筑豊スギ大径材を活かす「ローカルズ55.LLP」【遠藤日雄のルポ&対論】

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筑豊スギ大径材を活かす「ローカルズ55.LLP」【遠藤日雄のルポ&対論】

福岡県の中央部に位置する筑豊。かつては日本一の石炭産地としてその名を轟かせ、五木寛之の『青春の門』の舞台にもなった地域である。現在でも筑豊といえばすぐに石炭が連想されるが、実は良質なスギの産地でもある。
この筑豊産のスギを使って、何とか地域を活性化できないものかと、試行錯誤が繰り返されてきたが、ここにきて1つの「方向」が浮かび上がってきた。それは、筑豊産スギの大径材を厚板に製材し、板倉パネルにして、非住宅の建築材料として活用しようという試みだ。この取り組みを進めるために、地元の素材生産業者、製材業者、木材流通業者、建築設計業者らが連携してプラットフォームを形成し、サプライチェーンマネジメントの実践に踏み出している。昨年(2022年)11月には実証モデル施工見学会が開催され、本格普及に向けた検討作業が行われているとの情報を得た遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、筑豊の一角をなす福岡県田川郡添田町に向かった。

モットーは「地域を元気にGo+GO」、実証モデルを公開

添田町に到着した遠藤理事長を出迎えたのは、実証モデル施工見学会を主催した有限責任事業組合「ローカルズ55.LLP」(添田町)の代表をつとめる荒木光子氏(添田木材(有)会長)。荒木代表はまず、見学会の開催などでも尽力した次のようなパートナーの面々を遠藤理事長に紹介した。

興梠賢一:(株)伊万里木材市場福岡営業所長

杉村泰司:(株)杉村構造設計代表取締役

加藤憲司:(株)HKS環境建築事務所代表

加藤重信:(株)チクモク代表取締役

遠藤理事長

昨年11月に開催した実証モデル施工見学会には、大勢の来場者があり、関心も高かったと聞いている。まず、どのような見学会だったのか教えて欲しい。

荒木代表

今年度(2022年度)林野庁補助事業の建築用木材供給・利用強化対策の一環として、大径化した原木を活かした地域材による設計合理化の技術開発・普及啓発に取り組んだ。その成果を公開したものだ。

「ローカルズ55.LLP」のメンバー(手前左から時計回りに、荒木、加藤(重)、加藤(憲)、杉村、興梠の各氏)
遠藤

スギ大径材の用途開発については各地で様々な取り組みが行われている。現在のところ、集成材用のラミナ、2×4(ツーバイフォー)部材、平角などのいわばコモディティ製品として量産化することに曙光がさし始めているが、「ローカルズ55.LLP」の取り組みは、それらとは一線を画すものに映る。

荒木

私共のモットーは、「地域を元気にGo+GO」であり、あくまでも地域に立脚した取り組みを行うことにしている。いたずらに量産化を指向するのではなく、地元の素材生産や製材・加工、流通、建築設計に関わる人々が集まって筑豊スギをいかに付加価値の高い製品にしていくかを目指している。その成果の一端を実証モデル施工見学会で披露した。
まずは実物を見て欲しい。

実証モデル施工見学会のチラシ

「厚板による落とし込み式板倉壁」で地域工務店が非住宅建設

ここで杉村、加藤(憲)、加藤(重)の3氏は遠藤理事長を実証モデル施工見学会が行われた現場に案内した。

遠藤

この建物がそうか。

杉村社長

そうだ。筑豊スギの良さを活かした「厚板による落とし込み式板倉壁」を用いた建物になる。

遠藤

なぜ、このような工法を開発したのか。

加藤(憲)代表

筑豊スギの大径材を使って、地元の工務店でも非住宅建築物を建設できないかとみんなで知恵を出し合った結果がこれだ。

遠藤

どのくらいの規模の建物になっているのか。

加藤(憲)

基本的に平屋建てで200m2程度のモデル建築物として設計し、その図面と建築コストを公開している。具体的な使用例としては、コンビニエンスストアや事務所、ギャラリーなどを想定している。

遠藤

コンビニ、事務所などの非住宅建築では鉄骨造が当たり前になっているが。

杉村

この実証モデルのポイントは、10mスパンの無柱空間を実現していることだ。地元の工務店でも木造で広々としたスペースをつくれることを示している。

遠藤

2階建てもできるのか?

加藤(憲)

もちろん、十分可能だ。200m2の2層規模で建築し、事務所などに利用できる。

想定する活用イメージ

径40~50㎝の丸太から45㎜厚の柾目板、十分な強度を確認

実証モデル施工見学会の現場視察を終えて「ローカルズ55.LLP」の事務所に戻った遠藤理事長は、改めて問いかけた。

遠藤

筑豊スギを使った「厚板による落とし込み式板倉壁」についてもう少し詳しく説明して欲しい。使用しているスギ大径材は、どのようなサイズなのか。

興梠所長

基本的に末口径40~50㎝の丸太(原木)になる。その丸太から厚さ45㎜の柾目の板を製材している。

遠藤

どうやって製材しているのか。

興梠

大径丸太なので台車挽きだ。

遠藤

「落とし込み式板倉壁」の標準工法などはあるのか。

荒木

建築基準法に適した工法としては、落とし込んだ板同士をダボ(太枘)でつなぎ、壁外周の板と柱・梁を釘で補強したものとされている。

遠藤

ということは、大壁工法ではなく、真壁工法というわけだ。

加藤(憲)

落とし込み板の板厚は通常27㎜程度だが、大径材の良さを活かして板厚を45㎜とした。それを一般的な約200㎜と、幅広の300㎜の2つのパターンで落とし込み、板幅の違いによる強度性能(壁倍率相当値)の比較を行った。

遠藤

結果はどうだったのか。

加藤(重)社長

建築基準法で規定されている落とし込み板壁工法の壁倍率が2.5倍なのに対して、今回の実証試験結果から算出した壁倍率は板幅約200㎜で2.9倍、300㎜で3.1倍であることを確認できた。十分な強度があることがわかった。

供給される丸太は太いものにシフト、新たな「門」を開け!

遠藤

最後に聞いておきたい。筑豊スギ大径材の今後の供給ポテンシャルはどうなのか。

荒木

わが国のスギ人工林の多くが間伐を繰り返しながら長伐期化を進めてきたため、供給される丸太が大径化してきている。この傾向は筑豊スギも同様であり、新たな用途開発を急がなければならない。

興梠

伊万里木材市場福岡営業所のデータを紹介しよう。2021年のスギ取り扱い量は1万8.807m3だった。そのうち径30~38cmが10.54%、40~48cmが2.21%、50~58cmが0.30%、60~68㎝が0.02%を占めていた。これからは径の太いものの割合(シェア)が増えていくだろう。

遠藤

スギ大径材丸太の用途を広げることが焦眉の課題であることは論を俟(ま)たない。その中で、「ローカルズ55.LLP」が「落とし込み式板倉壁」で1つの突破口を開いた意義は大きい。筑豊が「青春の門」だけではなく、「スギ大径材の用途確立」という新たな門も開くことを期待している。

(2023年3月1日取材)

(トップ画像=「厚板による落とし込み式板倉壁」を用いたモデル建築物)

『林政ニュース』編集部

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