【現場ルポ】1年3か月ぶりに“休眠”から醒めた朝来バイオマス発電所

兵庫県 木質バイオマス

【現場ルポ】1年3か月ぶりに“休眠”から醒めた朝来バイオマス発電所

一昨年(2022年)12月に稼働停止に追い込まれた朝来(あさご)バイオマス発電所(兵庫県朝来市)*1*2が4月から営業運転を再開した。官民連携の「兵庫モデル」で運営してきた同発電所は、燃料材の調達難などで経営が行き詰まり、昨年(2023年)7月に大東建託(株)(東京都港区)へ事業を譲渡(譲渡額は非公表)、同社は9月に運営会社となる大東バイオエナジー(株)(同、大久保孝洋社長)を設立して再稼働の準備を進めてきた*3。1年3か月ぶりに“休眠”から醒めた同発電所の最新状況をお伝えする。

「RE100」達成目指し発電所取得、グループで電力を活用

大東建託が朝来バイオマス発電所を傘下に収めたのは、消費電力を100%再生可能エネルギーで賄う国際的なイニシアチブ「RE100」を達成するためだ。

同発電所で生み出される5,600kWの電力は、電力小売会社を経由して大東建託グループの西日本の事業所(274か所)に売電する。これにより再生可能エネルギーの国内導入率は50%に達する見込みだ。大東バイオエナジーの大久保社長は、「グループ内で電力の供給と消費をともに手がけることで電力価格などを適正に調整できる」とメリットを語る。

大久保孝洋・大東バイオエナジー社長

電力の売買にあたっては、FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を利用する。当初は、FIT制度を利用せずに再稼働する計画だったが、「固定価格買取制度を利用した方がスタートを早められると判断した」と大久保社長は口にし、「時期を見て(市場価格に連動する)FIP(フィードインプレミアム、Feed-in Premium)制度に移行し、自立的な運営を目指す」との方向性を示した。

燃料材のストライクゾーンを広げ、「1年目から黒字化する」

朝来バイオマス発電所の操業を軌道に乗せるカギは、燃料材の安定的な確保になる。この点について、大久保社長は、「受け入れる燃料材のストライクゾーンを広げていく」と力を込めた。

同発電所は再稼働にあたり、移動式チッパーと、チップをふるいにかける移動式スクリーンを新たに導入した。同発電所に併設しているチップ工場は直径35cm以下の原木しか粉砕できないが、移動式チッパーならば大径材や枝条、根株も燃料用チップに加工できる。併せて、移動式スクリーンを用いることで、様々なサイズのチップを一定のサイズに揃えてバイオマスボイラーに投入できるようになる。

同発電所が使用している燃料材の内訳は、95%が未利用材、5%が関連会社からの工場端材。2台の機械を活用して「間口」(ストライクゾーン)を広げたことで、燃料材を納品するトラックは約50台に増えた。

同発電所がある地域は、「弁当は忘れても雨具を忘れるな」といわれるほど降水量が多い。だが、受け入れているチップの含水率には特段の制限を設けず「間口」を優先する。土場には1年近く天日干しした原木も積まれており、「全体的に含水率を45%前後に調整できている」(大久保社長)という。

近畿・中部地方では、木質バイオマス発電所が続々と竣工・稼働しており、燃料材を取り合う状況も散見されるが、大久保社長は、「我慢比べをしても勝てる」と自信をみせ、「1年目から黒字化する」と力強く話した。

なお、大東バイオエナジーは、3月27日に地元の朝来市との間で「災害時における物資供給に関する協定」を締結した。同発電所を安定稼働させながら、非常時にはEV車両を通じた電力の提供などを行って、地域貢献にも寄与していく構えをとっている。

(トップ画像=新たに導入した移動式チッパー)

『林政ニュース』編集部

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