(後編)2023度林野庁予算要求解説・非公共の目玉は「循環」対策とデジタル化【緑風対談】

全国 予算・事業

18.4%増を要求したが国有林の債務償還経費が含まれる

前号(第684号)に続いて、林野庁の来年度(2023(令和5)年度)予算概算要求のポイントを解説していこう。今回は非公共事業にスポットを当てる。要求額は1,190億円で、対前年度当初予算比では18.4%増。前年度(2022(令和4)年度)の予算要求時は8.0%増だったので伸び率は上回った。ただし、これには特有の事情がからんでいる。

そのとおり。非公共事業には国有林野事業の債務償還経費が義務的経費として含まれていることを忘れてはならない。第668号の小欄でも解説したように、2013年度に国有林野事業特別会計を一般会計化したとき、約1.3兆円あった借金(累積債務)は債務返済特別会計に移した。そして、国有林材の売却益など林産物収入を同特会に繰り入れて借金を返していくことにした(4頁「ニュース・フラッシュ」参照)。その際、各年度の返済額を非公共事業の義務的経費に計上してから、同特会に移す仕組みとした。つまり、前年度の国有林野事業における林産物収入の多寡が借金の返済額を左右し、それが義務的経費として非公共予算の増減につながるという構図になっているのだ。

来年度予算要求では、林産物収入が増えると見込み債務償還経費を前年度より約90億円増の約279億円としている。これが非公共予算の要求額全体を膨らませているわけで、18.4%増という伸び率を額面通りに受け取るわけにはいかない。当初予算で政策的に使える経費が簡単に増えるものではないということだ。

再造林対策を事業メニューに追加、デジタル拠点10か所に

のっけからマニアックな解説になってしまったが、要するに、今回の非公共予算要求も限られた財源をやりくりして新機軸を打ち出しているということ。では、その要点をみていこう。
目玉要求が2つある。1つは既存の「林業・木材産業成長産業化促進対策」を衣替えして118億円を新規要求した「林業・木材産業循環成長対策」。名称に「循環」の2文字を入れたのがミソであり、新たに「再造林低コスト化促進対策」を事業メニューに加え、エリートツリーやコンテナ苗の普及、一貫作業や低密度植栽等の導入を支援する方針だ。

もともと「成長産業化促進対策」は、木材加工流通施設の整備や路網の開設・改良、高性能林業機械の導入、木造公共建築物の整備など、なんでも支援できる仕組みになっていた。それを引き継ぎながら「循環成長対策」にネーミングを改めたのは、再造林の促進が川上から川下に共通する最優先課題であることを内外に示す意味合いもあるのだろう。

もう1つの目玉は、「林業デジタル・イノベーション総合対策」。これも従来からの事業を組み換えて32億円を新規要求した。ICT等を活用したスマート林業を実現するための各種事業を揃えており、なかでも「全くの新規」(担当の研究指導課)として打ち出したのが「デジタル林業戦略拠点構築推進事業」。のように地域一体でデジタル技術をフル活用するモデル的な拠点を整備する。1か所当たりの支援額は約1億円を想定しており、来年度は10か所分の10億円を要求した。

林業のデジタル化については、これまでも政策的な後押しをしてきたが、ここで総合対策に格上げしたのは、「点から面への支援」に切り替えるため。そして、「イノベーションが持続する地域を育てる」という。2030年までに拠点が1つ以上ある都道府県を25に増やす目標を設定している。

CLTの寸法標準化、森林クレジット普及事業なども要求

このほかにも非公共予算要求には新規・拡充事項がある。ざっとみていこう。川下関係の「建築用木材供給・利用対策」(同16億円)では、建築関係法令の改正などを踏まえ、JAS製品の供給力強化を支援する。戦略製品に位置づけているCLT(直交集成板)については寸法の標準化に取り組む。受注生産となっているCLTを規格化された寸法で供給できるようになれば量産化によるコストダウンが見込める。

「木材需要の創出・輸出力強化対策」(同6億円)では、改正木材利用促進法を踏まえた支援策を拡充する。公共建築物の木造・木質化で助成する対象を従来の低層から中層に広げ、補助上限額を4億円から引き上げる。また、建築物木材利用促進協定の締結者がセミナーなど情報発信を行う際に定額補助できるようにする。さらに、地方でも木造ビルなどを建てやすくするため、地域工務店などに専門家を派遣して技術的なサポートを行う。
輸出対策では、市場開拓の対象国に米国と台湾を追加する予定だ。

前年度の目玉要求だった「『新しい林業』に向けた林業経営育成対策」は、7月に10件のモデル的取り組みを選定し(第683号参照)、追加募集もしたが、来年度も7件程度を選定すべく6億円を要求した。2年度目になるので、満額確保は難しくなりそうだ。
また、同対策とともに経営課が担当している「森林・林業担い手育成総合対策」(同57億円)では、季節的な労働需要に対応したマッチング支援事業を4,000万円で新規要求するなど内容を拡充し、岸田政権が掲げる「人への投資」を推進することにしている。

脱炭素化に向けて、森林利用課が「森林吸収によるカーボンクレジット普及促進」の名目で5,000万円、企画課が「山の炭素吸収応援プロジェクト」として専用サイト構築費などを同じく5,000万円で新規要求した。時代の波に乗って所要の経費を確保できるか。一連の要求事項に対する答えは、年末までに出ることになる。

遠藤日雄のルポ&対論 島田会長と読み解く7団体「共同行動宣言」・下

(前号からつづく)再造林可能な山元立木価格はどうやったら実現できるのか──中央7団体が署名した「共同行動宣言2022」には、「森林所有者が経営意欲を持って林業生産活動に取り組める持続性が確保された立木価格水準」を念頭に、「木材流通等における具体的な仕組み作りに取り組む」と明記されている(第678号参照)。この課題を前にして、島田泰助・日本林業協会会長(元林野庁長官)はどのような構想を温めているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長とのオンライン「対論」を通じて、新たなビジョンが明らかになっていく。

森林所有者は情報が不足、対等な取引環境ができていない

遠藤理事長

立木価格は市場原理で決まるもので、森林所有者サイドからは手出しができないと考えられているという現状分析は重要だ。この問題に切り込むとなると、従来とは全く異なるアプローチが必要になる。どのような策を考えているのか。

島田会長

製品価格が上がっても立木価格に反映されない要因として、森林所有者がある意味で孤立しており、情報不足の状態にあることが指摘できる。現在行われている立木売買では、売り手と買い手の間で対等な取引環境ができていない。

遠藤

実際の立木売買では、いわゆるブローカーが介在して森林所有者と相対で取引するケースも多く、外からは実情が見えにくい。

島田

一般の森林所有者は自分の森林に関する情報を十分に持っていないだけでなく、売り先を選ぶことができないことが多く、相手の言いなりの取引になってしまいがちだ。そこで、透明性、公平性が確保された森林所有者が安心して販売を任せられる新たな選択肢づくりが必要となっている。

遠藤

つまり、立木取引を「見える化」するわけか。木材流通全般を「見える化」する試みとしては、サプライチェーンマネジメント(SCM)を構築する動きが各地で出てきているが。

島田

SCMの構築によって流通コストの削減など合理化が期待できるが、コストを削減した分を山側に戻していくという、従来からの施策の方向性から抜け切れていない。森林の持続可能性の確保という森林側からの視点で流れを組み立てることができれば、森林所有者へのアプローチが大きく変わっていくだろう。

立木取引の新たな選択肢として民有林での立木市場形成へ

遠藤

立木取引を「見える化」する新たな仕組みについて教えて欲しい。具体的にどのようなことを考えているのか。

島田

7団体で合意しているものではないが、森林所有者に対しオープンな立木取引の場を提供する「立木市場」の構築を検討している。まだ構想を詰めている段階であるが、宮崎県と鹿児島県で試行事業を計画している。前例のないものであるので、動かしながら課題を明確にしていくことにしている。

遠藤

これまで民有林では立木公売はほとんど例がない。実現すれば、本邦初の取り組みになる。

島田

組み立てとしてはのように、立木評価適正化機構(仮称)が立木販売を希望する森林所有者を募り、林分調査を行った後、森林所有者に納得してもらった上で予定価格を設定し、入札を行い、買受者が決まったら再造林の経費等を除き、森林所有者に立木代金を支払うという流れとなる。そして、入札の結果などはすべて公表し、誰でもがアクセスできるようにすることを考えている。

遠藤

立木の伐採・搬出や再造林は誰が行うのか。

島田

持続性の確保が最大の課題であることから、事業の実施に当たっては、機構が審査・登録した一定レベル以上の施業が期待できる優良事業体に発注する。こうした仕組みとすることで、山を荒らすことない伐採・搬出、確実な再造林・更新が確保され、森林所有者・買受者双方に信頼される取引が保証できると考えている。また、再造林後の生育状況などをインターネット上で公開していくことなども議論している。

遠藤

最も気になるのは、競争入札でどのような値段がつくかだ。予定価格はどう設定するのか。

島田

この仕組みを通して販売する立木の販売価格には、森林所有者の意向、造林に要するコストを反映する。つまり、森林所有者への利益還元と再造林経費を確保できる価格水準が大前提になる。
確実な森林の更新を保証し、持続可能性の担保された木材であることを需要者にアピールすることで、製品の差別化を図り、環境意識の高い企業・消費者の協力を得ていきたい。

立木でストックすることは安定供給や需要創出に貢献する

遠藤

新しい立木取引の仕組みを実現するための課題は何か。

島田

いわば密室で行われてきた価格交渉をオープンな場で行う全く新しい仕組みの導入なので、できるだけ多くの森林所有者にそのメリットを正しく伝え、信頼を勝ち取り、安心して参画してもらえる環境を整えることが最初の課題になる。
また、森林・林業関係の皆さんには、持続性の担保できない木材取引は通用しなくなるという状況を理解してもらい、この動きを支援していただくための働きかけを行うことも重要な課題となる。

遠藤

この新しい仕組みは、国産材の安定供給にもつながるのか。

島田

立木販売の利点の1つは、伐採前に販売価格の交渉が行われることにある。現在の取引では時間がたつと伐採された丸太が傷む恐れがあるので売り払いを急がなければならない。これに対して、立木販売の場合は、価格交渉が成立しなかったらそのまま次の入札へ備えることができる。これは森林所有者にとって、交渉上の大きなメリットとなる。
買受者にとっても、国有林のように一定の搬出期間を設ければ、立木の状態で資材をストックすることができ、需要の変動に対応しやすくなる。例えば、非住宅の大型木造建築物などを建設する場合、持続可能性の担保された木材を限られた期間に大量に納めることが求められる。こうした注文に機敏に応えられないことが国産材の欠点とされてきたが、立木でストックすることで供給ロットの拡大に弾力的に取り組める可能性も出てくる。

持続性を確保するためのコスト負担に対する理解を求める

遠藤

最後に立木の価格問題について、整理しておきたい。持続可能性を担保するためのコストについてどう考えるか。

島田

今の立木価格では、持続的な森林の取り扱いは確保できないという事実に多くの人々が気づき始めている。同時に、よりよい環境・社会を維持していくためのコストに対する世の中の受け止め方も変わってきている。国産材の供給を増やし、かつ持続性を担保していくという社会的要請に応えるために必要な森林の取り扱いにはコストがかかることを主張していくタイミングが来ている。

遠藤

他分野でもそのような動きがあるのか。

島田

2014年に改正された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」では、価格競争のみでなく工事の質の確保を図るため、受注者に適正な利潤を確保させるという視点が導入されている。分野は異なるが林業においても、森林の果たす機能という観点から、持続性の確保のためのコスト・適正利潤を主張することが必要だ。

遠藤

SDGsなどを前面に掲げる産業界も、相応の環境コストに理解を示すようになってきている。

島田

持続可能性の担保されていない木材は市場から排除され、早晩利用されなくなっていくだろう。「宣言」では、国際的な動きも踏まえて、持続性の担保されていない木材は使わないという社会を早急に実現するための国民運動に取り組むとしている。
こうした取り組みは、森林所有者が経営意欲の持てる山元立木価格の実現に対しての強い追い風になると考えている。中央7団体の「宣言」は、日本の森林・林業・木材産業の枠を超えた時代の大きな変化を背景にしていることを強調しておきたい。

2023度林野庁予算要求のポイント(上)公共は5年連続2600億円超え目指す

5か年加速化・TPP・食糧安全保障対策は補正で決着へ

林野庁の来年度(2023(令和5)年度)予算概算要求の中身が明らかになった。要求総額は3,505億9,300万円、対前年度当初予算比では17.8%増となっている(3頁(「ニュース・フラッシュ」参照)。
前年度の予算要求は同14.1%増で持ち出したので、伸び率は上回った(第660号参照)。ただし、これから年末にかけて行われる予算査定で要求額が削り込まれるのは既定路線。当初予算で大幅な増額を望むのは現実的にムリ!という構図は変わっていない。

したがって、今回も予算増の期待がかかるのは、別枠扱いで事項要求した国土強靱化5か年加速化対策とTPP対策、そして食料安全保障対策になる。
とくに食料安全保障対策は、いわゆる経済安全保障対策に連なるもので、自国資源の利活用を推進するのが目的だ。自国資源には当然のこと、森林や木材も含まれる。ウッドショックやロシア・ウクライナショックを経て、外材の輸入には翳りが出ており、今こそ国産材の出番だ。増産体制整備に必要な予算をいかに確保するかが焦点となる。

参考までに昨年の予算編成過程を振り返ると、5か年加速化対策とTPP対策の経費については補正予算で措置された(第665・666号参照)。
今年も食料安全保障対策を含めた事項要求にケリがつくのは、今年度補正予算になるだろう。ここが大きなヤマ場となる。

頼みは5か年加速化対策、自民党議連の決議に安保対策も

では 林野予算要求のポイントをみていこう。まず、予算規模の大きい一般公共事業にスポットを当てる。森林整備及び治山の両事業ともに同18.4%増で要求した。この伸び率、前年度も前々年度も全く同じ数字であり、公共予算の枠組みとシェアがガッチリと固まり、動かせないことを物語る。ちなみに前年度当初予算の場合は、森林整備・治山事業とも0.1%増で決着した(第668号参照)。

林野公共予算に関しては、補正と当初予算で総額2,600億円を確保することが大目標となっている。2019年度からこの目標額を4年連続でクリアしており、前年度は5か年加速化対策で492億円が措置されたことなどで2,700億円を確保した。今回も、3年目となる5か年加速化対策による上積みなどにより5年連続2,600億円超えを達成することが至上命題となる。

そうした状況を踏まえ、この時期の恒例行事となってきた自民党の森林整備・治山事業促進議員連盟(山口俊一会長)の総会が8月25日に開かれた。代理を含めて約80名の国会議員が参集し、党の重鎮で国土強靭化推進本部長でもある二階俊博氏も出席。関係者の総意として、「令和5年度林野公共事業予算に関する決議」を採択した。

決議には、5か年加速化対策の予算を別枠で確実に確保することや、森林環境譲与税により林野公共予算がめり込まないようにすることなどを盛り込んだ。これらは昨年の同議連総会で採択した決議にもあったものだが、今回は前述した食料安全保障対策に関する要望も加えた。次のように記している。
経済安全保障の観点からも国民生活に不可欠な木材を確保するため国産材の安定的かつ持続的な供給体制を早急に確立する必要があり、国産材の供給力強化に向けて林野公共事業を強力に推進することが重要である。

林道の機能向上・長寿命化へ、激化する災害に機動的対応

林野公共予算要求の重点事項についてもみておく。森林整備事業が掲げるテーマは、①間伐の着実な実施、②主伐後の再造林、③幹線となる林道の開設・改良等の推進。とりわけ来年度予算では、③に関わって「林道の機能向上・長寿命化対策」を進める方針だ。

国産材の伐出量が増えるとともに大径化も進んでおり、運材車も大型化している。ところが、既存の林道の多くはトレーラーなどの大型運材車に対応していない。そこで、舗装や幅員拡張に必要な事業を強化する。また、高度成長期に整備した社会インフラの老朽化が問題となっている中で、林道も例外でなく、のように設置から50年を経過した林道施設がこれから急増する見通しだ。これに備え、老朽化対策の予算を拡充する。

治山事業のテーマは、激化し多様化する災害への対応力を高めること。とくに注力するのは、機動的な事業の実施である。
これまで経験したことがないような大雨が頻発している現状を踏まえ、緊急的な予防・復旧対策については、年度ごとの計画額に縛られず、事業期間全体の計画額で採択する事業メニューを追加する。また、復旧の加速化と効率化を図るため、災害関連緊急治山事業等の後続事業の前倒し実施を可能にする。

最近は豪雨災害だけでなく、地震や火山活動も活発化している。そこで、震度5弱以上の地震が発生、または火山噴火警戒レベルが2以上となった地域については、林地荒廃防止事業の対象にするとともに、応急対策資材の配備・備蓄等が可能な事業を創設する。このほか、ICT活用工事の導入促進や歩掛等の適正化なども進めて国土の強靭化を目指す方針だ。
以上、駆け足の解説になってしまった。次号(第685号)では、非公共事業の予算要求についてみていこう。

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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