(後編)儲かる林業を実践するメジャーフォレストリー【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)2020年から森林の経営・管理を受託する事業を本格化させたメジャーフォレストリー(株)(福岡県筑前町、佐藤伸幸・代表取締役)は、現在、福岡・大分両県内で合計約500haに及ぶフィールド(整備対象森林)を有するまでになっている。林業は儲からないと言われる中で、なぜ同社は未整備森林を集約化し、規模拡大を図れているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が佐藤社長に事業の勘所(かんどころ)を聞く。

林業が盛んではない福岡県でも“地の利”を活かして事業拡大

遠藤理事長

九州の林業を概観すると、南に位置する大分、熊本、宮崎、鹿児島の4県は国産材の生産県であり、北の福岡、佐賀、長崎の3県はその消費県のような構図となっている。
ところが、メジャーフォレストリーは、林業が必ずしも盛んとは言えない福岡県に拠点を構えてビジネスを広げている。なぜそんなことができるのか。

佐藤社長

確かに福岡県は、南九州の4県ほど活発に林業が行われているわけではない。しかし、森林資源はあるし、国産材の流通・加工に関わるプレーヤーも多い。また、林業県の大分や熊本と接している“地の利”もある。

遠藤

“地の利”とは?

佐藤

当社は、設立当初は大分県に本社を置いていたが、2021年4月に福岡県に移した。ちょうどこのタイミングで、ふくおか木質バイオマス発電所が稼働を始め、国内有数の原木(丸太)取扱量を誇る(株)九州木材市場(大分県日田市)が朝倉市に福岡営業所を開設した。それまでは福岡県内で伐採した原木をわざわざ大分県日田市にまで運んでいたが、福岡営業所を通じて福岡県内の製材会社などに販売する流通ルートができた。
また、当社は、直営班とともに協力会社とも連携して森林整備を進めている。大分県内の協力会社にとって、福岡県は仕事に出てきやすい距離にある。要するに、福岡県は“飛び地”ではなく、回りの林業県とつながりながら事業を拡大できる位置関係にあるということだ。

中山リサイクル産業グループの一員としてシナジー発揮を目指す

遠藤

メジャーフォレストリーが成長軌道を描けている要因として、親会社である中山リサイクル産業(株)(福岡県須恵町、中山智・代表取締役)の存在があるのではないか。この「ルポ&対論」でも2015年4月に同社の中山社長にインタビューし、林地残材のタンコロ(用材にならない木の根元部分)や枝条まで集めてチップに加工・販売し、山元への利益還元を増やそうとしている姿をレポートした*1。そうした事業方針が今も貫かれているのか。

佐藤

そのとおりだ。中山リサイクル産業のグループ会社には、当社のほかに、伐採・解体工事を行う福岡都市開発(株)(福岡県須恵町)やチップ製造のグリーンパークN&M(株)(福岡県筑前町)があり、グループ全体で「人と森の関係サイクル」を確立することを目指している(トップ画像参照)。

遠藤

メジャーフォレストリーを立ち上げたときに、中山リサイクル産業から受けたバックアップで最も大きかったことは何か。

佐藤

やはり資金面のサポートだ。私の体験から言って、林業、とくに素材生産事業を始めようとしたら、林業GIS機器、林地取得、高性能林業機械の導入などで初期投資に2億円ぐらいかかる。これくらいの自己資金がないと林業は始めちゃいけない。機械代を払うために林業をやるような自転車操業に陥ってしまう。

遠藤

中山リサイクル産業グループは、北部九州を中心に10近くの拠点を展開していると聞いている。

佐藤

そうしたネットワークが当社の事業を進める上でも“後ろ盾”のようになっている。人材や機械をグループ間で融通し合うなど、単独の林業会社ではなかなかできないことが可能になっている。こうしたシナジー(相乗効果)をこれからも発揮していきたい。

協力会社と年間約2万m3を生産、伐採・造林の一貫作業を徹底

遠藤

そうした枠組みの中でメジャーフォレストリーが進めている森林整備事業の現状について教えて欲しい。年間の素材生産量は、どのくらいなのか。

佐藤

4人編成の直営班だけだと6,000m3くらいだ。これに協力会社とともに行っている素材生産量を加えると年間2万m3くらいになる。このうち約半分は主に木質バイオマス発電所向けの燃料チップとして供給し、残りの約半分は住宅用材などとして販売している。
中山リサイクル産業グループの中で、当社が最大の燃料供給主体になっている。

機械化を進めながら素材生産量を増やしている
遠藤

福岡県もこれから主伐・再造林の時代にシフトしていくだろう。再造林率の引き上げが全国的な課題になっているが、何か工夫をしていることはあるか。

佐藤

伐採から造林までを一貫して手がけることを徹底するようにしている。再造林が進まない原因として、伐採や造林などの事業が個々バラバラに行われていて、自分のところの仕事が終わったら、後は丸投げになっている実態がある。
当社の場合は、伐採をして地拵えをして植え付けをするという一連の作業を連続的に行うようにしている。原木を搬出した帰り荷として苗木やシカ防護柵(ネット)を現場に持ち込むといった作業フローをつくっている。協力会社の方々も一貫作業の意義と優位性を理解してくれているので、造林をする人が足りないということは起きていない。

福岡銀行と日本公庫が資金支援、「集約化モデル事業」に採択

遠藤

最後に、今後の事業計画について聞きたい。

佐藤

昨年の10月に(株)福岡銀行と日本政策金融公庫福岡支店から協調融資の対象に選定され、これから進める林地取得や高性能林業機械の導入などを資金面からサポートしていただけることになった。また、去る6月には、林野庁の今年度(2025年度)新規事業である「森林の集約化モデル地域実証事業」*2の実施主体に採択された。これらを支えにして、次なるステップを目指したい。

遠藤

事業エリアを広げる考えはあるのか。

佐藤

福岡県に隣接する佐賀県や長崎県に進出していく可能性は高い。とくに佐賀県は福岡県と似たような状況にあり、林業関係の会社は少ないが、森林資源はたくさんある。課題は、意欲ある人材の確保だ。

遠藤

事業エリアを拡張していくと既存の森林組合や林業事業体とバッティングする場面も出てくるのではないか。

佐藤 

当社は、基本的に森林組合や林業事業体が限られていて、経営計画樹立面積が低位で、かつ持続可能な森林経営が実施されていない地域に出て行き、経営・管理の受託面積を広げる方針をとっている。その際には、地元の関係者らとの対話を丁寧に重ねて、同じ思いを持った人達と新しい事業に取り組むようにしている。

遠藤

これから儲かる林業をさらに進化させるためには、何が必要と考えているか。

佐藤

中山リサイクル産業グループは、バイオマス発電所向けにチップは供給するが、発電事業を自ら行うことはしない。このスタンスを保ちながら製紙用のチップなども併行して供給し、収益源を多様化している。
このようなビジネスのやり方を参考にしたい。国産材の需要先は、時代とともにどんどん変わっていくだろう。多様化するニーズに柔軟に対応していくためには、様々な樹種からなる森林を育て、様々なグレードの原木を出せるようにすることが重要だ。そのために、当社の取り組みに共感いただける方からのESG投資など長期的な資金調達を通じて、単一樹種の人工林ではなく、針葉樹も広葉樹もモザイク状に生育する森林をつくっていくことにチャレンジしていきたい。

(2025年6月16日取材)

(トップ画像=「人と森の関係サイクル」の全体イメージ)

『林政ニュース』編集部

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