サプライチェーンを広げて「木造ゼネコン」を目指す山大【突撃レポート】

サプライチェーンを広げて「木造ゼネコン」を目指す山大【突撃レポート】

宮城県石巻市で製材・プレカット事業などを行っている(株)山大(髙橋暢介社長)が非住宅市場の開拓に乗り出すなど積極的な経営を展開している。“餅は餅屋”の精神で同業他社との連携を強めながら、地域に軸足を置いた「木造ゼネコン」を目指している。

ウッドショックの中で好業績も、主力事業のテコ入れが必要

ウッドショックで業界全体が揺れる中、山大は好業績を残している。前期(2021年度)の売上高は約48億円で、経常利益は約3億円。木材製品の価格高騰に対して、原木価格の値上がりが小幅にとどまったため、利益率が向上した。

しかし、髙橋暢介社長(34歳)は、「今期(2022年度)は厳しい目で見ている」と話す。ロシア・ウクライナショックや急速な円安の進行に加え、燃料費をはじめとする物価高が経営環境を圧迫しているからだ。

同社の年間原木消費量は、約6~7万m3。主に、宮城県産スギを使っている。主力製品である「宮城の伊達な杉」は、中目材(径24~32cm)の赤太(芯の部分)を活かして105mm角や120mm角の土台や柱に加工し、含水率20%以下、E70以上の高品質製品に仕上げている。

同社の取引先は地場工務店が中心であり、2008年に設立した「宮城の伊達な杉で家を創る会」の会員(46工務店)が主力になっている。年間に約850棟分の住宅資材を販売し、売上高は約38億円に達する。文字どおり同社の中核事業となっているが、現状のままで安泰というわけではない。

養生中の「宮城の伊達な杉」

東北エリアの住宅市場は、東日本大震災以降、大手ハウスメーカーが進出し商圏を拡大している。これに押されるかたちで、地場工務店のシェアは3割を切るまでにダウンしており、受注力が低下しつつある。

髙橋社長は、「引き続き工務店サポートを強化する」との方針を示した上で、「新たな需要の創出も必要だ」と口にした。

大型プレカット加工機の導入を契機に事業領域も顧客も拡大

髙橋社長に経営のバトンが渡った2019年、山大は建設事業部木構造特殊建設室を立ち上げ、フンデガー社の大型プレカット加工機を導入した。

山大の工場内

新たな設備投資を行ったのは、非住宅建築分野に事業を拡大していくためだ。「当社の人材や設備、取引先などを考えたとき、非住宅分野を開拓することがベストだと考えた」と髙橋社長は話す。

同社には、小径木から中目材、大径材まで加工できる製材機をはじめ、21台の木材乾燥機や、プレカットの特殊加工機などが揃っている。

この陣容に、非住宅分野の設計から施工管理までできる体制が加わったことで、事業領域も顧客も大きく広がった。

髙橋暢介・山大社長

非住宅分野の受注は順調に伸びており、すでに年間売上高が約10億円のビジネスに育ってきている。髙橋社長は、「あらゆる注文に応えられる『木造ゼネコン』を目指していきたい。それには川上から川下に至る柔軟なサプライチェーンをつくることがカギになる」と見据えている。

“餅は餅屋”で同業他社との連携体制強化、「お互いを知る」

山大が工場を構える石巻工業団地は、合板工場や製紙工場が立ち並び、原木を積んだ大型トラックが行き交う。同社を含めた木材企業は、それぞれ独自のルートで原木を調達している。その中でコスト競争力を高めていくには、多段階の流通過程を見直してムダをそぎ落とすことが欠かせない。

同社も原木調達から施工・販売までの過程をスリム化する努力を続けてきた。これを踏まえて、今後は同業他社との連携を強化し、サプライチェーンの“横展開”に取り組む方針だ。

髙橋社長は、日本木材青壮年団体連合会で「サプライチェーンマネジメント推進委員会」の委員長をつとめている。「これまでは自分が自分がと考えて規模を拡大してきたが、これからは各社の協力体制が重要になってくる」と言い、当面の課題を次のように指摘する。「隣の会社が何をやっているのか、どういう設備を持っているかもお互いにわかっていない。これでは協力できない」。

山大の乾燥設備には余力がある

髙橋社長の狙いは、“餅は餅屋”の精神で各社が得意分野に注力し、業界全体の底上げを図ることにある。例えば、同社の加工ラインで90㎜角の柱材を生産しても効率は落ちる。それならば、90㎜角柱材を“売り”にしている製材工場に頼んだ方が早い。一方で、同社の乾燥設備には余力があるので、他の製材工場から乾燥業務を引き受けて、乾燥材不足の解消につなげることができる。

このような連携プレーは、お互いの信頼関係が前提となり、一朝一夕にできるものではない。髙橋社長も、「単年度の実績にとらわれず長期的に情報を共有していきたい」と言い、将来は「対応できない案件を助け合いながら進めていく」と口にした。今後は、ネットワーク型サプライチェーンなども構想しているという。

(2022年7月30日取材)

(トップ画像=大型プレカット加工機(左下)と同社が設計・施工した加工棟)

『林政ニュース』編集部

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