【インタビュー】三村明夫・林業復活国民会議会長に聞く

【インタビュー】三村明夫・林業復活国民会議会長に聞く

昨年(2014年)12月、産・学・官の1,000人以上が賛同者に名を連ね、「林業復活・森林再生を推進する国民会議」が活動を開始した*1。同会議の会長に就任した三村明夫氏(新日鐵住金(株)相談役)は、日本商工会議所の会頭やJAPIC(日本プロジェクト産業協議会)の会長もつとめる財界のトップリーダーだ。その三村氏がなぜ今、林業の“復活”に本腰を入れ始めたのか──理由と構想を聞いた。

有望な資源・森林を活かすには林業の自立が不可欠

――なぜ「国民会議」を立ち上げたのか。

三村会長 日本は資源がない国といわれ、OECD諸国の中でもエネルギーの自給率が例外的に低い。だが、その日本にも資源はある。それは森林であり、ほかにもEEZ海域にメタンハイドレートなどが賦存している海底資源や、豊富な降水を水資源として発電などに使うことも有望だ。

JAPICでは、この3つの資源の有効活用に取り組んでいるが、とくに注目しているのが森林だ。戦後の植林事業により、今は伐採適期の人工林が豊富にある。これを利用して、林業を産業として自立させるために国民運動を始めることにした。

――これまで森林は“環境資源”とみられがちだった。

三村 森林が環境保全を含めてさまざまな機能を発揮していることは理解しているし、重要なことだと思っている。では、そうした森林の多様な機能を維持していくにはどうすればいいのか。成熟した森林は伐って、跡地に植林をして、若い森林を育てることで二酸化炭素(CO2)の吸収など多様な機能が発揮される。つまり、森林は常に手入れをしていく必要があり、それを行っていくためには、林業を立て直すことが不可欠だ。

コスト・供給・品質という「産業の基礎」を整える

――日本林業の国際競争力については、どうみているか

三村 自給率が3割弱に止まっている現状をとらえれば厳しいといわざるをえないが、農業と違って木材には関税がかかっていない。基本的に自由競争でビジネスが行われており、最近の円安で相対的に国産材の価格競争力は高まっている。また、中国をはじめとした新興国は、木材消費量が増加する一方で、森林の減少や劣化が進んでいる。製造業の分野では、新興国の過剰生産が常に問題になるが、林業に限ってはそういう状況にない。したがって、産業としての基礎がしっかりすれば、輸出も含めて日本林業が発展していく可能性は十分ある。

――「産業としての基礎」とは、具体的に何か

三村 どんな商品でも、売れるためには3つの条件をクリアしなければならない。1つは、コストがリーズナブルであること。2つめは、供給安定性があること。3つめは、品質基準がしっかりしていて信頼性があることだ。残念ながら、国産材はこの3つの条件を満たしていない。例えば、ハウスメーカーは大量の木材を使っているが、供給が不安定な国産材はあてにできないという実情がある。

日本は国土の7割が森林であり、その蓄積量は年間1億m3のペースで増えているというデータがある。これに対して、国産材の利用量は年間2,000万m3程度で、供給余力は十分にある。マクロ的にみて先ほどの3つの条件が整えば、国産材のマーケットシェアはもっと高まっていくはずだ。

国家予算も投入して規模を拡大し競争力向上へ

――日本林業の弱点として、森林所有の零細性や急峻な地形などが指摘されている。

三村 産業としての競争力をつけるためには、やはり生産性を高めなければならない。そのためには、農業のように大規模化を進める必要がある。林業でも集約化を通じて経営面積をまとめたところに計画的・集中的に資金を投入するべきだ。

ところが、材価の低迷で山離れが続いたために、所有者がわからない森林が多く、集約化の障害になっている。そこでJAPICでは、最新のGPS技術などを活用して「平成の検地」を進め、所有者を確定して大規模化につなげることを考えている。

集約化しても日本の山は急峻なのでコストダウンが進まないといわれるが、オーストリアも同じような地形条件でありながら林業が基幹産業になっている。日本でも路網整備や機械化のペースを加速して、生産性を向上させるべきだ。最新の林業機械はコンピューター制御されており、若者をはじめ新規参入者でも使いやすい。林業の将来に希望が持てるようになれば、国の予算をもっとつけて支援策を強化する方向にいくだろう。

――補助金に依存していては、自立につながらないのではないか。

三村 未来永劫補助金を受け続けていてはサステイナブルな産業とはいえないが、スタート時の路網整備や機械化などはある程度国が後押しし、後は自力で頑張ってもらう仕組みが有効だ。

だが、国家予算を投入しようにも、林業というものに関心と興味を持っている国民があまりにも少ないのが現実だ。国産材の年間生産額は約2,000億円でしかなく、林業従事者は5万人程度しかいない。政治的にみれば全く“票”にならず、予算を増やそうとしても難しい。こうした現状を打開していくためにも、「国民会議」が発信力を強くしていかなければならない。

 地方と中小企業の再生にも貢献、賛同者を広げる

――これから「国民会議」はどのような活動を行っていくのか。

三村 まず、同志を増やしていきたい。すでに1,000人以上の方に賛同していただいているが、林業の実態を少し話すと、そういうことだったのか、ぜひ私も協力したいという方が圧倒的に多い。正確な事実を伝えれば理解と共感が広がり、それが駆動力になっていくという運動を展開したい。

――昨年11月の日商会頭就任時にも林業復活に言及していた。「国民会議」と連携していくこともあるのか。

三村 日商会頭としてのテーマは、“地方が元気になる”ことと“中小企業の再生”だ。中小企業の大半は地方にあり、この2つの課題はつながっている。経営者に景気の現状を聞いてみると、大都市では回復感が強いが、小さな都市になるほど回復感を感じていない。また、大企業に比べて中小企業は、電力や資源、食料などのコストアップをうまく転換できていない。4月には消費増税が控えているが、中小企業が価格転嫁をスムーズにできるかも問題だ。

中小企業が再生するためには、地方が元気にならなければいけない。その中心になるのは、やはり農林水産業だ。農業については、農商工連携や規制改革などが進められているが、林業はこれからであり、日商としても何らかの協力をしていきたいと考えている。

JAPICとしても、これまでに九州と東北で林業サミットを開催し、林業を成長戦略に位置づけるよう政府に提言をしてきた。一貫して主張してきているのは、林業は産業として成長する可能性を十分に持っており、それが地方の再生のためにもなるし、日本の国際収支の改善にも役立つし、若者の雇用機会を創出することにもなるということだ。 こうした主張を打ち出しても、線香花火のように言いっ放しで終わってしまっては何も変わらない。コンスタントに国民の関心をかきたて、一方で林業の復活に向けて具体的に進んでいるという証拠を見せ続けることが大切だ。

(2014年12月24日取材)

『林政ニュース』編集部

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