(前編)2023度林野庁予算要求解説・公共事業は5年連続2,600億円超え目指す【緑風対談】

全国 予算・事業

5か年加速化・TPP・食糧安全保障対策は補正で決着へ

林野庁の来年度(2023(令和5)年度)予算概算要求の中身が明らかになった。要求総額は3,505億9,300万円、対前年度当初予算比では17.8%増となっている。
前年度の予算要求は同14.1%増で持ち出したので、伸び率は上回った。ただし、これから年末にかけて行われる予算査定で要求額が削り込まれるのは既定路線。当初予算で大幅な増額を望むのは現実的にムリ!という構図は変わっていない。

したがって、今回も予算増の期待がかかるのは、別枠扱いで事項要求した国土強靱化5か年加速化対策とTPP対策、そして食料安全保障対策になる。
とくに食料安全保障対策は、いわゆる経済安全保障対策に連なるもので、自国資源の利活用を推進するのが目的だ。自国資源には当然のこと、森林や木材も含まれる。ウッドショックやロシア・ウクライナショックを経て、外材の輸入には翳りが出ており、今こそ国産材の出番だ。増産体制整備に必要な予算をいかに確保するかが焦点となる。

参考までに昨年の予算編成過程を振り返ると、5か年加速化対策とTPP対策の経費については補正予算で措置された。
今年も食料安全保障対策を含めた事項要求にケリがつくのは、今年度補正予算になるだろう。ここが大きなヤマ場となる。

頼みは5か年加速化対策、自民党議連の決議に安保対策も

では 林野予算要求のポイントをみていこう。まず、予算規模の大きい一般公共事業にスポットを当てる。森林整備及び治山の両事業ともに同18.4%増で要求した。この伸び率、前年度も前々年度も全く同じ数字であり、公共予算の枠組みとシェアがガッチリと固まり、動かせないことを物語る。ちなみに前年度当初予算の場合は、森林整備・治山事業とも0.1%増で決着した。

林野公共予算に関しては、補正と当初予算で総額2,600億円を確保することが大目標となっている。2019年度からこの目標額を4年連続でクリアしており、前年度は5か年加速化対策で492億円が措置されたことなどで2,700億円を確保した。今回も、3年目となる5か年加速化対策による上積みなどにより5年連続2,600億円超えを達成することが至上命題となる。

そうした状況を踏まえ、この時期の恒例行事となってきた自民党の森林整備・治山事業促進議員連盟(山口俊一会長)の総会が8月25日に開かれた。代理を含めて約80名の国会議員が参集し、党の重鎮で国土強靭化推進本部長でもある二階俊博氏も出席。関係者の総意として、「令和5年度林野公共事業予算に関する決議」を採択した。

決議には、5か年加速化対策の予算を別枠で確実に確保することや、森林環境譲与税により林野公共予算がめり込まないようにすることなどを盛り込んだ。これらは昨年の同議連総会で採択した決議にもあったものだが、今回は前述した食料安全保障対策に関する要望も加えた。次のように記している。
経済安全保障の観点からも国民生活に不可欠な木材を確保するため国産材の安定的かつ持続的な供給体制を早急に確立する必要があり、国産材の供給力強化に向けて林野公共事業を強力に推進することが重要である。

林道の機能向上・長寿命化へ、激化する災害に機動的対応

林野公共予算要求の重点事項についてもみておく。森林整備事業が掲げるテーマは、①間伐の着実な実施、②主伐後の再造林、③幹線となる林道の開設・改良等の推進。とりわけ来年度予算では、③に関わって「林道の機能向上・長寿命化対策」を進める方針だ。

国産材の伐出量が増えるとともに大径化も進んでおり、運材車も大型化している。ところが、既存の林道の多くはトレーラーなどの大型運材車に対応していない。そこで、舗装や幅員拡張に必要な事業を強化する。また、高度成長期に整備した社会インフラの老朽化が問題となっている中で、林道も例外でなく、のように設置から50年を経過した林道施設がこれから急増する見通しだ。これに備え、老朽化対策の予算を拡充する。

治山事業のテーマは、激化し多様化する災害への対応力を高めること。とくに注力するのは、機動的な事業の実施である。
これまで経験したことがないような大雨が頻発している現状を踏まえ、緊急的な予防・復旧対策については、年度ごとの計画額に縛られず、事業期間全体の計画額で採択する事業メニューを追加する。また、復旧の加速化と効率化を図るため、災害関連緊急治山事業等の後続事業の前倒し実施を可能にする。

最近は豪雨災害だけでなく、地震や火山活動も活発化している。そこで、震度5弱以上の地震が発生、または火山噴火警戒レベルが2以上となった地域については、林地荒廃防止事業の対象にするとともに、応急対策資材の配備・備蓄等が可能な事業を創設する。このほか、ICT活用工事の導入促進や歩掛等の適正化なども進めて国土の強靭化を目指す方針だ。
以上、駆け足の解説になってしまった。後編では、非公共事業の予算要求についてみていこう。

(2022年8月30日取材)

『林政ニュース』編集部

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