過去最高の業績を更新、国有林で躍進する沼田森林業協同組合【突撃レポート】

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過去最高の業績を更新、国有林で躍進する沼田森林業協同組合【突撃レポート】

国有林の請負事業体が結集した沼田森林業協同組合(群馬県沼田市)の業績が好調だ。発足から36年目に入り、過去最高水準の事業量をこなし、現場作業員の若返りも進んでいる。(文中敬称略)

従業員50人で、年1万6,000m3の素材生産をこなす

「今年度の事業量はこれまでで最大になりそうだ」――沼田森林業協同組合専務理事の星野貞夫(70歳)は今、確かな追い風を感じている。同協組の事業量は、地球温暖化対策の一環として森林整備事業が推進されるようになった平成18年度から右肩上がりで増え続けている。事業費ベースでは、昨年度(平成20年度)が約4億円で過去最高を記録、今年度(21年度)はそれを上回る約5億円に達する見通しだ。

国有林の有力請負事業体として知られる同協組には、現在9社が加盟しており、造林・素材生産事業を行っている。同協組が窓口となって国有林の入札に参加し、落札した事業を各社の特性や能力、地域性などを考慮して振り分ける仕組み。同協組は、事業規模に応じて5~10%の手数料をとり、事務局運営費などに充てている。

同協組が発足したのは、昭和48年。沼田営林署(現・利根沼田森林管理署)管内で活動していた12の造林会社・愛林組合などが結束して新組織をつくった。翌49年に、労働保険事務組合の承認を得て、組合員の雇用保険・労災保険などの加入手続きを完了。50年には沼田署管内の製品生産請負事業(素材生産事業)を開始、58年には治山請負事業も始めるなど、着実に事業領域を拡大してきた。平成5年には建設業(土木工事業)の許可も取得している。

星野貞夫・沼田森林業協同組合専務理事

同協組全体で昨年度手がけた素材生産量は約1万6,000m3。今年度も同水準のペースで事業を行っている。

従業員数(常用)は合計50名で、平均年齢は50歳前後。「最近は毎年、若い人が入ってくる」(星野)という。

懸念は安値入札の新規業者、叩き合いからの脱却が課題

事業面でも人材面でも、沼田森林業協同組合の経営状況は順風満帆に映る。だが、全く無風ということではない。事実、星野はある懸念を抱えている。それは、国有林の入札で法外な安値を提示し、仕事をとっていく業者が出てきたことだ。とくに最近は、福井県からやってくる建設業者などの動きが目立つ。「枝打ちなどの仕事は、(通常の)50%くらいの価格で落とされたこともある」(星野)。

国有林の造林事業や素材生産事業は、民間業者に発注して実施されている。以前は、随意契約(随契)が主流だったが、今は全面的に一般競争入札に切り替わった。基本的にオープン、誰でも参加できる入札方式になったことで、事業発注の透明性や公平性は高まったが、一方で価格の叩き合いになるケースも出てきた。公共事業の激減で仕事がない建設業者などは、下刈り、つる切り、除伐などの造林事業に参入し始めている。「チェーンソーや刈り払い機の講習会に行くと、参加しているのは建設業界の人達ばかり」(星野)。

「価格のみの競争」では、安かろう・悪かろうの消耗戦に陥る恐れがある。このため林野庁は昨年9月に「総合評価入札方式」を導入、「価格+品質の競争」を目指す方針を打ち出した。入札業者の技術力や事業実績、地域への貢献度などを得点方式で評価する手法だ。だが、総合評価はまだ始まったばかりで、試行錯誤の段階。ゆえに、「うちのようなところと新規参入の会社で、それほど得点差はつかないことがままある」(星野)という。望ましい入札方式はどうあるべきか――現場が投げかけている課題は、重く深い。

先頭を走る角石林業、枝葉・根株まで残さず有効利用

事業量が増える一方で、新規業者との競争に直面――沼田森林業協同組合を取り巻く情勢には明と暗の両面がある。その中で安定した経営を続けていくためには、他には真似のできない特長を持つことが必要だ。この点、素材生産事業は、現場作業者とともに高性能林業機械を揃えることが不可欠であり、一朝一夕には参入できない分野。同協組の強みは、この素材生産事業で、一頭地を抜く存在となっていることだ。

カラマツ林での間伐作業をチェックする角田博・角石林業(株)取締役

とくに、同協組の理事長をつとめている角石林業(株)のリーダーシップが際立つ。昭和37年創業の同社は、社員20人のうち15人が現場で素材生産と造林事業に従事している。プロセッサ、フォワーダ、スイングヤーダなどの林業機械を有し、4班体制で1日平均約100m3の伐出能力を持つ。昨年の素材生産量は、1万3,000m3に達した(このうち同協組経由の受注分が7,000m3、残りは独自に受注)。

同社は、大型トラックを9台保有し、運送事業も展開。さらに、平成16年には産業廃棄物処分業の許可を取得、移動式チッパーも導入し、一般用材だけでなく、枝葉や根株などの加工処理も行える体制を整えた。「樹木のトータルコーディネーター」を標榜する同社は、毎年2名程度の新入社員を採用している。

創業者である角田厳の子息で、同社の取締役である角田博(55歳)は、「新しい高性能機械を入れることを検討したい」と話しており、ヨーロッパの機械展示会にも積極的に出向いて情報を収集、最新・最適の作業システムを追求し続けている。この姿勢こそが、同社を地域№1の素材生産業者たらしめている駆動力といえる。

(2010年1月14日取材)

(トップ画像=角石林業は2台のプロセッサを保有、常時4つの作業班が現場に入っており、1日平均100m3の伐出能力がある)

『林政ニュース』編集部

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