃厚な味わいが楽しめる。同社は、完全菜食主義者のビーガンでも安心して飲める!を謳い文句に海外にも輸出しており、今後も世界のビーガン市場をメインにマーケティングを強化していく方針だ。

インドに渡り巨大市場を発見! 日本の“文化”を5か国に輸出

椎茸祭社長の竹村賢人(33歳)は、2010年に大学を卒業後、NTTコミュニケーションズ(株)に入社し、宮城県仙台市の東北支店に配属された。そこで東日本大震災に襲われ、テント暮らしも経験した。被災地の窮状を目の当たりにして、自身の力の無さを痛感。「本当の実力をつける」ために同社を退社し、単身インドに渡った。

竹村賢人・椎茸祭社長

インドではプログラマーとしてIT企業に入るも、2012年の暮れに事業閉鎖して帰国。日本国内のIT企業に職を得たが、インドへの思いは切れなかった。

インドの人口は、約13億5,000万人。今後も増え続け、10年以内に中国を抜くと言われている。急膨張するこの市場でヒットする商品を開発できれば、日本の“文化”を輸出できるのではないか。

こう考えた竹村は、インドでの生活を振り返り、「足りなかったのは、風呂と出汁の2つ」という結論に行き着く。風呂の輸出は難しいが、出汁であれば可能性が高いと見極め、商品開発にとりかかった。

インドで暮らす人々の約4割は、宗教上もしくは健康上の理由で野菜しか食べない。野菜料理はどうしても淡白になりがちで、うまみ成分を求める潜在的なニーズがある。そこで竹村が着目したのがしいたけであり、とくに原木しいたけから出汁をとることにこだわった。世界的に菌床栽培が主流になっている中で、日本で原木栽培されたしいたけを使うことにより、無添加の自然食品であることをアピールできる。

この路線があたった。ビーガン人口は、欧州諸国でもここ10年で5倍になり、米国や中国でも増加している。海外でうまみ成分が注目されていることも追い風になり、今ではインドのほかドイツ、イタリア、香港、アメリカの5か国に輸出するまでになった。

椎茸祭のWEBサイトでは様々なレシピも紹介している

うまさ=菌種×樹種、トレーサビリティ確保で木の価値アップ

椎茸祭は、「OH! DASHI 椎茸だし」のほかに、「生椎茸」や「干し椎茸」も販売している。小売りも行っているが、主軸としているのが有名レストランへの卸売りだ。

ここでも同社は独自性を出している。それは、販売するしいたけの収穫時期のほか、菌種、樹種も明記していることだ。

一般に流通しているしいたけも栽培方法や産地、傘の開き具合などは表記している。だが、菌種と樹種までは示していない。竹村は、「椎茸のうまさは菌の種類と木の種類の組み合わせで決まる」と話しており、菌種や樹種が曖昧な商品が流通すると、「消費者からすれば椎茸の当たり外れが激しいと感じてしまう」と警鐘を鳴らす。トレーサビリティを確保することで、「いい椎茸がつくれる樹種がわかり、結果的に木材の価値が上がることになる」と言う。

買取価格を引き上げホダ木の確保を推進、業界の透明性高める

竹村が「木材の価値」にまで言及する背景にも、東日本大震災の体験がある。「山村地域が活性化するには、林業など1次産業の振興が欠かせない」と確信しているからだ。

このため同社は創業以来、商品の販売価格は変えずにしいたけの買取価格を20%以上引き上げてきた。通常の経営では考えられないことだが、「そうでもしなければ山の価値を上げることはできない」と見定めている。

竹村は、しいたけ農家に買取価格の値上げを持ちかけると同時に、ホダ木の価格も値上げして「山元還元」を増やすよう働きかけている。このまま事業量が拡大していくと、いずれホダ木が足りなくなる恐れがあるからだ。クヌギやシイなどホダ木になる樹木を育てるには最低25年はかかる。今から計画的に植林していかないと持続的なビジネスが困難になると見込んでいる。

また、竹村は、福島第1原発事故で発生した放射能汚染や、きのこの下処理である「虫だし」などに関する情報も、客観的なデータとともにオープンにしていくべきだと強調する。「消費者が安全に安心して椎茸を食べられるように、業界の透明性を高めていくことが重要だ」――こう話す竹村の視線は、真っ直ぐに前に進んでいる。

(2021年2月8日取材)

(トップ画像=看板商品の「OH! DASHI 椎茸だし」1袋8g、10袋入りで1,296円(税抜き))

『林政ニュース』編集部

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