強まる顧客の本物志向、中高級路線には高品質製品が必要
マルホンの株式は、投資ファンドであるアント・キャピタル・パートナーズ(株)(東京都千代田区)が取得し、経営もしていた。積水ハウスは、同社から9月末にマルホンの普通株式をすべて取得し、完全子会社にした(取得金額は非公表)。
これに先立ちマルホンは、2020年5月に国産材を使った家具製造や空間デザインなどを行っている(株)ワイス・ワイス(東京都新宿区)を100%子会社にしている。
つまり、積水ハウスは、今回の株式取得によって、マルホンとともにワイス・ワイスもグループ化したことになる。
遠藤理事長は、まずマルホンの新社長に就任した松浦氏に、今回のM&Aの狙いを聞いた。松浦氏は、積水ハウスで設備、外装、内装関連部材の調達業務全般に携わってきた。
日本の住宅業界を代表する企業の1つである積水ハウスがマルホンとワイス・ワイスを傘下に収めたというニュースには驚きと意外感を持った業界関係者も少なくない。なぜ今、マルホンを子会社化することが必要だったのか。
基本的な背景として、住宅・非住宅を問わず顧客の本物志向が高まってきていることがある。とくに、床・壁・天井をはじめとしたインテリア(室内)を構成する素材に対しては、デザイン性や価格だけでなく、経年変化を楽しむことで、永きに亘り愛着を生む「本物素材」へのニーズが強まっている。
このため積水ハウスでは、以前から新築やリフォームの際に、ムク(無垢)のフローリングなどで「本物素材」を取り扱うマルホンの製品を多く採用してきた。また、マルホンの木材調達では、独自の木材デューデリジェンスプロセスなどに取り組むなど、高い意識を持っている。それは積水ハウスの「木材調達ガイドライン」に合致したものだ。
今後も本物志向の顧客ニーズに対応した高品質・高付加価値化を実現する商品力をさらに強めることが必要であり、従来からのビジネスパートナーとしてのつながりをより一層強化するため、マルホンを100%子会社にすることにした。

具体的にマルホンが扱う製品のどこを評価しているのか。
弊社が目指している中高級路線に最も合致していることだ。マルホンが取り扱っている製品のクオリティ(品質)の高さは、国内では唯一無二といえるような存在になっている。
企業規模は異なっても経営ポリシー等を評価しグループ化
ここで遠藤理事長は、マルホンの特別顧問となった加藤氏に問いかけた。加藤氏は、大学を卒業後、コンサルティング企業などで勤務した後、アント・キャピタル・パートナーズに入社し、2015年6月にマルホンの社長に就任し、7年余にわたって着実に事業基盤を固めてきた。
今回の積水ハウスによる子会社化は、以前から検討されていたことだったのか。
もともとマルホンは、地元の天竜材を扱う木材問屋として1934年に創業した。紆余曲折はあったものの時代のニーズをとらえてムクのフローリングをはじめとした内装材の流通業者へと業容を変え、事業が軌道に乗ったところで、2015年6月にアント・キャピタル・パートナーズの管理するファンドが全株式を譲り受けたという経緯がある。

オーナー企業から投資ファンドに経営権が移ると、事業変革のスピードが高まるといわれている。
約7年前に私が社長に就任したときからマルホンをどのように成長させて投資家等からの期待に応えていくかは大きなテーマだった。オーナー経営から権限移譲型経営へシフトし、スピード感のある経営、トライ&エラーが許される風潮とした。若いメンバーであっても活躍できるようになり、部署間連携も強めた。さらに世界的には稀少なムク木材を製品化しているため、安売りを抑制し粗利率を高めた。そうした上ではあるが、いずれはどこかに株式を譲り渡すということはファンドであるが故に企図されていた。
ただ、積水ハウスから全株取得の提案があったときには、率直に言ってなぜだろうかという思いもあった。
確かに、住宅業界のトップカンパニーから木質内装材メーカーに直接M&Aの声がかかるというは、そうあることではない。
マルホンは業績も財務状況も良好であり、経営内容を客観的に評価した上でのグループ化の提案であることは理解できた。ただ、企業としての規模は全く違う。年間の売上高をみても、積水ハウスは約2兆6,000億円であるのに対し、マルホンは30億円弱でしかない。
大きな企業同士が合併するようなM&Aではスケールメリットの追求が主目的となるが、今回の積水ハウスによるマルホンの子会社化は経営ポリシーや事業実績など“質”を重視して行われたといっていいだろう。
マルホン製品の販売先はオープンにして新規需要の創出へ
積水ハウスのグループに入ったマルホンにとって最大のメリットは何か。
積水ハウスの持つ圧倒的な企業力を踏まえて、マルホンの製品を販売していけることだ。マルホン単体では到底成し得なかったスケールやスピード感で取り組んでいくことができる。
ただし、マルホンの製品を積水ハウスにだけ供給していくわけではない。これまでと同様に、積水ハウス以外のハウスメーカーなどにも販売していくことには何も変わりはない。
つまり、積水ハウスがマルホンを抱え込むということではないわけか。
そのとおりだ。マルホンの製品の販売ルートを制限することはなく、従来どおりに供給していくことを子会社化に当たっての基本原則としている。これは、ワイス・ワイスが製造している木製家具や什器などについても同様だ。
少子高齢化で日本の住宅市場は縮小していくことが避けられない。新たな需要を創り出していくためには、これまでの企業の枠組みを超えて、高品質な木材製品の供給力そのものを高めることが必要という考えなのか。
「フェアウッド」に代表されるように、環境への配慮と高い商品力を両立させたマルホンとワイス・ワイスの取り組みは他社には真似のできない大きな強みといえる。これを積水ハウスグループ内だけにとどめておく必要はない。住宅や非住宅などすべての建築物に最高クオリティの木材を提供し、エンドユーザーに“幸せ”を提供していくことが基本であり、新規需要の創出にもつながると考えている。
その中で、国産材はどのように取り扱っていく方針なのか。(後編につづく)
(2022年10月20日取材)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。