(後編)新生マルホン&積水ハウスが目指す新たな需要【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)新生マルホン&積水ハウスが目指す新たな需要【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編からつづく)積水ハウス(株)(大阪府大阪市)の100%子会社となった(株)マルホン(静岡県浜松市)は、傘下の(株)ワイス・ワイス(東京都新宿区)とともに、大手ハウスメーカーのバックアップを得ながら高品質な木材製品の供給力に磨きをかけようとしている。とくに重視しているのは、供給の「量」を増やすだけでなく、「質」を高めることだ。積水ハウスから出向してマルホンの社長に就任した松浦幸徳氏は、今後の市場ニーズを睨んで、「環境への配慮と高い商品力を両立させることが必要」と述べ、具体的には「フェアウッド」の調達がカギを握るとの見方を示した。「フェアウッド」とは、森林認証材や合法木材などを指し、違法性がないことを調査・確認するトレーサビリティ(Traceability)やデューデリジェンス(Due Diligence)を行うことも求められる。マルホンの前社長で特別顧問となった加藤拓氏は、「フェアウッド」の重要性に早くから着目し、取り扱いの拡大に向けた体制づくりを進めてきた。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長と2人との「対論」は、この「フェアウッド」を中心軸に据えて新たな需要を生み出すことへと論点が絞られていく。

「フェアウッド」の基準に適う国産材であれば積極的に活用

遠藤理事長

積水ハウスのグループ会社となったマルホンは、「フェアウッド」を木材調達の基準にしているようだが、その中で国産材はどのように取り扱っていく考えなのか。

松浦社長

積水ハウスは大量の木材を使用するハウスメーカーであり、原材料の調達にあたっては、持続可能性や生物多様性に配慮することを大前提としている。2007年4月には、伐採地住民の暮らしまでを視野に入れた「木材調達ガイドライン」を策定し、改訂を重ねながら、「フェアウッド」の利用を進めてきている。こうした路線に合致する国産材ならば積極的に使っていきたい。

加藤特別顧問

日本国内の人工林における再造林率は3割程度にとどまっており、伐採後に植えられていないところもある。そうした現状を踏まえると、国産材ならばすべて「フェアウッド」とは言い難い。もちろん、「フェアウッド」の基準に適う国産材も各地にあるので、そうしたところと連携して取り組んでいくことが基本になる。

遠藤

マルホンが取り扱っている木材の中で国産材の占める割合はどのくらいなのか。

加藤

2〜3割程度が国産材となっている。約7年前に私がマルホンの社長になったときから国産材利用では「フェアウッド」を含めたストーリー性を高めてきた。調達する際には、木材市場や商社に頼るのではなく、現地に何度も通って、森林所有者や森林組合、製材所からなるべく直接買うようにしている。海外から木材を調達するときと同じスタンスで臨んでいる。

認証をいち早く取得しデューデリジェンスプログラムを策定

遠藤

積水ハウスがマルホンを子会社化した大きな理由は「フェアウッド」への「こだわり」ということだった。今の加藤特別顧問の話からも、その「こだわり」の片鱗が窺える。

松浦

私は積水ハウスで主に調達関係の業務についてきたので、マルホンとワイス・ワイスが「フェアウッド」の取り扱いに先駆的に取り組んでいる様子を間近で見てきた。
マルホンは、海外からの木材調達を主としているため、2006年にFSCとPEFCのCoC認証をいち早く取得した。また、2016年9月には、欧州、米国、豪州の違法伐採禁止法を参考にして独自の「環境にやさしいデューデリジェンスプログラム」を策定した。これも業界の中で率先した取り組みだった。

遠藤

その「デューデリジェンスプログラム」は、どのように実施してきたのか。

加藤

「デューデリジェンスプログラム」に基づいて各商品のリスク評価を行い、合法性が完全には担保できなかったミャンマー産のチークやカリンなど、いくつかの樹種は調達を停止した。
また、2016年11月に発行したマルホンの商品カタログ『木材見本帖第七号』では、掲載全商品の調達に対して「持続可能な木材資源保持のための取組み」を実施していることを宣言している。

遠藤

調達停止にまで踏み込めるのは、デューデリジェンスを徹底して行っているからなのか。

加藤

海外から木材を調達する際は、各国のフローリング工場や製材所から直接的かつ継続的に仕入れるようにしている。このため、成長量の範囲内で伐っているのか、そうでない場合は植林をしているのかといったことを現場まで確認に行くデューデリジェンスが実施しやすい。なお、取引をするにあたっては、仕入先との信頼関係構築を最優先事項とし、新規調達をする場合は国際的な認証を取得していることを第一条件としている。

マルホン製フローリング材を利用した積水ハウスの展示場(さいたま新都心コクーンシティ住宅展示場内)

ワイス・ワイスは国内工場と連携強化、クリーンウッド法にも率先対応

遠藤

家具メーカーであるワイス・ワイスも「フェアウッド」にこだわって事業を行っているのか。

加藤

ワイス・ワイスも2009年にオリジナル家具に使用するすべての木材のトレーサビリティを確認し、「フェアウッド」を使用することを柱とする「グリーンカンパニー宣言」を行った。2017年にはFSCのCoC認証を取得している。

遠藤

家具の場合は、内装よりも多くの種類の木材を使うことになる。トレーサビリティを確認し、デューデリジェンスを行っていくのは、より大変なのではないか。

加藤

家具を海外で製造すると、ソファーの中などで使われる木材の種類が多くて、トレーサビリティを完全に確認することは現実的に難しい。そこでワイス・ワイスでは、基本的に国産材を調達して、国内の工場で製造するサプライチェーンの構築に取り組んできている。先ほども述べたように、国産材ならば何でもいいということではなく、国際認証の所持を条件としたり、産地の特定や伐採後の植林確認を行ったりするなど、デューデリジェンスを強化していく必要があると考えている。

遠藤

「フェアウッド」に関わっては、クリーンウッド法(CW法、合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)への対応も必要だろう。

加藤

マルホンは、クリーンウッド法が施行された翌年の2018年4月18日付けで登録業者になっている。また、ワイス・ワイスも、2018年には家具製造販売業界では初めてクリーンウッド法の登録業者として認定されている。

脱炭素化は追い風、ムクの内装建材や家具へのニーズ高まる

遠藤

最後に今後の事業展開について聞きたい。全産業を通じて脱炭素化にシフトすることが求められているが、どう対応するか。

松浦

近い将来、企業ごとに、ストック・フローにかかわらず二酸化炭素(CO2)の排出量を算出しなくてはいけなくなる可能性が高い。そうなると内装の木質化は、1つの有用なCO2の固定化手段となる。とくに、非住宅分野では「フェアウッド」の利用が「条件」となってくるかもしれない。「フェアウッド」の調達を徹底してきたマルホンとワイス・ワイスの立ち位置は、より優位性を持つと考えている。

遠藤

国内の住宅市場は人口減少で縮小が避けられないが。

松浦

成長から成熟へなどと言われ、人々の価値観は多様化しているが、基本的により生活のしやすい環境を求め、厳選された高品質な商品へのニーズが高まり、それなりのコストもかけるようになるだろう。いわゆる「ウッドショック」の前は、できるだけ安く調達して、在庫も抱えないことが経営上は「良し」とされてきたが、それで本当に顧客の要望に応えてきていたのか、見直す時期に来ている。住環境において、調湿効果が高く見た目や香りも良いムク(無垢)材は優れた建材だ。マルホンとワイス・ワイスの扱う高品質なムクの内装建材や家具へのニーズは一層高まると考えている。

(2022年10月20日取材)

(トップ画像=様々な樹種の商品サンプルを揃え、加工方法などの違いもわかるマルホンの新宿ショールーム(東京都新宿区内))

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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