“オープンな場”を創り林業の可能性を広げる「森と街のがっこう」【森を開く!】

北海道 森林の新たな利用

北海道の札幌市に拠点を置き、都市近郊の森林を整備しながら“オープンな場”として利活用する「森と街のがっこう」の取り組みに広がりが出てきている。2020年の「ウッド チェンジ アワード(WOOD CHANCE AWARD)」で最優秀賞の「ゴールド」を受賞した新しい事業モデルの最新状況をお伝えする。

「札幌南高学校林」にマウンテンバイカーが集う、独力でコース開設

札幌市内にある「札幌南高学校林」は、約100年の歴史と約120haの面積を有し、在校生と同窓生の活動の場として親しまれている。5月下旬の日曜日、この学校林にマウンテンバイクを積んだ車が次々と入っていった。

マウンテンバイクを積んだ車が次々と学校林の中に入っていく

前日は豪雨だったが、林内の道(幅員約2.5m)はよく整備されており、各車は問題なく走行して集合地点に到着。車のエンジンを止めると、親子連れを含む約30人のチームメンバーがお互いを確認し、リーダーが「今日のコースは道の先端まで行って戻ってきます。帰る前に道をきれいにします」と説明。その後、「森と街のがっこう」の“体育教員”である足立成亮氏(outwoods代表、40歳)が案内役となり、メンバーそれぞれがマウンテンバイクにまたがり林内を疾走した。

道脇に並んだマウンテンバイク

足立氏らは、10年ほど前からこの学校林で森林整備や路網開設などを行ってきた。マウンテンバイク用コースは、チームメンバーが独自につくった。チームメンバーの1人は、「足立さんたちがつくる道や森林に一目惚れし、是非ここで遊びたいと思った。とても居心地がいい」と明るい表情をみせる。

道の清掃をするマウンテンバイクチームのメンバー

「森林を荒らさない」にこだわり、長短スパンの循環目指す

足立氏は、26歳で森林資源量調査などを行う第3セクターに就職して2年間勤め、林野行政職員を1年間経験した後に、個人事業主として独立した。今は「outwoods」の屋号で、森林整備や素材生産などの各種事業を引き受けている。

足立成亮・outwoods代表

「僕はこだわりが強いんですよ」と語る足立氏は、「大工が土足で建設中の家に上がらないように、森林を荒らさないように手をかけるようにしている」と述べ、「とくに道は、木材生産以外にも活用できるように、むしろ木材生産以外の用途にウエイトを置いてつくっている」と強調した。

多様な森林利用を目指す中で、重視しているのが“循環”だ。林内での作業時に出てくる枝葉は、ゾウの餌用として動物園に持ち込み、ゾウの糞からつくられた堆肥を受け取って自家菜園に撒いている。50年スパンの循環も社会には必要だが、身近で広い範囲の循環もこれからの持続的な社会には必要ではないか」と話す足立氏は、「これからは林業家や専門家だけが森林で働くのではなく、市民や異業種の人を巻き込める“オープンな場”がますます重要になってくる」との見方を示した。

アートディレクターなど異業種の8名で運営、研修を事業化

「森と街のがっこう」は、足立氏と、代表をつとめる陣内雄氏(56歳)のほか、アートディレクターやデザイナー、旅館経営者など計8名で運営している。陣内氏は、森林ボランティア団体「NPO法人もりねっと」を設立した後、環境保全型林業の実践に取り組んでいる。

足立・陣内両氏が行っている森林づくりに対しては、見学希望などが相次いでいる。このため、研修事業を立ち上げた。内容は道づくり(作業道開設)が中心で、実際に作業を行う「実践組」は1日5,000円+税、道づくりや森林を見学する「見学組」は同3,000円+税で参加できる。

見学会には様々な人が参加している

すでに1回目の研修会を5月上旬に、2回目を6月下旬に開催しており、林業関係者だけではなく、フォトグラファーや地域おこし協力隊員など様々な職種の関係者らが約100人参加した。3回目は7月23日(土)から26日(火)まで、札幌市内の小別沢地区で行うことにしている。

経営管理実施権を取得した私有林をモデルにして横展開を図る

足立氏は、「小別沢地区は今後10年間のメインステージになる」と位置づけている。同地区の森林については、札幌市が森林経営管理制度に基づく経営管理実施権を初めて設定し、足立氏らがこれを取得した(2021年6月14日付け)。計18.24haの私有林をフィールドにして、間伐を2回実施するなど10年スパンの森林づくりを行っていく計画だ。

市は、森林環境譲与税を財源にして森林整備活動を支援することにしており、間伐率20%以下の環境保全型森林施業や道づくりに要する経費などを助成メニューに加えた。

足立氏は、「小別沢地区をモデルにして、北海道各地の現場でも展開していきたい」とした上で、「林業関係者ももちろん大切だが、生活圏が街にしかない人を森に誘うようなプログラムを用意したい。それこそ短靴で森林に入ってもいいような」と続けた。「この活動が100年、200年と続けられるように、興味があればいつでも来てほしい」と自然体のスタンスで賛同者を受け入れている。

(2022年5月20日取材)

(トップ画像=親子連れでマウンテンバイクを安全に楽しめるコースなども整備されている)

『林政ニュース』編集部

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