オガ炭で“ゼロエミション”を先導する兵庫炭化工業【突撃レポート】

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オガ炭で“ゼロエミション”を先導する兵庫炭化工業【突撃レポート】

おが粉を圧縮成型したオガライトを炭化してつくられる「オガ炭」。焼き肉店や焼き鳥店などで使われるプロ向けの工業炭として底堅い需要を持つ。そのオガ炭を生産・販売している兵庫炭化工業(株)(兵庫県宍粟市一宮町、谷口幸三・代表取締役)が“森のゼロエミション工場”としての存在感を増している。周辺の製材工場から木屑等を引き取ってオガ炭に加工・販売するリサイクルルートを確立。今後は、新設される大型製材工場との連携や、新たにペレット生産に踏み出すことも検討している。(文中敬称略)

木屑受入施設も備えた「ゼロエミ構想」の中核拠点

「昔は厄介者だった木屑やおが屑が、最近は足りなくなってきた」――兵庫炭化工業の取締役工場長・八家良厚(67歳)は、炭窯の稼働状況を見つめながら、こう呟いた。同社は6基の炭窯を持っているが、現在常時使用しているのは4基だけ。原料である木屑やおが屑の調達がタイトになっているからだ。地元の製材工場が廃業などで減少しているのに加えて、家畜敷料としてのおが屑需要が増えていることが、原料の確保を難しくさせている。このため八家は、四国の同業者からオガライトを取り寄せて補充分にあてるなどの手当ても行っている。

とはいえ、同社は、年間のオガ炭生産量が約400tに達する中堅メーカーとして、業界内で一目置かれる存在。しかも、地元の宍粟市は、旧一宮町が平成11年から進めてきた「森のゼロエミッション構想」を全市レベルで展開することを19年3月に宣言。同社は、構想実現に向けた中核拠点の1つにも位置づけられている。

同社に隣接して、14年4月には播磨木質バイオマス利用協同組合のおが粉生産施設が完成。八家は、同協同組合の取締役工場長でもある。ここには製材工場等の木屑や、特産品であるそうめんの廃木箱などが集められ、オガ炭の原料となっていく。文字どおり「ゴミの再生センター」だ。なお、木屑の処理費用はm3当たり700~800円、おが粉の仕入れ価格は同2,000円が相場だという。

国産と南洋材のおが粉を適度に調合するのがミソ

兵庫炭化工業の工場内には、スギ、ヒノキといった国産のおが粉とともに、アピトンやマングローブなど南洋材を原料にしたおが粉がストックされている。これらを適度にブレンドして、まずオガライトに加工し、その後、炭窯でオガ炭に再加工する。

八家は、国産のおが粉だけでつくるとオガ炭が柔らかくなりすぎるので、南洋材のおが粉を混ぜることが不可欠と指摘した上で、「調合具合は現場の者の勘による」と説明した。マニュアルどおりに作業をすればそれなりの商品(オガ炭)ができるわけではなく、長年の経験に裏打ちされた独自のノウハウがものをいう世界なのだ。

基本的に、400~500㎏のおが粉から300㎏のオガライトができ、最終的に100㎏のオガ炭が得られる。この歩止まりを上げることが肝要であり、八家は、「そろそろ炭窯をやりかえる頃かな」と話す。今ある炭窯は17年前に導入したもの。補修をしながら利用してきたが、ところどころに隙間ができている。ただし、炭窯を新調するには4,000~5,000万円がかかる。それだけの投資をここでするべきなのか、八家は思案を続けるが、目は前を向いている。これまで景気の波に洗われながらオガ炭生産を続けてきた実績から、「炭(の需要)はなくならない」と確信しているからだ。

国産(スギ、左手)と南洋材のおが粉をチェックする八家良厚・兵庫炭化工業取締役工場長

繊維燃料→飲食業用と販路を確保し借金を解消

兵庫炭化工業が発足したのは、昭和49年6月。地元の製材工場関係者らが、資本金2,000万円を出し合って同社を設立した。だが、オガ炭の販路開拓に苦しみ、発足後わずか2年で借金が約1億円に膨らんだ。ここで経営に参画した八家は、レーヨンや化学繊維の燃料としてオガ炭が使えることに着目。大手繊維メーカー・(株)クラレの子会社との商談をまとめ、大口の販売先を確保することに成功した。「当時は月に120tは納めていた」と振り返る。その後は、飲食業界向けに販路をシフトさせ、「ようやく借金がなくなった」と言えるところまで経営を軌道に乗せた。

ただし、従業員数はピーク時の16人から10人に減り、最近になって1級品(最上級品)が売れなくなるなど、経営環境は依然として予断を許さない。だが、火力があって火持ちがよく、煙や灰が少ないというオガ炭の優位性が揺らぐものではない。中国や東南アジアでつくられたおが炭(輸入炭)は火持ちが悪く、灰も多い。“安かろう・悪かろう”の商品とは自ずから差別化が図られると八家は見ている。国内で生産された安全・安心の保証されているオガ炭であることを需要者に積極的にアピールする手法についても検討中だ。

オガ炭を1・2・3級品に仕分けし箱詰めする。

兵庫木材センターに期待、ペレット生産も検討

懸案である木屑・オガ屑の確保では、近接地で建設が進んでいる(協)兵庫木材センターの大型製材工場に期待がかかる。計画どおりに年間10万m3規模の原木消費が実現すれば、相当量の木屑・おが屑が出てくると見込めるからだ。

また、行政サイドからは、新たに木質ペレットを生産できないかとの打診が来ている。宍粟市内の温泉施設や温水プールなどの熱源を重油からバイオマスに転換することが計画されており、地産地消型の燃料供給が求められているのだ。

兵庫炭化工業の工場では、熱源をすべて木屑やおが屑で賄っている。発足時には石油やガスを使用していたが、八家が工場長に就任すると同時に取り外し、エネルギー自給型の工場に切り替えた。「エコ」などという薄っぺらな流行言葉が世に出回る前に、いち早く“ゼロエミッション工場”へと舵を切っていた同社に、今また新たな“ミッション(使命)”が与えられようとしている。

(2010年10月7日取材)

(トップ画像=オガ粉を熱圧成型したオガライト。このままでは火持ちが悪く熱量も低いのでオガ炭に焼き上げる。)

『林政ニュース』編集部

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