(前編)儲かる林業を実践するメジャーフォレストリー【遠藤日雄のルポ&対論】

5月23日に改正森林経営管理法が成立した。そのポイントは、森林の経営・管理を担える事業体の育成・強化にある。全国の市町村が行っている意向調査で、所有林の手入れを信頼のできる事業体に任せたいというニーズが高いことがわかった。問題は、その受け皿となる事業体が少ないことだ。どこかにモデルとなる先進的な事例はないか──こう思案していた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長のもとに、ある情報が届いた。それは、福岡県の筑前町に本社を置くベンチャー企業・メジャーフォレストリー(株)が手入れ不足の私有林の経営・管理を受託して事業を拡張しているというものだ。林業が盛んとは言えない福岡県で、新興企業がどうやって業績を伸ばしているのか──疑問を深めた遠藤理事長は、同社を率いる佐藤伸幸・代表取締役と「対論」することにした。

「林業界のゲームチェンジャー」目指し、主要4事業を推進

メジャーフォレストリーは、国内森林の利活用に乗り出している中山リサイクル産業グループに属しており、九電みらいエナジー(株)が福岡県の筑前町で運営する福岡県初の国産材専焼型「ふくおか木質バイオマス発電所」の敷地内に本社がある。

メジャーフォレストリーのメイン事業は、森林の受託経営事業だが、同発電所への安定的な燃料材供給も担っている。そして、森林所有者への利益還元を最大化するために、材の出荷先を多様化するなど、様々な取り組みを行っている。

ふくおか木質バイオマス発電所(画像提供:中山リサイクル産業グループ)
遠藤理事長

メジャーフォレストリーのウェブサイトを拝見したら「林業界のゲームチェンジャー」になるという方針が明記されていた。そのような新しい事業体が出てくることを心待ちにしていたところだ。まず、事業概要から教えて欲しい。

佐藤社長

当社が行っている主な事業は、①林政コンサルティング、②森林の受託経営、③林業コントラクター、④木材サプライチェーンの4つだ。
地方自治体の支援から伐採・再造林、原木の流通、木材加工、チップや薪の生産まで、森林に関わるサービスを一気通貫で提供している。

福岡県と大分県の2地域で「一気通貫型」のサービスを提供

遠藤

主要4事業の具体的な内容はどういうものなのか。

佐藤

①林政コンサルティング事業では、市町村などの林政関連業務をサポートしている。地域の実情をヒアリングし、課題を把握した上で、中長期的な観点から提案型のサービスを提供するようにしている。
サービスのメニューは、森林活用等のビジョン策定、森林の基礎情報整備、地域の体制づくり、意向調査や森林評価、森林経営計画の策定などだ。
②森林の受託経営事業では、所有者と10年間の「森林経営受委託契約」を締結するパターンと、山林の譲渡(有償・無償)によって当社の社有林として長期的に森林整備を行うパターンを用意している。
③林業コントラクター事業では、大規模な森林整備などを一括で引き受け、測量・設計から作業道開設、伐出、植林、下刈り、獣害対策などの業務を専門業者に分散発注して、現場監督者の立場から施工管理をマネジメントしている。
④木材サプライチェーン事業では、原木流通の効率化だけでなく、主伐時に発生する枝葉を移動式破砕機によって燃料チップに加工したり、広葉樹を薪にするなど、木質資源を余すことなく最大限に利用して山元還元を増やすことを目指している。

佐藤伸幸・メジャーフォレストリー社長
遠藤

事業の対象地域は、福岡県だけなのか。

佐藤

福岡県と大分県の2地域をメインにして事業を行っている。
当社の母体である中山リサイクル産業グループは、福岡県と大分県の11市町村に約200haの社有林を保有している。これに加えて、当社は、両県内の所有者から合計で約500haに及ぶ森林の経営・管理を受託している。これらが事業活動の基盤になっている。

中山リサイクル産業グループが福岡県内に保有している森林
中山リサイクル産業グループが大分県内に保有している森林

経営・管理の受託は大きなビジネスチャンス、内製化を徹底

遠藤

約500haも受託しているのか。そんなに所有林の経営・管理を任せたいというニーズがあるのか。

佐藤

信頼できる相手であれば所有林の管理を任せたい、可能であれば手放したいという方は多い。そこで、森林経営管理法に基づき市町村が受け皿となって集約化に取り組んでいるが、職員が不足していて、なかなか進まないという実態がある。集約化した森林を整備する森林組合や林業事業体も足りない。この現状を何とかして解決する必要がある。当社は、2016年1月に中山リサイクル産業グループの木材等運搬会社として発足し、2020年4月に現社名へ変更して事業内容を林業全般に広げ、ここまでやってきた。

遠藤

不躾な質問で恐縮だが、手入れ不足の森林の経営・管理を引き受けて儲かるのか。

佐藤

私共は、大きなビジネスチャンスがあると考えている。
林業が儲からないと言われている理由の1つに、請負事業にとどまっていることがある。私も林業に参入したての頃は、いわゆる下請仕事ばかりで、いくら働いても儲からないということを経験してきた。
その反省から当社では、所有者との交渉から森林経営計画の樹立、補助金の申請、現場作業まですべて自社で行えるようにした。森林の経営・管理に関わる業務を内製化することを通じて、きちんと利益を出すようにしている。

遠藤

立木価格の低迷が林業衰退の原因と言われているが。

佐藤

世界の丸太価格をみると1m3=1ドルが標準になっている。日本が特別に低いわけではない。今の材価でどうやって利益を出すかという経営力が問われているのではないか。

社員全員が施業プランナーなどの資格を取って稼げる企業に成長

遠藤

メジャーフォレストリーの社員は何人なのか。

佐藤

私を含めて8人だ。決して多いとは言えないが、全員が森林施業プランナーなどの資格を持っていて、基本的な給料はコンサルティング事業で稼げる仕組みになっている。

遠藤

社員の皆さんは、林業の経験者なのか。

佐藤

いや、全員、林業については素人で、ゼロから勉強してやってきた。
私も林学出身ではないのだが、たまたま大分県の臼杵市に1年間出向して、林業担当者として働く機会を得た。これが林業の世界に入るきっかけとなり、森林施業プランナーの制度ができたときに、すぐに資格を取った。その後も、林業技士とか森林組合監査士とか、林業に関わる資格は独学で勉強して全部取っていった。

遠藤

森林経営計画を樹立するためのノウハウなどは、習得するのが難しいのではないか。

佐藤

わからないことは専門家に聞くことを繰り返してマスターしてきた。率直に質問すると、皆さん丁寧に教えてくれる。おかげさまで経営力がついてきた。
森林経営管理法が改正されて、森林を集約化しやすい仕組みができたことは、当社にとって追い風になる。事業を大きく広げていきたい。(後編につづく)

(2025年6月16日取材)

(トップ画像=メジャーフォレストリーは林業のスマート化にも取り組んでいる)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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