森林総研が「木の酒」実用化へ研究棟新設 製造機器を集約、民間への技術移転推進

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森林総研が「木の酒」実用化へ研究棟新設 製造機器を集約、民間への技術移転推進

世界で初めて木材から「お酒」をつくる技術を開発した森林総合研究所(茨城県つくば市)は、実用化に向けた製造拠点となる「木の酒研究棟」(正式名称「木質バイオマス変換新技術研究棟」)を新設し、8月9日に報道関係者らに公開した。

研究棟は、スギCLTなどを使用した木造平屋建てで、延床面積は約140m2。森林総研の内外に分散していた「木の酒」の製造機器を1か所に集め、①チッパー、②粉砕機、③ビーズミル、④糖化・発酵タンク、⑤減圧蒸留機を揃えて一貫製造ができるようにした。同研究棟を活用して、民間企業への技術移転を進め、「木の酒」の商業利用につなげることにしている。

「木の酒」は、木材を細かく粉砕してから湿式ミリング処理によってスラリー(微粒子化した木の高濃度懸濁液)化し、酵素と酵母を混合して製造する(参照、製造特許取得済み)。製造過程で薬剤処理や熱処理を加えることはなく、木材そのものを原料にして、樹種ごとに異なる風味を生み出すことができる。

「木の酒」の製造工程

森林総研は、2018年4月に「木の酒」の製造に成功したことを発表。以降、試験製造を重ねながら製造技術を改善してきた。

湿式ミリング処理を行うビーズミル

新たに研究棟ができたことで、木材仕込み量を実験室段階の0.05㎏から2㎏に増やせるようになった。2㎏のスギからは、アルコール度数35%の蒸留酒がウイスキーボトル(750㎖)1本分できる。直径約50cm、長さ4ⅿのスギ原木(丸太)1本からは100本以上の蒸留酒がつくれると試算されており、商業利用に向けては、量産化体制の構築などが課題になる。すでに、森林総研の技術を使って「木の酒」の蒸留所建設に動き出している酒造メーカーもある。

木材を粉砕しスラリー化したサンプル

スギ、ミズナラなど樹種ごとに特有の香り、ストーリー活かす

8月9日には、研究棟のお披露目とあわせて、「木の酒」の香り体験会も開かれた。

試飲用の「木の酒」

森林総研ではこれまでに、スギ、シラカンバ、ミズナラ、クロモジ、ヤマザクラ、コナラなどの樹種を原料にして試験製造を行い、食品衛生法などに基づいて安全性を確認してきた。また、樹種ごとに特徴的な香り成分に、直接糖化・発酵することによる特別な香りが加わることで、個性豊かな風味が得られることもわかってきた。例えば、スギは樽酒を彷彿とさせるウッディーな香り、シラカンバは白ワインのようなフルーティーな香り、ミズナラはウイスキー樽を思わせる香り、クロモジは柑橘系の爽やかな香り、ヤマザクラは桜餅のような華やかな香り、コナラはバーボンウイスキーに近い香りを持っている。森林総研は、今年度(2023年度)から一部の樹種について試飲アンケート調査も始めており、消費者の反応などを製造過程に反映させていく方針だ。

「木の酒」は、樹種の違いだけでなく、原料となる木が育った森林の環境や、長年にわたって積み重ねられた年輪といった空間的、時間的価値を製品に落とし込むこともできる。技術開発を担当している森林総研微生物工学研究室の大塚祐一郎・主任研究員は、「森林からの湧水を仕込み水として使用するなど酒造りのストーリーを組み合わせることで、地域を象徴する特産品にすることができる」と話しており、国内林業の振興や国産材の需要拡大にもつながると位置づけている。

(2024年8月9日取材)

(トップ画像=木の酒研究棟(正式名称「木質バイオマス変換新技術研究棟」)の外観)

『林政ニュース』編集部

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