林野庁の2025年度予算要求を読み解く 目立つ新規、拡充事項などを追う【緑風対談】

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林野庁の2025年度予算要求を読み解く 目立つ新規、拡充事項などを追う【緑風対談】

予算要求──それは役所・役人の存在意義と実力を如実に示すリトマス試験紙のようなものである。では、林野庁の2025(令和7)年度予算概算要求はどうなっているのか。

枠一杯の15・8%増で要求も農政重視のあおりを受けないか

8月30日に林野庁の来年度(2025(令和7)年度)予算概算要求が財務省に提出された。早速、要点を解説していこう。
まず、全体像から──。要求総額は3,478億3,100万円、対前年度当初予算比では15.8%増となっている*1。比較対象となる2024(令和6)年度の概算要求は16.4%増だったので*2、0.6ポイント下回っているが、目くじら立てるほどではない。概算要求基準の枠を目一杯使っているのは例年と同じだ。

それよりも今回の予算編成で気がかりなのは、農政重視のあおりを林野予算が受けないかだ。先の国会で四半世紀ぶりに食料・農業・農村基本法を改正したこともあって、自民党の農林関係議員などは関連予算の拡充を声高に求めている。農林水産省全体の予算要求は同16.3%増で林野予算よりも伸び率が若干高いが、周知のように当初予算が大きく増える状況ではない。そうなると、省内で予算の取り合いになる。農政に関わる議論が熱を帯びる中で、これまで以上に林政の重要性をしっかりと主張していくことが必要になっている。

柱の林野公共は18.8%増で要求、災害多発踏まえ事業拡充

それでは、目立つ要求事項をピックアップしていこう。
林野予算の中心である公共事業は、森林整備・治山の両事業ともに同18.8%増で要求した。省の他の公共事業(農業農村整備、水産基盤整備)と同じ伸び率だ。

令和6年能登半島地震」など自然災害が多発していることを踏まえ、要求事項には、代替路にもなる幹線林道の整備拡充や、津波避難路を保全する予防治山対策の推進などのメニューを盛り込んだ。もっとも、林野公共に求められるのは何よりも“金額”だ。
事業推進の後ろ盾となっている自民党の森林整備・治山事業促進議員連盟(山口俊一会長)は、8月29日に会合を開き、36名の国会議員(代理を含めると81名)が出席して、予算確保に全力で取り組むことを決議した。これから自民党総裁選→衆院解散総選挙が近づいてくると、国会議員のセンセー方も落ち着かなくなってくるだろう。それが予算編成作業にどう影響してくるのか、注意深くウォッチしていかなければならない。

今回も花粉対策は補正狙い、新たに「集約化モデル事業」実施

非公共事業については、既報のように、「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」と「花粉症解決に向けた総合対策」の2本柱のもとに既存事業を配置し直した。
1年前の概算要求では、岸田首相が突如ぶち上げた花粉対策を林野予算全体にかぶせるようにしたので、何でもかんでも花粉削減のためにやっているようになった。今回は、花粉関連事業を切り分けたので、見た目はわかりやすくなった。

昨年の経緯をトレースすると、11月10日に閣議決定した2023(令和5)年度補正予算に「花粉の少ない森林への転換促進緊急総合対策」として60億円が計上され、予算の分捕り合戦は事実上決着した*3
それと比べて、今回の「花粉症解決に向けた総合対策」の要求額は35億円と少々控え目だが、「それでも予算確保が保証されたわけではない」(林野庁幹部)のであり、「今回も補正があれば積極的に(予算を)とりにいく」(同)という。

もう1つの柱である「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」の要求額は156億円で前年度当初予算より12億円増やした。
再造林などを支援する「林業・木材産業循環成長対策」(要求額は71億円)や「林業デジタル・イノベーション総合対策」(同3億円)などの既存事業を継続するほか、新たに「森林の集約化モデル地域実証事業」(同3億円)に着手する方針だ。この新規事業は、年明けの通常国会で改正予定の森林経営管理法を念頭に、林業経営体の体質強化などを目指すもの。のように地域での合意形成を進めながら“現場力”を高めることにしている。

「森林の集約化モデル地域実証事業」の概要

外国人材を含めて受け入れ体制整備、「半林半X」の活動支援

このほか拡充事項で目立つのは、外国人材を含めた担い手対策。技能検定の職種に「林業」が加わり*4、特定技能制度の1号に「林業」と「木材産業」が追加された*5ことなどを踏まえ、初試験の実施を含めた条件整備に必要な経費を経営課と木材産業課が要求している。

森林・山村多面的機能発揮対策を衣替えして10億円を要求した「森林・山村地域活性化振興対策」では、新たに「半林半X」を支援対象に加えた。「半林半X」とは、「サービス業のような他の仕事で収入を得ながら、アイデアと技術を活かして、地域の森林資源からも収入を得ることにより生計を立てるライフスタイル」と定義しており、林業一点張りにこだわらずに多様な活動をサポートしながら「関係人口の拡大や山村への定住を目指す」(森林利用課山村振興・緑化推進室)という。「予算書に『半林半X』が載るのは初めて」(同)だそうだ。

最後に、野生鳥獣害対策に触れよう。農村振興局計上の予算として「シカ等による森林被害緊急対策事業」を1億円で要求している。シカのねぐらや隠れ場になっている森林を対象に、捕獲ポイントの特定調査や簡易な捕獲個体処理施設の整備などの条件整備を進めて、広域的なシカ対策を行うことにしている。

(2024年8月27・30日取材)

(トップ画像=2025年度予算概算要求の内容について議論をする自民党の農林関係議員、2024年8月27日撮影)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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