(中編)東日本大震災から15年を経た福島の再生に挑む【遠藤日雄のルポ&対論】

福島県 森林経営・管理

前編からつづく)甚大な被害をもたらした東日本大震災が発生してから15年が経過した今年(2026年)の3月24日、福島県いわき市四倉町のいわき中核工業団地内で、(株)木環の杜(安永友充社長)が建設を進めてきた最新鋭の大型国産材加工拠点「四倉工場」が本格稼働に入った*1。同社は、住友林業(株)(東京都千代田区、光吉敏郎社長)のグループ会社として2023年11月に発足し、国産スギを2×4材などに加工して新たな需要をつくり出す体制づくりを約3年間かけて進めてきた。3月24日に現地で開催された開業式で挨拶した住友林業の光吉社長は、「四倉工場は『木材コンビナート構想』の第1弾になる」と位置づけた上で、「第2弾・第3弾の工場建設に向けた検討も進めている。2030年をめどに国産材投入量100万m3の達成を目指したい」と意欲をみせた。「四倉工場」は、単なる国産材工場の新設にとどまらず、海外のマーケットも視野に入れた戦略拠点の橋頭堡になるという意味合いも持っている。
では、地元のいわき市で動き始めたこのビッグプロジェクトを田子英司・福島県森林組合連合会会長(兼いわき市森林組合長)はどのようにみているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長との「対論」が進む。

「四倉工場」がもたらすインパクトを福島でどう活かしていくか

遠藤理事長

東日本大震災からの復旧・復興が新しいステージに入ってきていることを象徴しているのが「四倉工場」の操業開始とみていいか。

田子会長

そのとおりだ。大手企業の住友林業がいわき市に進出してきたことのインパクトは非常に大きい。「四倉工場」の年間原木消費量は当面11万m3を目標にしているが、将来的には20万m3に増やす計画があるとも聞いている。いわき市や福島県だけでなく、広く東北や北関東などの林業・木材産業にも様々な影響が出てくるだろう。

3月24日に「四倉工場」の開業式が行われた
遠藤

大型の国産材工場を新設すると地元の既存工場との競合が激しくなり、軋轢が生じることが多い。いわき市の場合はどうだったのか。

田子

「四倉工場」の新設計画が明らかになると、抵抗感を示す製材工場や木材市場などが少なくなかった。「資本力が違う大手が出てくると自分たちのところには原木が1本も来なくなる」という悲鳴のような声も聞こえてきた。その気持ちはよくわかったが、福島県の森林・林業・木材産業を新たな段階に引き上げるためには、「四倉工場」のような新たな取り組みが絶対に必要だと考え、孤立無援になってもいいから関係者への説明や調整にあたった。

手をこまねいては林業を含めた地域経済が成り立たなくなる

遠藤

どうやって関係者の合意をとりつけていったのか。

田子

まず現状をきちんと認識しようと呼びかけた。手入れ不足の人工林が増えているし、値段は安くてもいいから皆伐して再造林はしないという“伐り逃げ”のようなところも出てきている。目の前の実態を繰り返し伝えていくと、私の言い分に理解を示す人が増えていった。
あるときは、「住友林業は来るなということは、今の状況を継続したいと言っているように聞こえる。それで次の世代に森林・林業・木材産業を引き継げるのか」と問いかけた。今のまま手をこまねいては、林業を含めた地域経済が成り立たなくなるという危機感が皆さんの背中を押したのだと思う。

遠藤

一口に地域の関係者といっても様々な立場の人がいるし、利害が錯綜することもある。同じテーブルで議論を深めるのは大変だったのではないか。

田子

当連合会は、いわき木材流通センターなども運営している。その立場も踏まえて、木環の杜の安永社長に、「原木を直送で集めるのではなく、市場を使って調達して欲しい」と要請し、快諾してもらった。

開業式に出席した光吉・住友林業社長(左)と安永・木環の杜社長
遠藤

具体的な原木の流れで、大型工場と共存共栄できることを示しているわけか。

田子

現在は森林組合や素材生産業者などと、「四倉工場」や地元工場などが一体となって、原木の出し方や価格のあり方について定期的な打ち合わせを行っている。再造林可能な価格で持続的に取引できるようにしていきたい。

田村森林組合も原木消費量4万m3規模の製材工場を建設中

遠藤

「四倉工場」のほかにも復旧・復興を前に進める動きはあるのか。

田子

田村市の田村森林組合も年間原木消費量が約4万m3の製材工場を建設しており、国産材を有効活用する“受け皿”が拡充してきている。

遠藤

川下側の体制整備が進むと、川上側の安定供給体制づくりが改めてクローズアップされることになる。

田子

私が生まれ育ったいわき市は、フラガールのイメージが強く「海のまち」と思われがちだが、市域面積の約7割は森林となっている。人工林率も55〜56%と高く、棚倉・矢祭エリアまで続くスギの好適地帯を有しており、これまでも「素直に育つ木で製品としても扱いやすい」と好評を得ている。資源的には、川下側からのニーズに十分に応えられる基盤がある。
東日本大震災と原発事故による放射能汚染で先の見えない時期もあったが、原木に出荷停止規制がかからなかったことは1つのターニングポイントになった。加工した製品ごとに放射性物質の測定証明を付けて出荷するという取り組みを業界関係者が協力して続けてきた。そうした現場の地道な努力が実り、ようやく状況は落ち着いてきている。

遠藤

この15年間で森林の状況はどう変わったのか。

田子

空間線量率の低下を踏まえて所有林に入ってみたら、ちゃんと育っていることが確認できた。伐出して利用できる立木も多く、花粉の少ない品種への植え替えを本格化させる時期が来ていると実感した。
ただし、この15年間の遅れを15年間かけて取り戻すのでは間に合わない。未来につなぐ森林づくりを一段と加速化していく必要がある。(後編につづく)

(2026年3月10日・24日取材)

(トップ画像=スギを原料にしてつくった2×4材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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