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50㎞圏内の資源を有効活用しウナギ、マンゴーにコーヒーも
1964年に創業したトーセンは、2014年に設立50周年を迎えたのを機に、「エネルフォーレ50」と呼ぶ独自の構想を打ち出した。製材工場と木質バイオマス発電所を中心として、50㎞圏内にある資源やエネルギーを有効活用し、地域の自立を目指すというものだ。その実践地の1つである栃木県の那珂川町では、廃校となっていた馬頭東中学校跡地で2012年から製材工場の操業を始め、木質バイオマス発電所(出力1,995kW)や関連設備を一体的に整備して、熱利用と組み合わせた事業を展開している。工場に搬入されるスギ・ヒノキを製材するだけでなく、加工過程で出てくる端材や樹皮(バーク)のほか、住民参加型の「木の駅プロジェクト」によって集められた林地残材などをチップ化して、発電所やボイラーの燃料として有効活用。また、発電所でつくった電気を売電するとともに、熱利用ボイラーも稼働させて、木材乾燥に熱を利用し、余熱はウナギの養殖やマンゴーのハウス栽培などを行っている地元の業者に供給している。
製材業者が木質バイオマス発電事業を行うことは珍しくないが、ウナギの養殖やマンゴーの栽培まで地元業者と連携して取り組むとは意表を突かれた。畑違いのビジネスに手を伸ばしたようにも映るが、業績はどうなのか。
おかげさまで、ウナギもマンゴーも順調な生産・販売を続けている。最近は、コーヒーのハウス栽培も軌道に乗ってきた。
マンゴーについていうと、昨年(2022年)は4,500個くらい収穫できた。これを1個約3,000円で直売している。6月末から売り始めて7月にはすべて売り切れるような状況だ。
国産のマンゴーといえば宮崎県産が有名だが、栃木県の北東部に位置する那珂川町産のマンゴーが評価されるのはなぜか。
地域の資源を有効活用してつくられたマンゴーというストーリーに共感して買ってくれる方が多い。ウナギも同様で、山の中で育てたところに価値がある。那珂川町でウナギ養殖のノウハウを学び、別の地域で養殖施設をつくり、店を出した人もいる。そういうきっかけをつくれたのが嬉しい。キーワードは、自立だ。
「エネルフォーレ50」を発展させバイオマスワールド目指す
那珂川町における取り組みをみると、50kmという経済圏で資源やエネルギーを地産地消しながら自立を図る「エネルフォーレ50」のコンセプトが理解できる。これから展開しようとしている地方創生に貢献するプロジェクトは、「エネルフォーレ50」の延長線上にあるとみていいか。
方向性としてはそうなる。「エネルフォーレ50」を実現すべく取り組んできた成果をさらに発展させ、スケールアップしたものを目指したい。最終的には、バイオマス・脱炭素のテーマパークのようなものをつくりたい。
なぜ、そこまで事業の幅を広げようとするのか。
私は矢板市商工会の会長として、地域産業全体の発展にも取り組んでいるが、東京と地方の格差は広がるばかりだ。とくに、地方は人口が減り、後継者がいないことが最大の悩みとなっている。
地方を元気づけるためには、近くにある資源を活かして産業を起こし、雇用を増やすことが欠かせない。そのためには、製材業だけをやっているわけにはいかない。地域の森林資源に立脚したビジネスの裾野を広げ、関連産業とも連携して、自立した社会の基盤となるバイオマスワールドを構築したい。
その構想を実現する上での課題は何か。
日本が抱えている根本的な問題は、食料とエネルギーの自給率が低いことだ。政府の資料によると、カロリーベースの食料自給率は37%、エネルギーの自給率は12.1%でしかない。
これに対して、例えばドイツは48%までエネルギー自給率を上げている。ドイツのGDPは日本とほとんど同じで、人口は6割くらいだから、相対的にみて日本よりも豊かな国になっているといえる。
日本は国土の68%が森林であり、これを有効利用すれば、食料もエネルギーも自給率が高まり、もっと豊かになれる。私も70歳になった。バイオマスワールドのモデルづくりを集大成の事業にしたいと考えている。
広くパートナーを募り、木材加工&エネルギー供給拠点整備
その集大成と位置づける事業は、現在どのくらい進んでいるのか。
準備室を設けて、様々な検討を進めているところだ。基本的には、「母船式木流システム」や「エネルフォーレ50」の考え方をベースに、地域にあるものを活かすようにしていく。この周辺でも、企業が撤退して空いている工場などが増えてきた。そうしたものを再利用することで、初期投資を抑え、生産体制をスピーディーに整備することができる。もちろん、必要な新規投資は躊躇(ためら)わずに行っていきたい。
実現を目指しているバイオマスワールドについて、具体的なイメージを教えて欲しい。
ビジョンに共感できるパートナーを業種に関わらず募り、広い敷地を確保して、木材加工とエネルギー供給の先進的な拠点を整備していく。製材過程で出てくる端材などを使ってバイオマス発電を行い、太陽光発電も組み合わせて電気や熱などのエネルギーを生み出す。ここは内陸地だが、エネルギーが自給できれば、水産物や野菜などがつくれて、食料自給率が上がる。できるだけ早く実現して、多くの人に見てもらえるようにしたい。
外材との競争で勝てる製材業者へ、積極性と提案力が不可欠
最後に国産材製材協会の会長として、日本の製材業者のあり方について聞きたい。バイオマスワールドでも製材工場が中核になるようだが、どのような将来ビジョンを描いているのか。
工場の近くの山にある木を活用して、外材と競争しても勝てる製材業者になることが目標だ。国内森林が成熟して木が太ってきているので、ムク(無垢)の平角などに加工すれば、外材のシェアが高い部材を国産材製品に置き換えていける。
また、新たな需要先である非住宅建築物に国産材製品がもっと使われるようにしたい。そのためには、プロジェクトの設計段階から製材業者が積極的に関わっていく必要がある。今よりも一歩踏み込んで国産材製品の活かし方を提案していかないと、着実な需要拡大にはつながらないだろう。
このほか、ヨーロッパではチップを断熱材に加工して新たなマーケットをつくっており、日本でもチャレンジすることを検討したい。
これからの製材業者には、積極性と提案力が欠かせないということか。
予算ができたから使うという“待ちの姿勢”ではなくて、国や研究機関などに対して、国産材業界の競争力向上などに関する戦略的な議論を呼びかけていきたい。将来ビジョンを提案しながら産官学で検討を進める場をつくることが不可欠と考えている。
【訂正】『林政ニュース』の前号(第700号)9頁(「遠藤日雄のルポ&対論」)の冒頭から5~6行目に記した「同5万~10万m3未満の工場数は194から204へと微増した」は誤りで、正しくは、「同1万~5万m3未満の工場数は194から204へと微増した」でした。ここに訂正いたします。
(トップ画像=「エネルフォーレ50」の概念図)
『林政ニュース』編集部
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