【寄稿】ユーカリ植林の時は来たり! 早生樹を活かして森林(もり)を豊かに

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【寄稿】ユーカリ植林の時は来たり! 早生樹を活かして森林(もり)を豊かに

早生樹・ユーカリの注目度が高まっている。豪州原産の常緑広葉樹であるユーカリは、成長が速く、多目的に利用でき、二酸化炭素(CO2)吸収力が高いなどのメリットがある。一方、外来種なので生態系に悪影響を与えるなどの懸念も出ている。評価が分かれるユーカリを40年以上にわたってウォッチしてきた中村元氏((株)JSC総合研究所顧問、76歳)に、現実的な手引きを寄せてもらった。

国際的にポピュラーな樹種、世界の植林面積は約2,000万ha

私は、1970年3月に早稲田大学第1法学部を卒業後、伊藤忠商事(株)に入社し、欧州での勤務を経て、1981年から豪州に駐在し、ユーカリの植林と利用に取り組んできました。最近、日本でもユーカリを巡る議論が活発化しており、私としては、ユーカリ植林の時は来たり!の感を強くしています。

一口にユーカリと言っても600以上の種類があり、豪州以外でも、高温多湿なサバンナや、寒冷な気候に見舞われるブラジル、チリ、中国などでも植えられています。2020年度における世界のユーカリ植林面積は約2,000万haとされており、国際的にはポピュラーな樹種と言えるでしょう。

日本でも先駆的にユーカリを育てているところがあります。

静岡県南伊豆町の東京大学樹芸研究所では、1980年代から70種ものユーカリ導入試験を行い、優良樹種を選抜して生産性評価や材としての特性分析に取り組んでいます。40年生のユーカリ(elata、エラータ)は樹高40mになっており、2013年に植栽されたユーカリ(saligna、サリグナ)の樹高は25mに達しています。成長の良さを確認できます。ユーカリは、固く、重く、腐りにくく、乾燥しづらいという特性があり、合板や集成材での利用が見込めると評価されています。

エネルギー利用など用途は多様、造林樹種の選択肢を広げたい

(株)エコグリーンホールディングス(東京都中央区)は、2023年からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のエネルギー植林事業に参画しており、千葉県山武市で60haを目標にユーカリの植林を進めています。植栽地は、冬季に霜害が発生する恐れがあるので、耐寒性の高いユーカリを選んでいます。チリやニュージーランドの寒冷地でも良く育ち、チップとして日本に輸入されているユーカリ(nitens、ナイテンス)などが有望でしょう。同社は、石油元売り大手であるENEOS(株)の系列会社で、バイオマス燃料用チップの安定的な確保を目指しています。

千葉県山武市でもユーカリの植林が続いている

山陽チップ工業(株)(山口県下関市)は、この分野の草分け的存在です。1990年代前半に同社の中川邦彦氏が住宅用材としてのユーカリの有用性に着目して試験植林し、今はご子息の幹彦氏が2代にわたってユーカリを育てています。これまでは耐寒性のあるnitensを育成してきましたが、今年に入ってからsaligna urograndis(サリグナ・ウログランディス)というブラジルなどで建材やパルプ材に使われているハイブリッド種のユーカリを植え始めました。今後の生育過程などが注目されます。

このほかにも、新潟、兵庫、大分、鹿児島県などでユーカリの植林が試みられており、かつてない広がりをみせてきています。ユーカリには毒性があるとも言われますが、建材やパルプ、チップなどとして利用することに問題はありません。ちなみに、コアラはユーカリを主食にしています。

気候変動が深刻化し、経済・社会の先行きが不透明な中では、造林樹種を多様化する必要があります。ユーカリが有力な選択肢であることは間違いありません。経済と環境を両立させながら日本の森林を豊かにするには、早生樹の活用が不可欠です。

神奈川県横浜市の金沢動物園にあるユーカリと中村元氏

(2024年7月20日原稿受領)

(トップ画像=成長の速いユーカリは世界各地で育てられている)

中村元(なかむら・はじめ)

1970年3月に早稲田大学第1法学部を卒業後、伊藤忠商事(株)に入社し、欧州での勤務を経て1981年に豪州に駐在して以降、ユーカリの利活用にライフワークとして取り組んでいる。(株)JSC総合研究所顧問。

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