独自の開発力で熊野から新風をもたらす野地木材工業【突撃レポート】

独自の開発力で熊野から新風をもたらす野地木材工業【突撃レポート】

世界遺産・熊野古道の麓にある製材所・野地木材工業(株)(三重県熊野市、野地洋正社長)。1963年に創業した同社は、独自の品質規格や在庫管理システムを構築してユーザーからの注文に応えながら、消費者も巻き込んだイベント開催やユニークな商品開発などを通じて国産材業界に新風をもたらしている。

「NOZIS規格」で品質を透明化、全社員の“共通言語”に

「当社は独自の『NOZIS規格』を設けて品質管理をわかりやすく示し製品を直販している」──こう話すのは、野地木材工業専務取締役の野地伸卓氏(43歳)。

同社のウリは、加工・塗装などを含めたオーダーメイドの製品を工務店などのユーザーに直接販売していること。とくに、美観が重視される内装材や化粧構造材などを得意としている。

同社に入ってくる注文は多種多様でバラエティに富んでいる。これに的確に応えるために整備したのがNOZIS規格だ。その内容はきめ細かい。例えば、化粧用構造材の合格ラインを写真で表示して簡単に判別できるようにし、節の基準も5段階で評価している。工場内の各所には、写真付き規格表と機材の操作方法等のマニュアルが掲示されており、いつでも確認できる。

NOZIS規格は、同社の品質管理部門が作成しており、実験・研究を繰り返して、木材の反り・狂い、塗装の種類などに関する取り決めを定期的にアップデートしている。営業部門もNOZIS規格をベースに設計士や工務店との打ち合わせを行っている。野地専務は、「NOZIS規格を全社員の“共通言語”にすることで、木材の特性をわかりやすく伝えながら、よりユーザーニーズにマッチした製品をお届けできる。かりにエラーがあった場合でも、製品生産時の不良なのか、顧客との打ち合わせ不足なのかというチェックが迅速にでき、再発防止が図れる」とメリットを説明する。

「ノジステム」で在庫情報把握、工場レイアウトから見直す

NOZIS規格とともに野地木材工業の事業を支えているのが在庫管理をサポートする「ノジステム」だ。同社は、本社工場のほかに倉庫、協力工場など計10か所の拠点を持つ。ノジステムによって、各拠点の在庫情報や生産状況などをリアルタイムで把握できる。いわば同社の“頭脳”といえるものだ。

「ノジステム」の管理画面

この“頭脳”を動かし、各拠点に指示を出すのが5名の女性スタッフが在籍する営業部門。野地専務は、「営業は女性がいい」と言い切る。「男性が営業に行くよりも成約率が高く、取引先や顧客とも良好な関係性を築ける」からだ。

野地専務は、約20年前に家業である同社に入り、続いて弟2人も後を追うように入社した。「当時は在庫がどこにあるかわからず、かなり手間がかかっていた」と振り返る。そこで、「工場の平面図から保管できる在庫量を計算し、新たな工場レイアウトを作成した」という。この“刷新力”がNOZIS規格やノジステムを生み出す同社の原動力になっている。

野地伸卓・野地木材工業専務取締役

協力工場とともに業務を最適化、年間売上高約8億円に成長

野地木材工業が拠点を構える熊野地域は、三重・奈良・和歌山県の県境に広がり、尾鷲ヒノキや吉野スギと肩を並べる良質材が生産される。同社は、この良質材を活かすため、付加価値の高い内装材や化粧構造材に製材し、こだわりのある設計士や建築家を中心に販売してきた。

それだけでなく、地域の製材所に声をかけて協力工場を募り、連携体制を築いている。同社が原木の仕入れや生産管理、営業販売を行い、協力工場は製材や塗装などに特化することで、モノづくりの役割分担が進んでいる。

野地専務は、「地域全体で業務の最適化を図るようにしている」と話す。約20年前に家業に戻ってから、製材機の導入などハード面だけでなく、製材所同士のネットワークづくりを含めたソフト面への投資を続けてきた。その成果は着実に出ており、この間に年間原木消費量は約7,000m3から約1万1,000m3に増加。現時点の社員数は約50名、取引件数は約300件、売上高は約8億円になっている。

事業継承を視野に新機軸続々、“ユニークな製材所”目指す

野地専務は、近く事業継承を控えており、新規事業の本格展開に向けた布石も打っている。ここ数年間でホームページのリニューアルやYouTubeでの情報発信などウェブマーケティングを強化してきた。同社工場と熊野の森林を案内する「のじもくツアー」や「セーザイゲーム」を使ったリアルイベントも開催し、エンドユーザーである消費者に直接アプローチする機会を増やしている。

工場内は整理整頓されている

また、新たにヒノキを使った「小幅板風羽目板」を開発。これは建築家との対話の中から生まれた新商品で、ヒノキを洋風の物件でも活かせると評判を呼んでいる。

野地専務は、「これまで様々な実験・開発を行ってきた。次は商品の市場展開を広げる段階に入る」と言う。「HIASOBI」などの小物や家具の生産・販売にも力を入れていく方針であり、「そのためにも30代以下の若者を積極的に雇用していきたい」と意気込む。事業継承に向けて、「情報発信を続けて野地木材工業のファンを育て、“ユニークな製材所”を目指す」と抱負を口にした。

(2022年8月11日取材)

(トップ画像=工場内に掲示されている「NOIZIS規格」の品質基準)

『林政ニュース』編集部

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