森林のCO2吸収量の価値化へ、検討開始 J-クレジットを活用し収益機会を拡大

菅政権が目指す「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、森林の二酸化炭素(CO2)吸収量を価値化して温暖化対策につなげる動きが出てきた。政府は、CO2の排出量に価格をつけて企業や家庭に負担を課す「カーボンプライシング」の導入を検討しており、夏頃に中間整理をした後、年内にもとりまとめを行う予定。カーボンプライシングの一手法として、森林整備などを通じて得られたCO2の吸収量を認証して売買するJ-クレジット制度の活用が重点課題の1つにあがっている。同制度の利用が拡大して、森林のCO2吸収量が売買される機会が増えていけば、林業・木材産業関係者にとって新たな収益源になっていく可能性がある。

公社有林でのクレジット利用を進め標準モデルの確立目指す

林野庁は、「森林整備法人によるJ-クレジット制度活用促進に向けた勉強会」を6月上旬に設置し、検討作業をスタートさせる。

森林整備法人は、24都県に26公社が存在し、約40万haの森林(公社有林)を整備・管理している。26公社のうち11公社はJ-クレジット制度を利用しているが、残りの15公社は着手していない。

同制度の普及が進んでいない理由として、クレジットの認証に必要な森林管理の水準や審査費用、手続き等の情報が不足していることがある。また、同制度を利用している11公社も、個々バラバラに取り組んでいるため、クレジットを販売する際の交渉力や販路の確保などが課題になっている。そこで、新設する勉強会では、認証森林の標準モデルや、公社が連携してノウハウ等を共有する方策などについて検討し、秋頃に成果をまとめる。その後、標準モデルを一般民有林にも普及していき、森林・林業に外部資金を導入する新たな仕組みづくりにつなげることを目指している。

【解説】“埋没している環境価値”を顕在化させる好機が到来

J-クレジット制度は、経済産業省が運営していた「国内クレジット制度」と環境省の「J-VER制度」を統合して、2013年度から運用されており、森林の管理・経営や木質バイオマスボイラーの導入などによって吸収・削減したCO2量をクレジットとして認証し、企業などに販売できるようになっている(図1参照)。

図1 J-クレジット制度の概要

今年3月16日時点で同制度に認証・登録されたプロジェクトの件数は図2のようになっており、林業・木材産業関係でもクレジットを企業等に販売する事例がみられるようになっている。

図2 J-クレジット制度に登録されたプロジェクト件数

ただし、クレジットの価格は基本的に相対取引で決まるため、相場感を掴みにくいのが実状だ。これまでのケースでは、木質バイオマスボイラーを導入すると1t-CO2当たり1,000~2,000円、森林経営計画を樹立して間伐等を行った場合は同1万円前後の販売実績が得られているが、ここから審査費用や諸経費などが差し引かれることになる。また、森林整備の場合は、主伐を行うとCO2が排出されたとみなされるルールになっているため、一定の面積を伐採して植林を行う施業には適用しにくい面もある。

それでも菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を打ち出したことで、企業等のクレジット購入意欲は高まると予想されている。政府は、J-クレジット制度の使い勝手を高めて利用拡大を呼びかけている方針を打ち出している。森林・木材に“埋没している環境価値”を顕在化させる好機に来ていることは間違いない。

(2021年5月1日取材)

『林政ニュース』編集部

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