未利用材を“屋外”で活かす! RPL成形を駆使するe2m(イートゥーエム)【突撃レポート】

未利用材を“屋外”で活かす! RPL成形を駆使するe2m(イートゥーエム)【突撃レポート】

国内住宅市場が縮小する中で、木材利用拡大の新たなフィールド(領域)として注目されているのが“屋外”だ。公園のベンチや歩道、休憩所などを手軽に木造・木質化できるようになれば、大きな木材需要が生まれるだけでなく、地域経済の活性化や生物多様性の保全など様々な波及効果が見込める。ただ、高温多湿で豪雨災害などが頻発する日本では、腐りやすい木材を屋外で用いることは半ばタブー視されてきた。ところが、この現状を突き破れるような新しい製品が開発され、じわじわと評価を高めている。最前線の状況をお伝えする。(文中敬称略)

茅ヶ崎市に残る貴重な自然「清水谷(しみずやと)」を守り、伐出材も再利用

日本を代表するポップバンド・サザンオールスターズの聖地・茅ヶ崎市(神奈川県)。誰もが“湘南の海のまち”をイメージする。だが、同市には、北部を中心に約226haの民有林があり、“緑が濃いまち”でもある。その一角で今、チャレンジングな事業が行われている。

事業地の名は「清水谷(しみずやと)」。広さは約4.9ha。

かつて、同市北部から隣接する藤沢市の西北部には「九十九谷戸(くじゅうくやと)」と呼ばれる大小の谷戸(山あいの低湿地)があり、豊かな自然環境を形成していた。これらの谷戸のほとんどは産業廃棄物の処分地などとして埋め立てられたが、「清水谷」は市民の反対運動が契機となって1990年に同市が一部を借地し、2012年には特別緑地保全地区に指定して、貴重な自然を守り続けている。

だが、時の経過とともに樹木の大径化やナラ枯れの拡大などが進み、新たな対応策が必要になってきた。そこで同市は、今年(2024年)3月に「清水谷」に関する保全管理計画を改定し、定期的な伐採など積極的に手入れをしていく方針を示した。その一環として、「清水谷」から伐出される木材を再利用し、資源循環の輪を広げることにしている。財源には、森林環境譲与税を利用している。

木材に樹脂を含侵させて対候性などを高める、湿地に木道整備

JR茅ヶ崎駅のほど近く、茅ヶ崎市美術館のある高砂(たかすな)緑地に1基の木製ベンチがある。一見すると何の変哲もないベンチだが、風雨にさらされても劣化しないように特殊な加工が施されている同市内の「市民の森」にも同様のベンチがあり、「清水谷」から伐出されたナラ枯れ材が使われている。

RPL成形を施したベンチ

これらのベンチに用いられているのは「RPL成形」と呼ばれる手法。RPLとは、レジン・プロテクテッド・ランバーの略。木材に樹脂(レジン、resin)を含侵させて対候性や強度などを高める新しい技術だ。

同市は、「清水谷」から出てくる木材を市民に身近な公園などで再利用することにしている。その際にネックになるのがメンテナンス(保守・管理)だ。屋外での長期使用に耐え、木材本来の色合い等を保てる加工手法を求める中で行き着いたのがRPL成形だった。同市景観みどり課の担当者は、「コスト的にも問題なく採用できている」と評価する。

同市は、RPL成形によるベンチ製作の実績を踏まえ、今年度(2024年度)から新たな木質化プロジェクトに着手している。それは、「清水谷」の木道の整備。市民が通行する木道の手入れには、手間もお金もかかる。さりとて、コンクリート製にするわけにはいかない。そこで、RPL成形による木道を敷設することにした。

谷戸、すなわち湿地は、木材にとって最も過酷な使用環境と言える。だが、RPL成形を手がけている(株)e2m(イートゥーエム、神奈川県藤沢市)社長の片岡輝芳(49歳)は、「大丈夫ですよ」と涼しい顔で話す。

変色しづらい・腐りにくいなど、注文に応じて独自の性能付与

片岡は、昨年(2023年)10月に、ベンチャー企業としてe2mを立ち上げた。それまでは船舶装備の企業に勤め、護衛艦などの補修にも携わったが、外国産の木材ばかり使用されていることに疑問が膨らんだ。何とか国産木材を“強く”して使えないかと考え、液体ガラスなど様々な加工手法を試みた末、RPL成形がベストとの結論に至り、広く普及するため起業に踏み切った。

片岡輝芳・e2m社長、脇を通る木道をRPL成形によって整備することにしている

PRL成形を施した木材は、①紫外線にさらされても変色しづらい、②不朽菌やカビ菌が繁殖しづらい、③酸性やアルカリ性が強い温泉でも使用できる──などの特性を持つ。高知県木材協会と連携して行っている人工的な促進耐候試験では3,000~5,000時間(6~10年の屋外暴露相当)経っても試験木材に変色や割れは発生せず、東京都立産業技術センターに依頼した物性試験では圧縮強度がスギの約4倍、硬度は約8倍というデータが得られている。

片岡によると、RPL成形の最大の特長は、「様々な樹脂を配合することで木材に独自の性能をつけられる」こと。注文に応じて、変色しづらい木材にするか、腐りにくい木材にするか、自由自在にアレンジできる。樹脂の最適ブレンドや木材への含侵割合などに関する研究を日々重ねており、今後は防火性能などを付与することも視野に入れている。

片岡のもとには、口コミを中心にしてRPL成形に関するオーダーが続々と寄せられている。茅ヶ崎市のほかにも、藤沢市や山梨県丹波山村などにRPL成形の木製ベンチを設置したほか、宮城県石巻市では学校机にRPL成形の天板を使うなど採用事例が増えてきた。今はさざ波のような取り組みがやがて大波に育っていく──そんな予感が漂っている。

(2024年5月27日取材)

(トップ画像=特別緑地保全地区に指定されている「清水谷」)

『林政ニュース』編集部

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