教育施設の木造・木質化に吹く“追い風”を活かせ!【シンポから】

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教育施設の木造・木質化に吹く“追い風”を活かせ!【シンポから】

校舎や体育館などの教育施設を木造・木質化する事例が目立ってきた。木に囲まれ・触れ合うことで“学びの質”などが向上すると注目されており、今後も老朽化した教育施設の建て替えや改修に合わせて積極的に木材を使用するケースが増えていきそうだ。

最先端の「ウエスト館」を視察、エビデンス揃い増改築も増加

日本ウッドデザイン協会(東京都港区、隈研吾会長)は、10月14日に千葉県市川市の昭和学院小学校「ウエスト館」でシンポジウム「木が学びを創造する〜教育施設における木材活用」を開催した。一昨年(2011年)11月に竣工した木造2階建ての「ウエスト館」は、昨年(2022年)のウッドデザイン賞で奨励賞(審査委員長賞)に輝いた。国産のスギ、ヒノキをはじめ様々な木材を各所に使用しており、CLT工法によって明るく開放的な空間をつくり出している。

同協会は、会員同士のマッチング促進を目的にした現地見学ツアーなどを開催しており、今年(2023年)1月には「観光」をテーマに長野県の茅野市と軽井沢町を訪れた*1。第2弾として企画した今回のシンポジウムでは、「教育」を主題に掲げた。その理由について、同協会常任理事の高橋義則氏は、「ウッドデザイン賞の応募作品・受賞作品ともに教育施設が増加してきている。その背景には、木造・木質化による教育効果のエビデンスが揃ってきていることがある。全国の教育施設が増改築のタイミングを迎えていることも“追い風”になっている」と話す。

教育施設における木材利用を広げていくためには、実例を見る機会を増やすのが一番。だが、これが意外と難しい。平日は生徒が授業を受けているからだ。そこで今回のシンポジウムは休日に行い、会員向けの施設見学会も併催して、“木の学び舎”をじっくりと視察できるようにした。

学業への集中度が増し、ストレスも軽減、カギは「教員の理解」

シンポジウムでは、はじめに昭和学院理事長の山本徹氏が挨拶した。山本理事長は、1988年7月から翌89年7月まで林野庁長官をつとめており、木材の持つ調温・調湿効果などに触れた上で、「(木の校舎は)生徒達から好評で、学習効果も高まっている。皆さんとともにもっと広げていきたい」と述べた。

山本徹・昭和学院理事長

基調講演は林野庁木材利用課木材利用促進官の五味亮氏が行い、特別講演として、埼玉大学教育学部教授の浅田茂裕氏が木造建築物と非木造建築物の違いや木材が教育に与える影響をデータに基づいて解説した。浅田氏は、「木を使うことで、学業への集中度が増し、人間関係に対するストレスが軽減され、良い自己形成の場がつくれる」とし、「教育施設のユーザーは子どもと教員。教員の理解が得られるかが木造・木質化を進める際のポイントになる」と指摘した。

シンポジウムには約50名が参加した

パネルディスカッションでは、「ウエスト館」を設計した(株)日建設計Nikken Wood Labチームリーダーの大庭拓也氏、東京都江東区の「有明西学園」を設計した(株)竹中工務店(大阪府大阪市)東京本店設計部の栗田献氏、神奈川県小田原市で学校の木質化を担当している林業振興担当課長の寺田智哉氏が先進事例などを紹介し、教育施設で木材を使用するメリットや直面している課題などについて意見を交わした。今後に向けて、前出の高橋氏は、「木材の効果・効用に関するエビデンス取得をさらに進めて、教育とのコラボレーションを加速させたい」と意欲を語っている。

(2023年10月14日取材)

(トップ画像=「ウエスト館」の延床面積は1,467.84m2、木材使用量は700m3、設計は日建設計のNikken Wood Lab)

『林政ニュース』編集部

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