都心の一等地で薪を販売!産地と直結する風見燃料店【突撃レポート】

関東地方 特用林産

都心の一等地で薪を販売!産地と直結する風見燃料店【突撃レポート】

首都・トーキョーのど真ん中に、薪屋がある。その店の名は、(有)風見燃料店(東京都中央区日本橋、風見和由社長)。創業80年を迎えようとしている同社は今、繁忙を極めている。首都圏で増えてきたピザ屋など飲食店向けの薪の販売が好調だからだ。看板も掲げず、営業もしないという同社が、産地と消費地をつなぐ貴重な役割を果たし続けている。(文中敬称略)

月間1万2,000~1万3,000束の薪を販売、約100店に配達

地下鉄人形町駅から歩いて5分ほど。ビルの谷間に、取り残されたような木造家屋がある。これが東京の薪屋・風見燃料店の本拠地だ。といっても、看板があるわけではなく、店の前に薪の束が積み重ねられているだけ。「通りすがりの人から、お風呂屋さんですかと言われることもある」と、社長の風見和由(61歳)は苦笑する。だが、この薪の山がなければ商売が始まらないという飲食店が首都圏には多い。

風見和由・風見燃料店社長

同社は現在、月に1万2,000~3,000束の薪を販売しており、年間の売上高は約1億円に達する。日本橋の本拠地のほか茨城県内に倉庫を持っており、東京都内と横浜を中心に約100店に及ぶ飲食店へ、日々薪を届け続けている。

主力商品であるナラの尺六、定価は750円

取り扱っている薪のメインは、尺六(長さ48㎝)と尺二(同36㎝)のナラで、このところ増えてきたピザ屋に納めることが多い。このほか、クヌギやスギの薪、さらに注文に応じてサクラの薪なども取り揃えている。

社員2人の超コンパクト経営、関東の業者から直接仕入れ

風見燃料店の中に入ると、ここにも薪が天井まで積み上げられている。その片隅にある机と電話・ファクスが「受付兼受注センター」だが、同社に電話をかけても、不在であることが多い。午前、午後と薪の配達業務に追われているからだ。

いったい何人でやっているのかと聞くと、「正社員は私と家内(世喜子)の2人だけ」という意外な答えが返ってきた。配達のドライバーらは契約社員であり、同社は極めてコンパクトな体制で雑多な業務をこなしている。

同社の設立は、昭和9年。風見の父である傳次郎が、郷里の茨城県から東京に出てきて秋葉原の炭問屋で丁稚奉公した後、独立して開業した。燃料革命で石油やガスが普及するまでは、東京にも炭や薪の小売店が数多くあった。それが次々に消えていく中で、同社は産地とのつながりを守り続けてきた。現在も、福島、群馬、埼玉、茨城など、関東各県の産地業者から薪を仕入れている。農協から購入することはせず、「ほとんどが自営に近い個人の荷主さんから」。なかには、月の取引額が200万円近くになる業者もあるという。

土日は定休日だが、「土曜はたいてい店に出ている。電話がかかってくるから」と話す風見社長

放射能被害を受けた福島産も安全検査をして取引継続

風見燃料店が扱っている薪の最大の供給源は、福島県。だが、一昨年3月の原発事故による放射能汚染で、「一時は仕入れを止めようかとも考えた」という。

原発事故後、風評被害もあって、倒産や自主廃業に追い込まれた産地業者が少なからずあった。一方、首都圏の、とくにファミリー層を顧客とする飲食店は放射能問題に神経質になっていた。その中で、福島産の薪を販売し続けられるのか……。悩んだ末、風見は仕入れの続行を決めた。「私も2代目だが、産地の業者も2代目、3代目。お父さんやおじいさんの顔が浮かんでくるから、(つながりを)切るというわけにはいかない」と腹を決めたのだ。

福島産の薪については放射能に関する検査を毎回のように行って、安全性を確認してきた。今でも抜き打ち検査を怠らない。不安感を持つ飲食店からは、薪を燃やした後の灰をもらってきて、自主検査を実施している。検査費用はバカにならないが、「データを見せれば、大丈夫だとわかってもらえる」。

流行の先進地ほど薪を好む、炭とあわせて年商3億円

風見燃料店は、ラオス産の輸入炭も扱っており、その年間売上げは2億円近くになるという。薪と炭で約3億円の年商が、日本橋の一等地で生み出されているのは驚きだ。風見は、「業務用の薪がここまで伸びるとは思わなかった」と率直に言う。

同社は、5~6年前までは灯油の販売もしていたが、将来性がないと見切って止めたという。「再開発でビルができると冷暖房はみんなエアコンになる。それまでのお得意さんがいっぺんになくなっちゃうんだから」。

一方、都心にある大使館やホテル、高級住宅などは、たいてい暖炉を備えており、一定量の薪が使われている。ここに、飲食店を中心とした業務用需要が加わってきた。とくに、「六本木など流行の発信地にあるピザ屋さんほど、薪にこだわる傾向がある」。

薪の仕入量を増やし始めたとき、本当に東京で売れるのか?と、同業者からも訝(いぶか)しがられたという。だが、薪の販売量は順調に増え続け、「もう、うちの規模では手一杯」というところまできた。

「業務用の薪は1年を通して売れるので、産地の仕事や雇用も安定する」と、風見は話している。戦前から築き上げてきた信頼の絆が、トーキョーに潜在していた“木の需要”を、着実に掘り起こしている。

スギの薪は焚き付けや火力調節用に使われる

(2013年9月18日取材)

(トップ画像=都心の一等地にある風見燃料店)

『林政ニュース』編集部

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