(前編)「木財トレーサビリティ」の確立に挑む戸田建設【遠藤日雄のルポ&対論】

関東地方 東京都 建設 木造非住宅

(前編)「木財トレーサビリティ」の確立に挑む戸田建設【遠藤日雄のルポ&対論】

国産材の利用拡大に向けて、ゼネコンの動きから目が離せなくなっている。ゼネコンとは、ゼネラルコントラクター(General Contractor)の略称で総合建設業者を意味し、マンションやビル、テーマパークや競技場などの大型建築物を建てるだけでなく、都市開発などのビッグプロジェクトも手がける。そのゼネコンが「都市の木造・木質化」に本腰を入れてきており、首都圏で中高層の木造ビルを建設する計画などを相次いで打ち出している。
「本当に時代は変わってきた」──遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長はこう独白して、ある中堅ゼネコンに「対論」を申し込んだ。その相手は、戸田建設(株)(東京都中央区、大谷清介・代表取締役社長)。同社は、1881(明治14)年に建設請負業者として産声を上げ、1936(昭和11)年に株式会社化して業容を着実に拡大。現在は、建設・土木・投資開発・再生可能エネルギーなど幅広い事業を国内外で展開しており、新規分野として第1次産業の振興を通じた地方創生にも力を入れている。その一環として国産材の利活用も進めており、11月2日に開業した新本社ビル「TODA BUILDING」では、北海道下川町産のトドマツなどを内装材に使用するとともに、「木財トレーサビリティ」や「森を忘れないプロジェクト」といった新しい仕組みを導入した*1。「なぜ今、ゼネコンがここまでやるのか」──疑問を深めた遠藤理事長は、同社で新規事業開拓などを担当している黒瀬義機・イノベーション本部新技術・事業化推進部長から話を聞くことにした。

アートとビジネスが交錯する「TODA BUILDING」

戸田建設の新本社ビル「TODA BUILDING」は、東京駅から徒歩約7分の一等地にある。旧本社ビルを4年がかりで建て替えた地上 28 階・地下3階建ての高層建築物で、8~27階をオフィスフロアにするとともに、1~6階にはミュージアム、ホール&カンファレンス、ギャラリーコンプレックス、創作・交流ラウンジ、ギャラリー&カフェなどを設け、「アートとビジネスが交錯する場所」となっている。

地上28階・地下3階建ての「TODA BUILDING」
遠藤理事長

ゼネコンの本社ビルというと、なかなか足を踏み入れ難いイメージがあるが、ここは実に開放的だ。

黒瀬部長

「TODA BUILDING」は、隣接街区の再開発と合わせて、「人と街をつなぐ」をコンセプトにして建設した。とくに、低層部の芸術文化エリアでは、「誰もが気軽に、芸術・文化を体感できる機会の創出」を目指しており、「情報発信の場」としても多くの方々に利用していただきたいと考えている。

遠藤

このような最先端の高層ビルに木材、それも地域材が使われていると聞いたときは、正直に言って意外だった。建設コンセプトにマッチするものなのか。

黒瀬

この本社ビルにおいて、地域材はなくてはならない重要な役割を果たしている。実例をご紹介しながら説明していこう。

黒瀬義機・戸田建設新技術・事業化推進部長

VIPを招くフロアで地域材を積極活用、カフェカウンターにも

遠藤

地域材は、具体的にどこで使っているのか。

黒瀬

本社ビルの4か所で利用している。まず、9階にある特別応接室で、天井材として用いている。トラス状に同じ樹種の木材をつなげるようにして、天井を構築した。
また、同じフロアにある役員会議室では天井照明の枠を木質化し、 役員廊下の壁及び天井ルーバーにも地域材を用いた。このエリアは、弊社のVIP(要人、貴賓)をご案内するスペースになっており、自然素材である地域材を使うことで、心を安らげていただきながら会話や交流ができるようにしている。

「TODA BUILDING」9階の特別応接室
「TODA BUILDING」9階の役員廊下
遠藤

なるほど。高級感とともに、落ち着いた雰囲気がつくり出されている。4か所目は、どこで利用しているのか。

黒瀬

1つ下の8階にあるカフェカウンターの表面仕上げ材として地域材を使っている。ここは、弊社の受付スペースになっており、多くの来客者を出迎える場として、地域材を活用した空間を構築した。
これら4か所で使用しているのは下川町産のFSC認証材で、10月11日付けでFSCのプロジェクト認証を取得し、10月25日に審査登録証授与式を行った。

「TODA BUILDING」8階のカフェカウンター(奥)と受付スペース

下川町と連携協定を締結、木材への新たな付加価値の創造へ

遠藤

国内のゼネコンが本社ビルでFSCのプロジェクト認証を取得したのは、戸田建設が初めてと聞いている。どういう経緯で認証取得に至ったのか。

黒瀬

もともと新本社ビルで地域材を利用しようと計画していたのだが、どのような木をどう使うかは決まっていなかった。そうした中で、下川町との間で昨年(2023年)7月に「地方創生に関する包括連携協定」を締結したことが契機になった。この協定では、農業・林業を中心とした地域振興・雇用創出や、脱炭素社会に向けた再生可能エネルギー創出など5項目について協力していくことで合意し、林業に関する具体的な取り組みテーマとして、「トレーサビリティ情報を活用し、木材への新たな付加価値の創造・提供の検討」を設定した。

遠藤

ゼネコンが自治体と協定を結んでまで林業振興や木材利用促進に積極姿勢をとるのはなぜなのか。

黒瀬

弊社の本業は建物をつくることであり、材料の1つとして木材を使っている。使用する木材が環境に負荷をかけていないことを確認するのは当然のこととして、その木材が育ってきた自然や社会的背景などをより多くの人々にわかりやすく伝えていかないと、SDGsや脱炭素化を達成する大きな流れにはならない。そこで、新本社ビルでは、地域材を使用するにあたって新しい“仕掛け”を用意した。

「森を忘れないプロジェクト」で「木の記憶」を伝えていく

遠藤

新しい“仕掛け”とはどういうものか。

黒瀬

使用している地域材の来歴などが簡単に把握できる「森を忘れないプロジェクト」を展開している。本社ビル内に木製の表示板を設置して、この木はどこで育ち、どのように使っているかを簡明に説明するようにしている。
また、デジタル技術を活用して「木の記憶」という付加価値を提案する試みも行っている。

「森を忘れないプロジェクト」の木製表示版
遠藤

「木の記憶」という付加価値の提案? どういうことか。

黒瀬

8・9階のフロアなどにあるQRコードをスマートフォンなどで読み取っていただくと、下川町の森林や木材を紹介するサイトに移行する。そのサイトでは、下川町の森林や自然の様子が映像とともに紹介される。建築資材や内装材に使われる木材の出身地をGPSなどで計測し、どのように買う人・使う人のところまで届くのかも記録している。
「森を忘れないプロジェクト」と併せて、「木財トレーサビリティ」を確立することで、木材を材料の1つにとどめるのではなく、都市と森林をつなぐ新たなツールとして役立てたいと考えている。

遠藤

木「財」? 木材ではないのか。(後編につづく)

(2024年11月7日取材)

(トップ画像=11月2日に開業した戸田建設(株)の新本社ビル「TODA BUILDING」(東京都中央区)の内装に北海道下川町産のFSC認証材が効果的に使われている。)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

この記事は有料記事(2681文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。