「千年の森」+「新しい林業」で飛躍を目指す古殿町【進化する自治体】

東北地方 福島県 森林経営・管理

「千年の森」+「新しい林業」で飛躍を目指す古殿町【進化する自治体】

「流鏑馬(やぶさめ)の里」として知られる福島県古殿町(岡部光徳町長)。同町は2001年から「千年の森育成事業」に取り組み、昨年(2022年)10月には国(林野庁)が進める「新しい林業」モデル実証事業の対象地に選ばれた。“儲かる林業”の実現に向けて、独自の「古殿モデル」を確立しようとしている。

地籍調査と全民有林の測量が完了、独自アプリで業務を効率化

古殿町の人口は約5,000人。町面積の約8割に当たる1万3,497haが森林で覆われており、このうち7,305haが民有林で人工林率は75%に達している。同町では地籍調査がほぼ完了しており、すべての民有林を対象にした測量事業も実施済み。林業振興の基盤となるデータが整っているのは大きな強みといえる。

民有林の測量事業は、東日本大震災の復興予算を活用して、国際航業(株)(東京都新宿区)に委託して行った。ヘリコプターによるレーザー測量で、樹種や林齢、材積などを50cmメッシュで表示できる高精度な3次元データを整備。これを地籍情報などと関連づけた「森林データベース」を福島県内で唯一、構築している。

独自に開発したアプリの操作画面

昨年10月から取り組んでいる「新しい林業」モデル実証事業でも、この「森林データベース」が役立っている。高精度の位置情報が得られるGPDを搭載したスマートフォンと独自開発のアプリを使って、「森林データベース」の情報を林内でも手軽に表示できるようにし、境界明確化や路網開設の効率化につなげている。とくに、境界明確化では高い効果を上げており、関係者は、「境界が面白いくらいにわかり、森林の集約化がスムーズに進むようになった」と手応えを話している。

マルチャー、トレーサビリティなど実証、木村副町長が推進役

古殿町で進められている「新しい林業」モデル実証事業では、新技術の導入として、マルチャー(木材破砕機)の導入にあたっては、地拵えなども試行している。マルチャーの導入にあたっては、実証地を4分割し、①グラップル+人力、②グラップルのみ、③マルチャーのみ、④マルチャー+グラップル――という4タイプの地拵え作業を行って、費用対効果などを比較検証している。

また、丸太の高付加価値化へ向けて、QRコードによるトレーサビリティ(生産履歴)の確保にも踏み出している。伐採地の様子などがわかるQRコードを丸太に貼付し、再造林が100%行われていることを対外的にアピールして、環境意識の高いユーザーとのつながりを強めるのが狙いだ。この取り組みが評価され、今年度(2023年度)から町内の製材所と工務店で構成するチームと大型集成材工場との連携事業が始まっており、町産材の需要拡大につながると期待されている。

木村穣・古殿町副町長

一連の実証事業を支えているキーパーソンの1人が、林野庁OBで副町長をつとめる木村穣氏(60歳)。木村氏は、島根大学を卒業して1985年に林野庁に入り、ミャンマーでの海外勤務や四国森林管理局業務管理官、茨城森林管理署長などを経て昨年退職した。すると、町長の岡部光徳氏(64歳)から直接声がかかり、昨年4月に同町の副町長に就任した。木村氏に白羽の矢を立てた岡部町長は、「当町の森林・林業を次のステップに進めるためには、木村さんの力が不可欠であり、副町長に起用した」と説明する。

木村氏は、ドローンやICTの活用など先進技術に通じており、四国局時代には管内の森林管理署や森林組合などにドローンを普及させ、国有林で使用されているドローン運用マニュアルや研修制度の“原型”をつくった。

また、独自に開発した無料アプリ「樹高計測」(英語名「Tree」)は、全世界に約1万人のユーザーがいる。その木村氏は、「基礎となる『森林データベース』の構築などの取り組みがあったからこそ、『古殿モデル』に挑戦できる」と話している。

林業振興の支援メニューが益々充実、「古殿モデル」の確立へ

古殿町長の岡部氏は、4月23日の町長選挙で再選を果たし6期目に入った。一貫して第1次産業の振興に重点を置いた町政を行ってきており、2001年からは町独自の財源を使って「千年の森育成事業」を推進している。同事業の開始当初は国や県の補助への嵩上げや路網開設への助成が主体だったが、徐々に内容を拡充し、現在では、林地残材搬出や間伐材の搬送、里山再生なども補助対象に加え、補助単価も引き上げて、支援メニューを拡充している。このほか、「みなとモデル」への登録や木材乾燥機の導入助成など、林業振興へ数多くの施策を打ってきている。

岡部光徳・古殿町長

同町の民有林の管理・経営は、主にふくしま中央森林組合(福島県小野町)が行っているが、町内には支所がない。また、町内の素材生産業者の多くは国有林の仕事をメインにしており、民有林の活用を担える事業体は限られているのが実情だ。

岡部町長は、「『新しい林業』に取り組むことで町内の事業体の実力が高まっていくだろう」と期待を寄せており、「これまでの蓄積に最新技術などを加えることで『古殿モデル』が確立できる」と前を見据えている。

(2023年4月7日取材)

(トップ画像=木質化された古殿町役場の議場)

『林政ニュース』編集部

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